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04 関東の甘計編
乙女の恥ずかしい悩みと上杉の義
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06
3日後
織田勢の総本部の館。
織田に下ることを決意した氏康は、信長の拝謁していた。
「北条は今日より織田に臣従し、忠義を尽くすことを誓います。
合わせて、上野西部より手を引くことを約し、武田家に謝罪いたします」
氏康は平伏して宣誓する。
「まあ表を上げなさい。
話はわかった。和議の条件も異存はない。
だが、どういう風の吹き回しかな?
織田に対して一番強硬だったのはあなただと聞いていたが?」
この拝謁の前に、今川の仲介のもと、織田と北条の者たちによって話し合いが持たれた。
信長も勝者としては寛大な条件で和議に応じた自覚はある。が、それでも急に氏康が臣従を受け入れたのが不思議だったのだ。
「籠絡されたのです。
貴家の茶人と、武将の方に」
氏康がさらりと答える。
織田、徳川の武将と自衛隊の幹部たちの視線が一斉に田宮に集中する。なにか根拠があるわけではないが、籠絡と言うと田宮の仕事のように思えたのだ。
田宮自身も、やったことがことだけに視線が痛かった。
氏康の名誉のために、小田原城であったことの子細は伏せられているが、人はわからないことを想像で補うのが大好きな生き物だ。
噂には尾びれ背びれがついて、駆け巡った。男嫌いの氏康が男を知ったことで考えを変えたとか、氏康には女色の趣味があり、美しい女性にたらしこまれたとか、口さがないうわさ話になっているのだ。
「あなたを籠絡したほどの人物だ。素敵なお人だったのだろう?」
「は…はい…。とても素敵な方でした…」
氏康が耳まで真っ赤になりながらためらいがちに言う。
信長は安心する。すっかり心奪われ、女の芯を蕩かされている。これだけメロメロなら、氏康が織田を裏切ることはないだろう。
これをなしたのが自分の夫で、やり方がかなりアレなのが複雑な気分だった。が、信長は男嫌いの相模の獅子を恋する乙女にしてしまった”戦果”に満足した。
(知、後で埋め合わせはしてもらうからな)
が、やはり信長は、胸の奥がもやもやしてそんなことを思わずにはいられないのだった。
何はともあれ、小田原攻めは織田の勝利に終わる。
自衛隊にとっても、武田との戦いの時のように敵味方に大量の戦死者を出すことも、燃料や弾薬を浪費することもなく決着が着いたのだから万々歳と言えた。
たとえ、北条が和平に傾いたのが、”宿儺”と”V2”をめぐるいざこざと言う偶発的な事態であったとしてもだ。
翌日。武蔵、江戸。
「しかし、本当によろしいのですか?割譲する土地がこんな何もないところで」
自衛隊の視察に同行している早雲が、いまだに信じられないという様子で問う。
実際、太田道灌が放棄して以来、荒れ果てた江戸城がある以外は田畑すらない原野に過ぎない。
「何もないところだからこそ、家を建てて町を作るのにやりがいがあるということもあります」
陸自統括の木場一等陸佐が、周囲を写真に収めながら応じる。自衛隊が織田家でなく、自衛隊自身の領土として割譲を要求したのが武蔵の中でも、東京23区に相当する部分だった。
史実では徳川家康が何もない原野だった土地を地ならしして町を作り、やがて大都市とした場所。そして、明治維新の後に東京となり、21世紀では1000万人が暮らす空前の大都市に発展する。
この世界では、家康は江戸とかかわりを持たない。関東の政治の中心は依然として小田原にある。
となれば、誰も手をつけていないうちに自分たちが手に入れて町を作ってしまおう。それが自衛隊の意向だった。まあ、神田山を切り崩して造成し、遠くの川からから水を引いてと面倒な仕事が山積みだが、やってみる価値は大いにある。
その後は少しずつでも町を工業化して、製造した製品を日本全国、いや、海外にまで売り込む。巨大な商売を行うのだ。
まずは市ヶ谷に相当するところに、自衛隊の総司令部を作ってみるか。
木場はそんなことを考えていた。
さて、所変わってこちらは小田原城。
「あ、氏康さま。こんにちは」
