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05 北陸の軍神編
信濃と京と
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02
信濃、妻女山。
「どうやら一足遅かったようだな」
今川義元はすでに撤収が済んだ上杉の陣の跡を眺めながら嘆息する。
今回の作戦はキツツキ戦法だった。上杉が陣を張る妻女山に対して夜襲をかけ、上杉勢が慌ててが移動したところを武田勢が待ち伏せる予定だったのだ。
だが、情報が漏れたのか、例によって神がかった上杉謙信のカンの鋭さゆえか、こちらが奇襲をかける前に陣を払われてしまったのだ。
「上杉謙信が神の化身だとかいう話、信じそうになってしまうな」
「殿、めったなことをおっしゃられないように」
愚痴っぽくなる義元を、参謀役であり、彼の”師匠”でもある太原雪斎がたしなめる。
ともあれ、焦っているのは雪斎も同じだった。
自衛隊も協力して精密な情報収取を行っているはずが、どういうわけかいつも上杉がたにわずかな差で出し抜かれる。
機密保持は万全のはずなのに、なぜかこちらの行動が先読みされている。
身内に内通者がいる可能性も疑ったが、今のところ痕跡は発見できていない。
「まあ、とにかく今は起きたことに対処せんとな。
亀井隊長。すまんが武田勢に連絡を取ってくれ。妻女山はもぬけのからだったと」
「わかりました。
通信機をよこせ。武田勢に連絡だ」
第一空挺団から派遣されている亀井一尉が、武田勢に随行している部隊に無線で連絡していく。
「さて、上杉はどう動く?このまま引くか、あるいは武田の陣に攻め入るか?」
義元は今後の状況に対して予測を巡らせる。
いくら上杉勢が大軍を密かに動かす練度と技術を持っていたとしても、自衛隊の航空偵察までごまかすのは不可能だろう。上杉勢の動きは早々に判明すると見てよかった。
だが、上杉謙信とは常に腹が読めない人物だ。軍学上の常識や、兵法の理屈では測れない考え方と戦い方をする。
油断すると危ういことになる。義元はそう予測せざるを得ないのだった。
結局、上杉勢は武田勢と川を挟んでにらみ合う位置に布陣したものの、それ以降は不気味なほど沈黙することになる。
上杉勢の腹が読めない武田、今川勢も、動きが取れないまま時間だけが過ぎて行くのだった。
さて、所変わってこちらは京は二条城。
「猿、久しいな。元気だったか?」
「信長さまあ!元気ですとも!
それに我が妻、知!会えなくて寂しかったよお!」
「おいおい、ん…。場所を考えろって…」
赤毛美少女の織田信長と、茶髪ベリーショートのボーイッシュ美少女、木下藤吉郎改め羽柴藤吉郎秀吉は、京において久々の再会をしていた。もちろん、二人の共通の思い人、田宮知二等陸尉も一緒だ。
関東と甲信越の状況はいぜんとして厳しいが、一度京に入ってもろもろの懸案事項を処理すべき。そう考えた信長が、自衛隊のV-22を借用し、関東から飛んできたというわけだ。
日頃スキンシップが激しい秀吉は、信長と田宮に抱き付くと、場所もわきまえずにキスの雨を浴びせ始める。
「いいじゃないの、久々に会ったんだし。
権六様ももっとこっちにどうぞ!知がここにいるんですから」
「あ…ああ。知殿。元気そうで何よりだ。その…会えなくて寂しかったぞ…」
秀吉が黒髪色白の長身の少女、柴田勝家を手招きするが、根っこのところで乙女な勝家は、照れながら再会を喜ぶばかりだった。まあ、秀吉が自由であけすけすぎるとも言えるのだが。
「もう、権六さまってば、たまには積極的ならないと、知に群がる女の子たちに締め出されちゃいますよ!
