詩《うた》をきかせて

生永祥

文字の大きさ
12 / 54

☆第12話 フルーツキャンディ

しおりを挟む

 すると教室の出入り口のところで、大賀の横に並んで立っていた笹野明博ささのあきひろが、すっと小夜子の隣にやって来て小さな声で声を掛けた。

「立花さん、大丈夫?」

 突然明博に声を掛けられ、驚いた小夜子はどもりながら明博に返事をした。

「わ、私は大丈夫だけれど、あっちの二人が……」
「あぁ、あれは二人のスキンシップみたいなものだから。立花さんが気にすることはないよ」

「そんなところにずっと立っていたら寒いよ」と言って、明博は小夜子を教室の中へと誘った。そして教室の出入り口の引き戸を静かに閉じて、小夜子の方へと振り返る。

 しかしそんな明博の様子に気が付くことも無く、小夜子はまだ口論が続く二人の様子をぼんやりと見ていた。

 大賀と美香の様子を黙って見ていた小夜子の頭の中は、ずっと若菜のことでいっぱいだった。自分のせいで若菜が大変な思いをしているのかと思うと、とても胸が痛くなる。
 それを察したのか、明博が小夜子の顔を覗き込んでこう言った。

「若菜先生なら大丈夫だよ」
「え、え?」

 その言葉に、小夜子は慌てて明博の方へと振り返る。

「だから安心しなよ」と言って、明博は床に置かれていた小夜子の鞄を手に持つ。そして廊下側の前から3番目の席の横に、小夜子の鞄を置く。
 その行動と言葉に驚きながら、小夜子は明博の後を付いて行った。

「……さ、笹野くん」
「うん?何?立花さん」
「で、でも若菜先生、さっき、入院したって……」

 スカートの裾をぎゅっと握りしめながら、小夜子は明博の方を向いた。
 明博はスカートの裾を握りしめる小夜子の両手が、小刻みに震えている事に気が付いた。
 そんな小夜子に微笑みかけながら、明博は穏やかな声でこう言った。

「立花さんが心配することは無いよ。若菜先生、今日は研修でお休みらしい」
「え、え?」
「さっき大賀と一緒に、職員室に行って確認してきたから、間違いないよ」

「きっと噂が一人歩きをしたのだろうね」と続けながら、明博は小夜子の顔を覗き込んだ。

「それにね。僕と大賀が、昨日の立花さんと若菜先生の様子を見ていたのだけれど。立花さんは自分の鞄を若菜先生の足にぶつけただけでしょう?確かに痛そうだったけれど、あれで入院するような先生ではないよ」

「だからそんな顔はしない」と言いながら、明博は鞄に入れていたフルーツキャンディをひとつ取り出し、それを小夜子に手渡した。

「食べると落ち着くよ」

「あっちの二人にも渡したら落ち着くかな?」と言いながら、明博はまだ激しく口論を続けている大賀と美香の間に割って入った。
 突然明博にキャンディを手渡された二人が、拍子抜けをして口を閉ざす。

 その様子を見つめていた小夜子はようやくほっとして、震える手でキャンディの透明な包み紙を開いた。封を切ったキャンディを勢いよく口に含む。
 すると檸檬の甘酸っぱい香りが、小夜子の鼻孔を強く刺激した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

哲子67歳★恋して焦げて乱れ咲き♪

obbligato
恋愛
67歳、二次元大好き独身女子のぶっとんだ恋愛劇。 ※哲子は至って真面目に恋愛しています。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

そうして君は僕を知る

琉慧
恋愛
 人は誰しも、他人には明かす事の出来ない悩みを持っている。 綾瀬優紀も例に漏れず、とある悩みを抱える高校生であった。  悩みとは、誰かに打ち明け、共感を得る事によって状態が好転する場合もある。 しかし彼の場合、自らの抱える悩みを打ち明かしたとしても、誰からも共感される事など無いだろう。  だから彼は語らない。 その頑なな黙秘が自分を騙し続ける行為であると知りながらも。 「僕は私(ぼく)を認めない」

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...