「た…田宮…!?ううーーっ…!」
田宮の姿を見た氏康はすさまじい勢いで耳まで真っ赤になり、その場から走り去る。
どう見てもただ事でない状況に、残された田宮に周囲から視線が突き刺さる。
「痴話げんかですかな?お若いですなあ。はっはっは」
「ニ尉、セクハラとかじゃないですよね?」
「傷つけちゃったなら早いうちに謝った方がいいですよー」
周りの反応は様々だった。
偵察救難隊と織田の兵たちを率いて、防衛駐在官として小田原に派遣されてからずっとこの調子だ。氏康は田宮の顔が見られないらしく、田宮の姿を見ると決まって真っ赤になりながら逃げてしまう。
早雲の依頼に応じて、女装して氏康を誘惑する作戦を行った直後、氏康は自分を抱きしめてキスしたのが実は男だと知って、ショックのあまり気絶してしまった。
その後は早雲の説得に意外なほど素直に応じて、織田に下る決定をした。それは良かった。北条の家臣たちも心から織田と徹底抗戦を望む者は少なかったし、先代当主と現当主の決めたことなら是非もないと意思統一がなったからだ。
その後も氏康は、表面上落ち着いていたが、田宮の姿を見ると落ち着いていられないようだった。
「一度ちゃんと話し合ってみないとな。しかしどうしたものか…」
下手をしたら氏康の男嫌いを男性恐怖症のレベルまで悪化させてしまったかも知れない。そうなると、話し合うどころの騒ぎではない。田宮は思案にくれるのだった。
「留美殿…待って…恥ずかし…!ん…」
拒絶の言葉を発しようとする口は、口づけで塞がれた。唇の感触の心地よさに、氏康は目を閉じて力を抜いた。
長い黒髪と澄んだ目がきれいな美人が、氏康を優しく布団に押し倒す。
抵抗することもできず、氏康は裸にされていた。そうして欲しかったのかもしれない。
留美の手や舌が、氏康の肌の上を、敏感な部分を這いまわる。
「そ…そこは弱いのだ…!あっ…!」
元々敏感なところだけではない。留美に触れられた場所が全て性器のように敏感になってしまうのだ。
自分はあの母の娘だ。性欲が強いところはあるのかもしれないとは思う。それにしても、こんなに感じてしまうのは信じられなかった。心地よ過ぎて、自分が怖い。
「ああ…そんな大きなもの…ああんっ…!入ったあっ…!」
こんなに美しい人なのに、股間には荒々しく屹立したものがついている。それがじんわりと氏康の中に入ってきて、ずんと奥を突く。 「だめ…奥は…心地よくて…幸せ過ぎて…!」
下腹部から全身に向けて、爆発的な充足感と幸福感が拡がっていく。全身がばあーーーっとしびれていき、何も考えられなくなる。
「上になって」「今度は後ろから」
と要求されるのに抗うことが出来ない。逞しいものにまたがって下から突き上げられる。後ろから犬の交尾のような格好で荒々しく律動される。
「だめ…どうしよう…!気持ち良すぎて…!」
留美が果ててしまうまで、氏康の頭の奥は何度も白く弾け、何度も下腹部の奥が硬直したような感覚に襲われ続けた。
「は…!?」
氏康は布団の中で目を開ける。
まただ…。
けだるい感じの体を何とか起こして股間に手をやると、くちゅりと音がする。寝間着の下腹部の部分と敷布はぐっしょりと濡れている。もちろんそそうをしたわけではない。女が興奮したときに分泌される淫らな汁だ。
全身がじんじんとしびれたようになり、乳首もつんと立っていることからして、また眠ったまま何度も絶頂に達してしまったらしい。女の夢精、夢イキとか言うのだったか…。
無意識にうつぶせになり、眠りながら敏感な部分を布団に擦りつけていたようだ。
「それに…」
不思議だが、まだ自分の中に”入っている”ような感じがある。もちろん、男のものはおろか、指さえ入れたことはない。
だが、夢の中で確かに男のものを受け入れた感覚があった。そして、どういうわけか今もその余韻が残っている。
「まったく、どうしてくれるのだ…」
氏康はため息交じりにつぶやく。
まさか、自分が女装した男と交わっている夢を見て何度も達してしまうような、倒錯したふしだらな女だとは思わなかった。
あの男のせいだ。あの男に抱きしめられ、口づけをされて以来、毎晩のように淫らな夢を見るようになってしまった。
何とかしなければとは思う。だがどうしたらいい?
