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第四章 褐色肌の歌い手はジゴロ……?
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休日の夕方。帝都中心部の円形劇場。
「ついに……ついにこの日が来たね」
「チケット買いに徹夜して並んだ買いがあったわ」
「販売開始からあっという間に完売だったもんねー」
開演前の入り口に並ぶ女性たちは高揚している。
本日は、今や王国中にその名を轟かせる大物の歌い手の舞台が開かれる。チケットの倍率は500倍とも1000倍とも言われ、いわゆる転売屋やダフ屋も横行した(王国では犯罪行為であるため、厳しい取り締まりの対象になった)。誰しもがスケッチブックや旗指物に応援のフレーズを書いて持ち歩いている。自分たちが彼をどれだけ推しているかアピールするために。
「お待たせ致しました。それでは、入場を開始します」
「押さないでください!1カ所に立ち止まらないように!」
「そこの人!走らないで!危険ですから!」
列の整理をする係員の怒鳴り声が、そこかしこに響く。興奮しているファンたちは、なかなか言う通りにしてくれない。それでも、整然と列を進めるのが彼らの仕事だ。多少の混乱はありながらも、全ての観客を席につかせることができた。
ざわざわ。
劇場の照明が落とされ、うっすらとした夕日だけが中央の舞台を照らす。南側のゲートが開き、人影が優雅な動作で歩いてくる。彼が舞台の中央に立ってしばし。照明が照らされ、魔法で作られた光の渦が彩る。
今や押しも押されぬ歌い手、フリードリヒ・ロビンシュタインだ。20歳。細身の長身で、一見女かと見まがうジェンダーレスなイケメン。褐色肌と流れるようなロングの黒髪。思い切り攻めた舞台衣装が美しい。
楽器の演奏が始まり、力強い歌声が円形劇場の隅々まで響く。空気を揺さぶり、魂まで揺さぶるがごとく。これだけ声が出ているというのに、軽快で複雑なダンスを同時にこなす。努力や経験だけではなしえない。天才のなせる術だ。
歌が終わり、締めのポーズもきれいに決まる。会場中から完成があふれた。そしてそれは終わりではなく始まりだった。呼吸を整え次の歌が始まる。フリードリヒの褐色の肌に玉の汗が浮かび、照明に美しく映える。劇場のボルテージは高止まりして、誰もが常ならぬテンションで応援し続ける。歌い手と観客が一体となり舞台を作っていた。
……………………………………………………
「今日はお疲れ様。素晴らしい舞台だったよ」
「うん。ありがとう。来てくれて嬉しかったぜ」
舞台終了後、フリードリヒは旧友であるフェリクスと過ごしていた。王都の郊外にある一流どころの旅籠で。互いに裸で。大人になってもふたりの習慣は変わらなかった。人が見ていないところでは裸族で、基本的に生まれたままの姿で過ごす。
「でもよかったのかい?打ち上げ抜けてきちゃって」
「いいんだよ。俺がフェリクスと過ごしたいんだから」
苦笑する旧友に、美貌の歌い手はこともなげに応じる。
相変わらずマイペースで自由なところは変わらない。芸能人であればそれなりにしがらみがあり、そうそう自由がないのが普通だ。スポンサーがついて客受けがよくなければ食っていけないのだから。が……
(なんで打ち上げなんかに金使うんだかなあ……)
フリードリヒにとっては、芸能界の煩わしい慣習や決まりごとなどどこ吹く風だった。通常なら芸能人というのは、関係各所に頭を下げて必死で客の喜ぶものを提供する。その努力を怠ることはない。だが、天才である彼は例外だった。愛想など売らずともスポンサーの方から寄ってくるし、ファンは純粋に彼の歌とダンスに惚れている。
天才に愛想や駆け引きなど不要という生きた見本だった。だからこうして、舞台後の打ち上げの主役が早々に抜けて友人と会うことも許されている。
「でも、今のオレはしがない商売人だ。フリードリヒ様と酒を飲んでるなんてなんだか畏れ多くてさ」
「そんなの関係ないじゃん。俺は貴族や金持ちたちとどんちゃん騒ぎするより、お前と一緒に飲むのが性に合ってるんだから」
夜光の杯に注がれたワインを飲み干しながら、フリードリヒが応じる。
(遠くに来ちまったな……。俺はフェリクスとずっと一緒がいいのに……)
そんなことを思う。
かれこれ10年以上の付き合いだが、進んだ道はだいぶ違った。フリードリヒは芸能界に入り、フェリクスは付き合いのある商家に店員として就職した。住む世界は全くことなり、時間も合わない。こうして会って酌み交わせる時間は貴重なのだ。