聞けば、東で任務に就いている間に、またもずいぶん多数の女の子たちを虜にしたみたいですしね」
秀吉が「にしし」と笑いながらわざとらしく指を折り数えていく。
田宮は切磋に言い訳の言葉が出てこなかった。
金髪のロリ美少女、ピンク髪のギャル風純情乙女、筋肉ガールな黒ギャル、肉感的な白ギャル、美少女双子姉妹、倒錯趣味に目覚めたツンデレ黒髪美少女、美人で成熟した色気と妖艶さを持つ未亡人。
皆自分に好意を持ってくれている。節度は心得ているし、天地神明に誓っていい加減な気持ちはないが、充分爛れているといえる。
「なあ猿よ、それを言うならお前も伊勢や近江で女の子をずいぶんつまみ食いしていたようだなあ?」
信長の芝居がかった言葉に、秀吉があからさまにぎくっとなる。
「うへっ…藪蛇だった…。
知、ボクがこの世で一番愛してるのは知だからね!?」
「ほんとかなあ?」
田宮は眉をひそめて見せる。もちろん本気ではない。秀吉の女趣味には田宮は寛大だ。むしろ、女の子が百合百合していることに萌えさえ感じちゃうのである。それに、この世で一番愛しているのは自分だという言葉を信じている。
「皆さん、久しぶりに会えて嬉しいのはわかりますが、義昭様がお待ちですから」
勝家が、収拾がつかなくなりそうな状況をまとめるべく優等生な物言いをする。
さすがに、信長も秀吉も田宮も、二条城には公務で訪れているのを思い出す。
「では、参りましょうか」
そう言った饗応担当の、人当たりのいい壮年の武将、丹羽長秀が案内をする。
全員がたたずまいを直し、将軍、義昭に謁見する準備を整えるのだった。
能を見物しながら、信長ら織田家の幹部たち(と自衛隊の幹部が何人か)は、銀髪のはかなげな美少女、義昭と会合を持っていた。
「どうでしょう、信長殿。
考えていただけましたか?」
義昭は透明な目でそう問う。普段豪放でものおじしない信長も、義昭に対しては思うところがある。言葉を選びながら返答する。
「管領か副将軍にというお言葉、まことに光栄なれど、家柄、才幹ともにその任に耐えず…」
義昭は表情を変えない。が、信長の返答に困惑と疑念を抱いているのはなんとなく伝わって来る。
「で…では、恩賞は?
義昭様を奉じて将軍の座に押し上げられたことへのご褒美。
領土でも駿馬でも業物の太刀でも、あるいは美女でも思うままですが?」
義昭の側近、青い髪をボブカットにしたひっそりとした美女、明智光秀が問う。
なお、この世界、この時代においては、同性愛はとくに禁忌とはされていない。身分ある女性にとって、美女をそばに侍らせることはステータスともされている。実際、信長も何人かの側近の女性と親密な関係にある。
「そこまでしていただくほどのことは。
ただ、和泉の堺と近江の大津を直轄地をすることをお許しください」
「商業の便宜と免税特権ですか…。
…。わかりました。認めましょう」
義昭は表面上は気持ちよく信長の要求を認める。だが、見る目のある人間には、義昭がいら立っているのが伝わって来た。
義昭が再建する幕府での栄達を望まない代わりに責任も負う気はない。交通と商業の要衝を抑えて、莫大な利益を上げること、ついでに税の免除を認めろ。
要はそう言っている信長の意図を、義昭は察している。それがわかるものにはわかったのだ。
「ふふふ。怖い怖い。表面上穏やかでも、両者とも本心ではののしり合ってるかも?」
秀吉は、信長と義昭の陰険漫才を楽しんでいた。
「ああ、酒はもういいのだ。この後少々仕事が残っていてのお」
長秀は、侍女が酒を注ごうとするのを遠慮する。仕事が残っているというのは方便だ。
つい先ほど、自衛隊から都合してもらった胃薬を呑んだばかりなのだ。酒や茶との飲み合わせは厳禁と自衛隊の看護師に言われている。