いや、氏康にもわかっていた。恋とは少し違うかも知れないが、これは思慕だ。思いをしっかりと伝えない限り、切なくて悶々とした気持ちは治らないことだろう。
そして、毎晩のように女装した男に抱かれる夢を見ることも収まらないに違いない。
だがどういえばいい?
”お前のせいで、毎晩ふしだらな夢を見るようになってしまった。責任を取れ”
「違う。そうじゃない」
あまりに直接的で恥ずかしい物言いを想像して、氏康は再び真っ赤になる。
具体的な話は後回しにして、取りあえず氏康は自分が夢精した後の処理を始める。寝間着を着替えて、敷布と一緒に洗い場に持っていく。
腰元たちに、この年で布団にそそうをしたなどと思われたくはない。女のくせに夢精して淫らな汁で寝間着と敷布を汚したと知られるのはもっといやだ。
氏康は発情した女のにおいがする寝間着と敷布を持って、洗い場に急ぐのだった。
07
越後、春日山城。
「北条は織田とじえいたいとか申す集団に下ったか」
「はい、先代当主、北条早雲の意向が強く働いたようです。
織田とじえいたいは軍事力だけでなく、技術でも経済力でもすごいものを持っている。
向こうに回すより、臣従する形でも仲良くしたほうが得だと読んだとか」
長く美しい黒髪を後ろでまとめた女が、水色の髪をボブカットにした少女の報告を受けている。
越後の盟主、上杉謙信と、家老の直江兼続だ。
「そう言えば、織田から当家に同盟の誘いが来ているのだったな?」
「はい、越後と佐渡の地下資源の採掘権を得たい。代価は収益の2割を払うと」
自分の言葉に応じた兼続の返答に、謙信は考える顔になる。
「その代わりに、信濃と上野には手を出すなと言うわけか。
困ったなあ。山内憲政様や、信濃の村上義清殿との約定もある」
謙信は目を閉じて思案する。
織田が武田や北条を攻めたことで、両家に奪われた領土を取り返せると読んだ者たちがいた。先代関東管領山内憲政は上野、村上義清ら国人たちは信濃に帰れると希望を持ったのだ。
だが、それはぬか喜びに終わる。織田は、臣従を誓った武田と北条に、信濃と上野の領有をはっきりと認めてしまったのだ。
そもそも、余計なところに余計な借りを作りなくない織田は、山内家や信濃の国人たちと関わることを始めから避けていた。ゆえに、信濃が武田、上野が武田と北条に安堵されてしまうことは、越後上杉家にも予想はついた。
だが、その措置に納得できない山内と信濃の国人衆が、上杉に助力を願って来たというわけだ。
「いかがいたしますか?村上殿や山内様には申し訳ないですが、地下資源の採掘権を与えるだけで自動的に収入が入って来るという話は大変に魅力的です。
どうせ我々の力では採掘はままなりませんから」
佐渡に黄金が出るという噂はたびたび耳にしているが、ことごとくあては外れ金と労力の無駄となって来た。これまでの経験を振り返って、兼続は具申する。
「与六。すまんが景勝と慶次郎を呼んでくれ」
謙信は兼続の具申には答えず、娘と客将を呼ぶように言いつける。
長い付き合いである兼続にはわかっていた。謙信はもう方針を決めていると。ならばもはや言うことはない。自分はこの君主に従うだけだ。
そう考え、景勝は部屋を後にした。
「二人にはあらかじめ言っておきたい。