「ついに……ついにこの日が来たね」
「チケット買いに徹夜して並んだ買いがあったわ」
「販売開始からあっという間に完売だったもんねー」
開演前の入り口に並ぶ女性たちは高揚している。
本日は、今や王国中にその名を轟かせる大物の歌い手の舞台が開かれる。チケットの倍率は500倍とも1000倍とも言われ、いわゆる転売屋やダフ屋も横行した(王国では犯罪行為であるため、厳しい取り締まりの対象になった)。誰しもがスケッチブックや旗指物に応援のフレーズを書いて持ち歩いている。自分たちが彼をどれだけ推しているかアピールするために。
「お待たせ致しました。それでは、入場を開始します」
「押さないでください!1カ所に立ち止まらないように!」
「そこの人!走らないで!危険ですから!」
列の整理をする係員の怒鳴り声が、そこかしこに響く。興奮しているファンたちは、なかなか言う通りにしてくれない。それでも、整然と列を進めるのが彼らの仕事だ。多少の混乱はありながらも、全ての観客を席につかせることができた。
ざわざわ。
劇場の照明が落とされ、うっすらとした夕日だけが中央の舞台を照らす。南側のゲートが開き、人影が優雅な動作で歩いてくる。彼が舞台の中央に立ってしばし。照明が照らされ、魔法で作られた光の渦が彩る。
今や押しも押されぬ歌い手、フリードリヒ・ロビンシュタインだ。20歳。細身の長身で、一見女かと見まがうジェンダーレスなイケメン。褐色肌と流れるようなロングの黒髪。思い切り攻めた舞台衣装が美しい。
楽器の演奏が始まり、力強い歌声が円形劇場の隅々まで響く。空気を揺さぶり、魂まで揺さぶるがごとく。これだけ声が出ているというのに、軽快で複雑なダンスを同時にこなす。努力や経験だけではなしえない。天才のなせる術だ。
歌が終わり、締めのポーズもきれいに決まる。会場中から完成があふれた。そしてそれは終わりではなく始まりだった。呼吸を整え次の歌が始まる。フリードリヒの褐色の肌に玉の汗が浮かび、照明に美しく映える。劇場のボルテージは高止まりして、誰もが常ならぬテンションで応援し続ける。歌い手と観客が一体となり舞台を作っていた。
……………………………………………………
「今日はお疲れ様。素晴らしい舞台だったよ」
「うん。ありがとう。来てくれて嬉しかったぜ」
舞台終了後、フリードリヒは旧友であるフェリクスと過ごしていた。王都の郊外にある一流どころの旅籠で。互いに裸で。大人になってもふたりの習慣は変わらなかった。人が見ていないところでは裸族で、基本的に生まれたままの姿で過ごす。
「でもよかったのかい?打ち上げ抜けてきちゃって」
「いいんだよ。俺がフェリクスと過ごしたいんだから」
苦笑する旧友に、美貌の歌い手はこともなげに応じる。
相変わらずマイペースで自由なところは変わらない。芸能人であればそれなりにしがらみがあり、そうそう自由がないのが普通だ。スポンサーがついて客受けがよくなければ食っていけないのだから。が……
(なんで打ち上げなんかに金使うんだかなあ……)
フリードリヒにとっては、芸能界の煩わしい慣習や決まりごとなどどこ吹く風だった。通常なら芸能人というのは、関係各所に頭を下げて必死で客の喜ぶものを提供する。その努力を怠ることはない。だが、天才である彼は例外だった。愛想など売らずともスポンサーの方から寄ってくるし、ファンは純粋に彼の歌とダンスに惚れている。
天才に愛想や駆け引きなど不要という生きた見本だった。だからこうして、舞台後の打ち上げの主役が早々に抜けて友人と会うことも許されている。
「でも、今のオレはしがない商売人だ。フリードリヒ様と酒を飲んでるなんてなんだか畏れ多くてさ」
「そんなの関係ないじゃん。俺は貴族や金持ちたちとどんちゃん騒ぎするより、お前と一緒に飲むのが性に合ってるんだから」
夜光の杯に注がれたワインを飲み干しながら、フリードリヒが応じる。
(遠くに来ちまったな……。俺はフェリクスとずっと一緒がいいのに……)
そんなことを思う。
かれこれ10年以上の付き合いだが、進んだ道はだいぶ違った。フリードリヒは芸能界に入り、フェリクスは付き合いのある商家に店員として就職した。住む世界は全くことなり、時間も合わない。こうして会って酌み交わせる時間は貴重なのだ。
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