百合ハーレムファンタジー 婚約破棄された令嬢に転生したけど心は男のままだった

ブラックウォーター

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優しくて真面目な先生だって私にかかれば

可愛い問題児

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06

 さて、学院祭前日。
 「ちょっとパトリシアさん。なに作ってるの!?」
 駆けつけてきたアリサが大声をあげる。パトリシアの指図で、大工たちによって、アトラクションの予定にない物が作られているのだ。
 「なにって龍小屋ですが…」
 パトリシアがしれっと答える。
 杉の板で建造されているそれは、一見して犬小屋のように見える。
 だが、大きさが問題だ。下手な一戸建ての住宅よりも大きい。それでいて、窓がなく正面に巨大な入口と、屋根の下に通気口があるだけだ。内部も部屋どころか柱さえない、だだっ広い構造になっている。
 あまつさえ、“どらごんしーざー”と書かれた木の表札が、入口の上に打ち付けられている。
 「さて、ちょっと大きさと中の余裕を確かめてみますか」
 「ちょ…ちょっとまさか…」
 アリサの疑念には答えず、パトリシアは腰のさやから奏獣剣を抜くと、演奏を始める。
 単調だが美しいメロディーの繰り返しが響き渡る。
 お目当ての影はすぐに上空に現れた。
 銀を基調に、黒や緑のトリコロールの、巨大な影。
 龍帝が空を舞っているのだ。
 「ゆっくり降りて来て-!」
 龍帝は間違っても校庭の生徒たちを踏みつぶすようなことがないようにと、慎重に降りる場所を探す。
 そして、強大な身体にも関わらず、ふわりと着地した。
 「龍帝、あなたの家だよ。ちょっと入ってみて」
 龍帝はためらいがちに翼をたたみ、後ろ向きに龍小屋に入る。
 巨大でだだっ広いスペースは、龍帝がすっぽり入ってなお余裕がある。
 なかなか快適なようだ。
 「いい感じじゃないの」
 「良くないわよ!」
 満足げなパトリシアに、アリサが突っ込みを入れる。
 「学院の敷地にこんなもの建てるなんて聞いてないわよ!
 しかも、龍帝がここで寝泊まりするなんて」
 相変わらず龍帝に苦手意識のあるアリサは、大声をあげながらも顔中に汗をかいている。
 「でも、学院祭のアトラクションで彼を展示することは申告してますが…」
 パトリシアが最近龍帝の協力を得て害獣駆除をしているのは、有名な話だ。
 最近猟友会と農業組合から感謝状をもらったし、州知事からも表彰されている。
 “ひとつ彼をアトラクションに組み入れてはどうか”というパトリシアの提案は、学院祭の実行委員会に認可されたのだ。
 「ここに龍帝が住むってことまでは申告してないでしょう?
第一、 みんなが怖がるじゃないの!」
 そう突っ込むアリサに対し、パトリシアは龍小屋の方を指さす。
 「すげえ、本当にドラゴンだ」「でっけえ歯だな」「けっこう大人しいのね」
 龍小屋には、物珍しさに引き寄せられた生徒たちの人だかりができている。
 パトリシアになついていることは知っていても、あの巨大な顎と歯、鋭い爪を怖がらないのは大物ぞろいと言えた。
 「と…とにかく!こんなところに大きな小屋建てられちゃ邪魔になるでしょ!」
 「じゃあ、学院祭の間だけ。終わったら移築しますから」
 パトリシアの妥協案に、アリサはしぶしぶという感じで「わかりました」と同意する。
 そして、額に拳を当てて、笹穂耳をぴくぴくと動かす。エルフが困惑している時の仕草だ。
 「ねえパトリシアさん。あなたどうしてしまったの?
 以前のあなたは、こんな破天荒なことする生徒じゃなかった。
 むしろ、無趣味で真面目すぎるところが心配なくらいだったのに」
 パトリシアはぎくりとなる。
 よもや、前世で男だった記憶が蘇ったからと言っても信じてはもらえないだろう。
 だが、明らかに前世の記憶が蘇る前とは変わった自覚はあるのだ。
 ともあれ、ここは煙に巻いておくのが得策だろう。
 「頭を打って打ち所が悪かった」
 「え…」
 パトリシアがぽつりとつぶやいた言葉に、アリサが眉をひそめる。
 「まあ、そういうことにしておいて下さい。
 今となっては変わって良かったと思ってますよ。
 そうでなければ、先生を好きになることもなかったでしょうから」
 「や…やめてよ。こんなところで…」
 アリサが、褐色の頬を赤く染める。
 ふつうに聞けば、教師と生徒、あるいは友人として好きという風に聞こえただろう。
 だが、アリサにしてみれば、教師と生徒で愛し合っていることを人の耳があるところで言われたことになるのだ。
 アリサは「はあ…」と大きくため息をつく。
 「手間のかかる子ほど可愛いと言うけど、先生心配だわ。
 あなたが卒業までなにをこれ以上やらかすかと思うと…」
 困惑するアリサに、パトリシアはにっこりと微笑む。
 「卒業までなんて寂しいことを。
 先生はこれからずっと私のものですからねー。好きですよ」
 「お…お馬鹿さん…!」
 そう言ったアリサの声は、拒絶するものではなく、顔はさらに真っ赤になっているのだった。
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