当家は、これより織田、武田、北条、およびじえいたいに対して戦端を開く」
「ほう、大戦だねえ」
「すごいの」
茶髪をポニーテールとした遊女のような派手な装いの長身の女と、ストレートな亜麻色の髪を持つ小柄な美少女が謙信の言葉に応じる。
客分であり、謙信が信頼を置く武将である前田慶次郎利益と、従妹であり養子でもある上杉景勝だった。
「しかし、いいのかい?織田とじえいたいからはけっこう美味しい取引が来てるって聞いてるよ?」
「今の村上家や山内家を助けていいことあるかな?」
謙信は慶次郎と景勝の懸念に不敵な笑みで応じる。
「そういうな。戦は利益を求めてするものではない。
一度利益を求めて戦い始めたら、その後は利益を求め続けるしかなくなる。
おそらく二度と義のために戦うことはできなくなるだろう」
そう言い放った謙信は、神々しささえ感じさせるものがあった。
「謙信ならそう言うと思ったよ」
「行ってみただけなの。お母さんがそう決めたなら、景勝頑張るの!」
「謙信さまのお心のままに」
慶次郎、景勝、兼続の3人は、笑顔で同意する。
また我が殿の悪い癖が出たかという感もある。
だが、窮鳥懐に入ればと、人に頼られるといやと言えないこのまっすぐな主のことが、3人は大好きだった。
理屈や利益ではない。この主のためならばと思えるのだ。
かくして、上杉家は織田との取引を断り、信濃、上野に対して兵をあげることを決定したのだった。
3日後
織田勢の総本部の館。
織田に下ることを決意した氏康は、信長の拝謁していた。
「北条は今日より織田に臣従し、忠義を尽くすことを誓います。
合わせて、上野西部より手を引くことを約し、武田家に謝罪いたします」
氏康は平伏して宣誓する。
「まあ表を上げなさい。
話はわかった。和議の条件も異存はない。
だが、どういう風の吹き回しかな?
織田に対して一番強硬だったのはあなただと聞いていたが?」
この拝謁の前に、今川の仲介のもと、織田と北条の者たちによって話し合いが持たれた。
信長も勝者としては寛大な条件で和議に応じた自覚はある。が、それでも急に氏康が臣従を受け入れたのが不思議だったのだ。
「籠絡されたのです。
貴家の茶人と、武将の方に」
氏康がさらりと答える。
織田、徳川の武将と自衛隊の幹部たちの視線が一斉に田宮に集中する。なにか根拠があるわけではないが、籠絡と言うと田宮の仕事のように思えたのだ。
田宮自身も、やったことがことだけに視線が痛かった。
氏康の名誉のために、小田原城であったことの子細は伏せられているが、人はわからないことを想像で補うのが大好きな生き物だ。
噂には尾びれ背びれがついて、駆け巡った。男嫌いの氏康が男を知ったことで考えを変えたとか、氏康には女色の趣味があり、美しい女性にたらしこまれたとか、口さがないうわさ話になっているのだ。
「あなたを籠絡したほどの人物だ。素敵なお人だったのだろう?」
「は…はい…。とても素敵な方でした…」
氏康が耳まで真っ赤になりながらためらいがちに言う。
信長は安心する。すっかり心奪われ、女の芯を蕩かされている。これだけメロメロなら、氏康が織田を裏切ることはないだろう。
これをなしたのが自分の夫で、やり方がかなりアレなのが複雑な気分だった。が、信長は男嫌いの相模の獅子を恋する乙女にしてしまった”戦果”に満足した。