伊勢、近江の制圧戦を行っていた時が、今となっては懐かしく感じる。京で、朝廷や公家、幕府再興を目指すものたちとの折衝を担当するのは、戦で槍働きをするよりよほど神経が磨り減る。
この日の二条城での会合は、表向き非常に和やかに終了した。あくまでも表向き。大事なことなのでry。
見識のある者は、京に漂う不穏かつ険悪な雰囲気を感じ取っていた。
さながら、いつ噴火するかわからない火山の麓で暮らしているような危うさを感じずにはいられなかったのである。
信濃、妻女山。
「どうやら一足遅かったようだな」
今川義元はすでに撤収が済んだ上杉の陣の跡を眺めながら嘆息する。
今回の作戦はキツツキ戦法だった。上杉が陣を張る妻女山に対して夜襲をかけ、上杉勢が慌ててが移動したところを武田勢が待ち伏せる予定だったのだ。
だが、情報が漏れたのか、例によって神がかった上杉謙信のカンの鋭さゆえか、こちらが奇襲をかける前に陣を払われてしまったのだ。
「上杉謙信が神の化身だとかいう話、信じそうになってしまうな」
「殿、めったなことをおっしゃられないように」
愚痴っぽくなる義元を、参謀役であり、彼の”師匠”でもある太原雪斎がたしなめる。
ともあれ、焦っているのは雪斎も同じだった。
自衛隊も協力して精密な情報収取を行っているはずが、どういうわけかいつも上杉がたにわずかな差で出し抜かれる。
機密保持は万全のはずなのに、なぜかこちらの行動が先読みされている。
身内に内通者がいる可能性も疑ったが、今のところ痕跡は発見できていない。
「まあ、とにかく今は起きたことに対処せんとな。
亀井隊長。すまんが武田勢に連絡を取ってくれ。妻女山はもぬけのからだったと」
「わかりました。
通信機をよこせ。武田勢に連絡だ」
第一空挺団から派遣されている亀井一尉が、武田勢に随行している部隊に無線で連絡していく。
「さて、上杉はどう動く?このまま引くか、あるいは武田の陣に攻め入るか?」
義元は今後の状況に対して予測を巡らせる。
いくら上杉勢が大軍を密かに動かす練度と技術を持っていたとしても、自衛隊の航空偵察までごまかすのは不可能だろう。上杉勢の動きは早々に判明すると見てよかった。
だが、上杉謙信とは常に腹が読めない人物だ。軍学上の常識や、兵法の理屈では測れない考え方と戦い方をする。
油断すると危ういことになる。義元はそう予測せざるを得ないのだった。
結局、上杉勢は武田勢と川を挟んでにらみ合う位置に布陣したものの、それ以降は不気味なほど沈黙することになる。
上杉勢の腹が読めない武田、今川勢も、動きが取れないまま時間だけが過ぎて行くのだった。
さて、所変わってこちらは京は二条城。
「猿、久しいな。元気だったか?」
「信長さまあ!元気ですとも!
それに我が妻、知!会えなくて寂しかったよお!」
「おいおい、ん…。場所を考えろって…」
赤毛美少女の織田信長と、茶髪ベリーショートのボーイッシュ美少女、木下藤吉郎改め羽柴藤吉郎秀吉は、京において久々の再会をしていた。もちろん、二人の共通の思い人、田宮知二等陸尉も一緒だ。
関東と甲信越の状況はいぜんとして厳しいが、一度京に入ってもろもろの懸案事項を処理すべき。そう考えた信長が、自衛隊のV-22を借用し、関東から飛んできたというわけだ。
日頃スキンシップが激しい秀吉は、信長と田宮に抱き付くと、場所もわきまえずにキスの雨を浴びせ始める。
「いいじゃないの、久々に会ったんだし。
権六様ももっとこっちにどうぞ!知がここにいるんですから」
「あ…ああ。知殿。元気そうで何よりだ。その…会えなくて寂しかったぞ…」
秀吉が黒髪色白の長身の少女、柴田勝家を手招きするが、根っこのところで乙女な勝家は、照れながら再会を喜ぶばかりだった。まあ、秀吉が自由であけすけすぎるとも言えるのだが。
「もう、権六さまってば、たまには積極的ならないと、知に群がる女の子たちに締め出されちゃいますよ!