(知、後で埋め合わせはしてもらうからな)
が、やはり信長は、胸の奥がもやもやしてそんなことを思わずにはいられないのだった。
何はともあれ、小田原攻めは織田の勝利に終わる。
自衛隊にとっても、武田との戦いの時のように敵味方に大量の戦死者を出すことも、燃料や弾薬を浪費することもなく決着が着いたのだから万々歳と言えた。
たとえ、北条が和平に傾いたのが、”宿儺”と”V2”をめぐるいざこざと言う偶発的な事態であったとしてもだ。
翌日。武蔵、江戸。
「しかし、本当によろしいのですか?割譲する土地がこんな何もないところで」
自衛隊の視察に同行している早雲が、いまだに信じられないという様子で問う。
実際、太田道灌が放棄して以来、荒れ果てた江戸城がある以外は田畑すらない原野に過ぎない。
「何もないところだからこそ、家を建てて町を作るのにやりがいがあるということもあります」
陸自統括の木場一等陸佐が、周囲を写真に収めながら応じる。自衛隊が織田家でなく、自衛隊自身の領土として割譲を要求したのが武蔵の中でも、東京23区に相当する部分だった。
史実では徳川家康が何もない原野だった土地を地ならしして町を作り、やがて大都市とした場所。そして、明治維新の後に東京となり、21世紀では1000万人が暮らす空前の大都市に発展する。
この世界では、家康は江戸とかかわりを持たない。関東の政治の中心は依然として小田原にある。
となれば、誰も手をつけていないうちに自分たちが手に入れて町を作ってしまおう。それが自衛隊の意向だった。まあ、神田山を切り崩して造成し、遠くの川からから水を引いてと面倒な仕事が山積みだが、やってみる価値は大いにある。
その後は少しずつでも町を工業化して、製造した製品を日本全国、いや、海外にまで売り込む。巨大な商売を行うのだ。
まずは市ヶ谷に相当するところに、自衛隊の総司令部を作ってみるか。
木場はそんなことを考えていた。
さて、所変わってこちらは小田原城。
「あ、氏康さま。こんにちは」
「た…田宮…!?ううーーっ…!」
田宮の姿を見た氏康はすさまじい勢いで耳まで真っ赤になり、その場から走り去る。
どう見てもただ事でない状況に、残された田宮に周囲から視線が突き刺さる。
「痴話げんかですかな?お若いですなあ。はっはっは」
「ニ尉、セクハラとかじゃないですよね?」
「傷つけちゃったなら早いうちに謝った方がいいですよー」
周りの反応は様々だった。
偵察救難隊と織田の兵たちを率いて、防衛駐在官として小田原に派遣されてからずっとこの調子だ。氏康は田宮の顔が見られないらしく、田宮の姿を見ると決まって真っ赤になりながら逃げてしまう。
早雲の依頼に応じて、女装して氏康を誘惑する作戦を行った直後、氏康は自分を抱きしめてキスしたのが実は男だと知って、ショックのあまり気絶してしまった。
その後は早雲の説得に意外なほど素直に応じて、織田に下る決定をした。それは良かった。北条の家臣たちも心から織田と徹底抗戦を望む者は少なかったし、先代当主と現当主の決めたことなら是非もないと意思統一がなったからだ。
その後も氏康は、表面上落ち着いていたが、田宮の姿を見ると落ち着いていられないようだった。
「一度ちゃんと話し合ってみないとな。しかしどうしたものか…」
下手をしたら氏康の男嫌いを男性恐怖症のレベルまで悪化させてしまったかも知れない。そうなると、話し合うどころの騒ぎではない。田宮は思案にくれるのだった。
「留美殿…待って…恥ずかし…!ん…」
拒絶の言葉を発しようとする口は、口づけで塞がれた。唇の感触の心地よさに、氏康は目を閉じて力を抜いた。
長い黒髪と澄んだ目がきれいな美人が、氏康を優しく布団に押し倒す。
抵抗することもできず、氏康は裸にされていた。そうして欲しかったのかもしれない。
留美の手や舌が、氏康の肌の上を、敏感な部分を這いまわる。
「そ…そこは弱いのだ…!あっ…!」
元々敏感なところだけではない。留美に触れられた場所が全て性器のように敏感になってしまうのだ。
自分はあの母の娘だ。性欲が強いところはあるのかもしれないとは思う。それにしても、こんなに感じてしまうのは信じられなかった。心地よ過ぎて、自分が怖い。
「ああ…そんな大きなもの…ああんっ…!入ったあっ…!」
こんなに美しい人なのに、股間には荒々しく屹立したものがついている。それがじんわりと氏康の中に入ってきて、ずんと奥を突く。 「だめ…奥は…心地よくて…幸せ過ぎて…!」
下腹部から全身に向けて、爆発的な充足感と幸福感が拡がっていく。全身がばあーーーっとしびれていき、何も考えられなくなる。
「上になって」「今度は後ろから」
と要求されるのに抗うことが出来ない。逞しいものにまたがって下から突き上げられる。後ろから犬の交尾のような格好で荒々しく律動される。
「だめ…どうしよう…!気持ち良すぎて…!」
留美が果ててしまうまで、氏康の頭の奥は何度も白く弾け、何度も下腹部の奥が硬直したような感覚に襲われ続けた。
「は…!?」
氏康は布団の中で目を開ける。
まただ…。
けだるい感じの体を何とか起こして股間に手をやると、くちゅりと音がする。寝間着の下腹部の部分と敷布はぐっしょりと濡れている。もちろんそそうをしたわけではない。女が興奮したときに分泌される淫らな汁だ。
全身がじんじんとしびれたようになり、乳首もつんと立っていることからして、また眠ったまま何度も絶頂に達してしまったらしい。女の夢精、夢イキとか言うのだったか…。
無意識にうつぶせになり、眠りながら敏感な部分を布団に擦りつけていたようだ。
「それに…」
不思議だが、まだ自分の中に”入っている”ような感じがある。もちろん、男のものはおろか、指さえ入れたことはない。
だが、夢の中で確かに男のものを受け入れた感覚があった。そして、どういうわけか今もその余韻が残っている。
「まったく、どうしてくれるのだ…」
氏康はため息交じりにつぶやく。
まさか、自分が女装した男と交わっている夢を見て何度も達してしまうような、倒錯したふしだらな女だとは思わなかった。
あの男のせいだ。あの男に抱きしめられ、口づけをされて以来、毎晩のように淫らな夢を見るようになってしまった。
何とかしなければとは思う。だがどうしたらいい?
いや、氏康にもわかっていた。恋とは少し違うかも知れないが、これは思慕だ。思いをしっかりと伝えない限り、切なくて悶々とした気持ちは治らないことだろう。
そして、毎晩のように女装した男に抱かれる夢を見ることも収まらないに違いない。
だがどういえばいい?