聞けば、東で任務に就いている間に、またもずいぶん多数の女の子たちを虜にしたみたいですしね」
秀吉が「にしし」と笑いながらわざとらしく指を折り数えていく。
田宮は切磋に言い訳の言葉が出てこなかった。
金髪のロリ美少女、ピンク髪のギャル風純情乙女、筋肉ガールな黒ギャル、肉感的な白ギャル、美少女双子姉妹、倒錯趣味に目覚めたツンデレ黒髪美少女、美人で成熟した色気と妖艶さを持つ未亡人。
皆自分に好意を持ってくれている。節度は心得ているし、天地神明に誓っていい加減な気持ちはないが、充分爛れているといえる。
「なあ猿よ、それを言うならお前も伊勢や近江で女の子をずいぶんつまみ食いしていたようだなあ?」
信長の芝居がかった言葉に、秀吉があからさまにぎくっとなる。
「うへっ…藪蛇だった…。
知、ボクがこの世で一番愛してるのは知だからね!?」
「ほんとかなあ?」
田宮は眉をひそめて見せる。もちろん本気ではない。秀吉の女趣味には田宮は寛大だ。むしろ、女の子が百合百合していることに萌えさえ感じちゃうのである。それに、この世で一番愛しているのは自分だという言葉を信じている。
「皆さん、久しぶりに会えて嬉しいのはわかりますが、義昭様がお待ちですから」
勝家が、収拾がつかなくなりそうな状況をまとめるべく優等生な物言いをする。
さすがに、信長も秀吉も田宮も、二条城には公務で訪れているのを思い出す。
「では、参りましょうか」
そう言った饗応担当の、人当たりのいい壮年の武将、丹羽長秀が案内をする。
全員がたたずまいを直し、将軍、義昭に謁見する準備を整えるのだった。
能を見物しながら、信長ら織田家の幹部たち(と自衛隊の幹部が何人か)は、銀髪のはかなげな美少女、義昭と会合を持っていた。
「どうでしょう、信長殿。
考えていただけましたか?」
義昭は透明な目でそう問う。普段豪放でものおじしない信長も、義昭に対しては思うところがある。言葉を選びながら返答する。
「管領か副将軍にというお言葉、まことに光栄なれど、家柄、才幹ともにその任に耐えず…」
義昭は表情を変えない。が、信長の返答に困惑と疑念を抱いているのはなんとなく伝わって来る。
「で…では、恩賞は?
義昭様を奉じて将軍の座に押し上げられたことへのご褒美。
領土でも駿馬でも業物の太刀でも、あるいは美女でも思うままですが?」
義昭の側近、青い髪をボブカットにしたひっそりとした美女、明智光秀が問う。
なお、この世界、この時代においては、同性愛はとくに禁忌とはされていない。身分ある女性にとって、美女をそばに侍らせることはステータスともされている。実際、信長も何人かの側近の女性と親密な関係にある。
「そこまでしていただくほどのことは。
ただ、和泉の堺と近江の大津を直轄地をすることをお許しください」
「商業の便宜と免税特権ですか…。
…。わかりました。認めましょう」
義昭は表面上は気持ちよく信長の要求を認める。だが、見る目のある人間には、義昭がいら立っているのが伝わって来た。
義昭が再建する幕府での栄達を望まない代わりに責任も負う気はない。交通と商業の要衝を抑えて、莫大な利益を上げること、ついでに税の免除を認めろ。
要はそう言っている信長の意図を、義昭は察している。それがわかるものにはわかったのだ。
「ふふふ。怖い怖い。表面上穏やかでも、両者とも本心ではののしり合ってるかも?」
秀吉は、信長と義昭の陰険漫才を楽しんでいた。
「ああ、酒はもういいのだ。この後少々仕事が残っていてのお」
長秀は、侍女が酒を注ごうとするのを遠慮する。仕事が残っているというのは方便だ。
つい先ほど、自衛隊から都合してもらった胃薬を呑んだばかりなのだ。酒や茶との飲み合わせは厳禁と自衛隊の看護師に言われている。
伊勢、近江の制圧戦を行っていた時が、今となっては懐かしく感じる。京で、朝廷や公家、幕府再興を目指すものたちとの折衝を担当するのは、戦で槍働きをするよりよほど神経が磨り減る。
この日の二条城での会合は、表向き非常に和やかに終了した。あくまでも表向き。大事なことなのでry。
見識のある者は、京に漂う不穏かつ険悪な雰囲気を感じ取っていた。
さながら、いつ噴火するかわからない火山の麓で暮らしているような危うさを感じずにはいられなかったのである。
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