”お前のせいで、毎晩ふしだらな夢を見るようになってしまった。責任を取れ”
「違う。そうじゃない」
あまりに直接的で恥ずかしい物言いを想像して、氏康は再び真っ赤になる。
具体的な話は後回しにして、取りあえず氏康は自分が夢精した後の処理を始める。寝間着を着替えて、敷布と一緒に洗い場に持っていく。
腰元たちに、この年で布団にそそうをしたなどと思われたくはない。女のくせに夢精して淫らな汁で寝間着と敷布を汚したと知られるのはもっといやだ。
氏康は発情した女のにおいがする寝間着と敷布を持って、洗い場に急ぐのだった。
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越後、春日山城。
「北条は織田とじえいたいとか申す集団に下ったか」
「はい、先代当主、北条早雲の意向が強く働いたようです。
織田とじえいたいは軍事力だけでなく、技術でも経済力でもすごいものを持っている。
向こうに回すより、臣従する形でも仲良くしたほうが得だと読んだとか」
長く美しい黒髪を後ろでまとめた女が、水色の髪をボブカットにした少女の報告を受けている。
越後の盟主、上杉謙信と、家老の直江兼続だ。
「そう言えば、織田から当家に同盟の誘いが来ているのだったな?」
「はい、越後と佐渡の地下資源の採掘権を得たい。代価は収益の2割を払うと」
自分の言葉に応じた兼続の返答に、謙信は考える顔になる。
「その代わりに、信濃と上野には手を出すなと言うわけか。
困ったなあ。山内憲政様や、信濃の村上義清殿との約定もある」
謙信は目を閉じて思案する。
織田が武田や北条を攻めたことで、両家に奪われた領土を取り返せると読んだ者たちがいた。先代関東管領山内憲政は上野、村上義清ら国人たちは信濃に帰れると希望を持ったのだ。
だが、それはぬか喜びに終わる。織田は、臣従を誓った武田と北条に、信濃と上野の領有をはっきりと認めてしまったのだ。
そもそも、余計なところに余計な借りを作りなくない織田は、山内家や信濃の国人たちと関わることを始めから避けていた。ゆえに、信濃が武田、上野が武田と北条に安堵されてしまうことは、越後上杉家にも予想はついた。
だが、その措置に納得できない山内と信濃の国人衆が、上杉に助力を願って来たというわけだ。
「いかがいたしますか?村上殿や山内様には申し訳ないですが、地下資源の採掘権を与えるだけで自動的に収入が入って来るという話は大変に魅力的です。
どうせ我々の力では採掘はままなりませんから」
佐渡に黄金が出るという噂はたびたび耳にしているが、ことごとくあては外れ金と労力の無駄となって来た。これまでの経験を振り返って、兼続は具申する。
「与六。すまんが景勝と慶次郎を呼んでくれ」
謙信は兼続の具申には答えず、娘と客将を呼ぶように言いつける。
長い付き合いである兼続にはわかっていた。謙信はもう方針を決めていると。ならばもはや言うことはない。自分はこの君主に従うだけだ。
そう考え、景勝は部屋を後にした。
「二人にはあらかじめ言っておきたい。
当家は、これより織田、武田、北条、およびじえいたいに対して戦端を開く」
「ほう、大戦だねえ」
「すごいの」
茶髪をポニーテールとした遊女のような派手な装いの長身の女と、ストレートな亜麻色の髪を持つ小柄な美少女が謙信の言葉に応じる。
客分であり、謙信が信頼を置く武将である前田慶次郎利益と、従妹であり養子でもある上杉景勝だった。
「しかし、いいのかい?織田とじえいたいからはけっこう美味しい取引が来てるって聞いてるよ?」
「今の村上家や山内家を助けていいことあるかな?」
謙信は慶次郎と景勝の懸念に不敵な笑みで応じる。
「そういうな。戦は利益を求めてするものではない。
一度利益を求めて戦い始めたら、その後は利益を求め続けるしかなくなる。
おそらく二度と義のために戦うことはできなくなるだろう」
そう言い放った謙信は、神々しささえ感じさせるものがあった。
「謙信ならそう言うと思ったよ」
「行ってみただけなの。お母さんがそう決めたなら、景勝頑張るの!」
「謙信さまのお心のままに」
慶次郎、景勝、兼続の3人は、笑顔で同意する。
また我が殿の悪い癖が出たかという感もある。
だが、窮鳥懐に入ればと、人に頼られるといやと言えないこのまっすぐな主のことが、3人は大好きだった。
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「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
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神崎未緒里
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※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
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