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02 勢力伸長編
百合は不倫にあらず? 毛利、大内開戦
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06
安芸、吉田郡山城。
「んん…隆元…?」
「あ…起こしちゃいましたか?」
けだるそうにまぶたを開き、生まれたままの姿の義隆が布団から体を起こす。
同じく生まれたままの姿の隆元は、枕元の水差しから硝子の器(最近自衛隊の協力で安芸で製造されているもの)に水を汲み、飲んでいた。
「義隆様もお水、いかがです?」
「ああ、頂くよ」
器を受け取った義隆は、美味しそうに水を飲んでいく。
「目が覚めたら、一瞬どこにいるのかわからんかったよ」
「あら、ご挨拶ですね。少し前まであんなに愛し合ってたのに」
義隆の言葉に、隆元が冗談めかして返す。
義隆と一緒に亡命してきた冷泉隆豊は、長防の情勢を報告するために護衛艦“ながと”に泊まっている。
義隆を一人にさせておくのは忍びないと、隆元が夜の相手を買って出たのだ。
隆元にしても、義隆と触れあって義隆が生きていることを感じたかった。
陸自のヘリで安芸に運ばれてきた義隆と再会したとき、隆元は涙を流して義隆と抱き合った。
もう会えないかも知れないと内心で思っていたのだ。
そして、数日が経った今でも、知らないうちに義隆がどこか遠いところに行ってしまうのではないかという不安を覚え続けている。
義隆と肌を触れあわせることで、その不安を消そうとしたのだ。
義隆との戯れでは、これまではいわゆるタチ(責め)とネコ(受け)で言えば、義隆がタチ、隆元がネコだった。
が、隆元は今夜は義隆を感じさせたい気分だった。
人質生活の折、義隆に仕込まれた手管を、隆元は余すことなく発揮した。
義隆は唇を、乳首を、女の部分を、尻の穴まで隆元の指と舌で感じさせられ、白い腰を波打たせて何度も絶頂に押し上げられた。
終いには心地よすぎて失神してしまったのだった。
「隆元があんなに上手やなんて知らんかった…。なんか、体が自分の体やないみたいや…。
隆元から離れられんくなりそう。
旦那様に恨まれるかな?」
頬を赤く染めながら、義隆は言う。
「大丈夫でしょ。うちの旦那様は女同士の交わりが大好きですから。
それに、長防の方がこれだけきな臭いと、当分“ながと”から離れられないでしょう。
独り寝するくらいなら、義隆様のお相手を私がするくらいわかってくれますよ」
隆元はそう言って、義隆の長く美しい栗色の髪を優しく撫でる。
義隆は少し考える表情になり、やがて意を決したように口を開く。
「隆元。もし毛利と陶が戦になる時は、うちも“ながと”に乗せてもらえんやろうか?
大内の最期。できればこの目で見ておきたいんよ」
「大内の最期ですか。確かに…そうなる可能性は高いですね。
で、見届けた後はどうしますか?」
義隆の言葉に、隆元は目をのぞき込みながら応え、問う。
「髪下ろしてお寺に入ろうか思ってるんよ。
母義興や今までの当主には申し訳ないけど、うちは、戦国で一国の主として生きられる女やなかったようやしね」
義隆の言葉に、隆元も寂しい気持ちになる。
女傑である母となにかと比較されてきた隆元には、身につまされるものがあったからだ。
「“ながと”に乗ることは、私が旦那様を通じて艦長にかけあってみます。
でも、出家は待って下さい」
そう言って、隆元は義隆と唇を重ねる。
「義隆様にはまだまだお願いすることが山ほどあります。
それに、こんな美しい髪、切ったらもったいないじゃないですか?」
「もう、隆元」
義隆は隆元を抱きしめる。
二人は再び愛し合いたい衝動に襲われる。
「今度はうちが感じさせてあげる」
「はい…あんっ…」
今度は義隆が隆元を感じさせ始める。
互いに愛おしい気持ちが溢れ出て来るのを止めることができない。
二人は空が白み始めるまで愛し合い続けるのだった。
数日後。安芸、呉港。
新設なった桟橋に、ミサイル護衛艦“ながと”とヘリコプター搭載護衛艦“あかぎ”が係留されている。
輸送艦“おおすみ”は備後の制圧に当たっていて不在だ。
“ながと”の士官食堂では、第161任務部隊の幹部自衛官の他、毛利元就と冷泉隆豊も交えて会議が開かれていた。
議題はもちろん、陶隆房改め陶晴賢に牛耳られる大内家に関してだ。
「元就様。大内家から、というより陶殿から再三に渡って臣従するよう求められているとか?」
「ええ、新たな当主、義長様を主と仰ぐようにと」
“ながと”艦長兼隊司令である梅沢一佐の問いに、元就は嘆息しながら答える。
「それで、元就様のご意向はどうです?」
「先の当主の義隆様を保護させて頂いているからには、呑めない話ですね。毛利は陶に仕えているつもりはありませんし。
ただ、備後、備中の制圧が終わらないうちに大内と事を構えるのは避けたいところです」
空自の桐山三佐の言葉に、元就は難しい顔で応じる。
旧尼子領の備後、備中の国人や土豪たちの中には、毛利の支配を簡単には受け入れない者も少なくない。
実際、毛利も自衛隊も備後、備中を固めるのに苦労しているのが現実だ。
二面作戦は避けたいというのもわかる話だ。
「しかし、拒絶するにしても返答を保留するにしても、結局敵とみなされるのでは?
陶晴賢殿は政変を起こして以来、若干疑心暗鬼になっているようですしな」
「そうです。問題はそこなのです。
それと実は、わが長女である大膳大夫(隆元)が陶を討つべしと主張していまして」
元就の言葉に、列席する者たちが意外そうな顔をする。常日頃戦いが嫌いな隆元らしくないと思えたのだ。
「大膳大夫様はわが主に世話になっていましたし、その…個人的にも親密な関係にあります。
わが主を追放して実権を握った尾張の守(晴賢)に憤慨なさっているとか」
それまで口を聞かなかった隆豊が言葉を選びながら発言する。
「隆元様は晴賢殿とも親しかったと聞いていますが?」
「それはそれ、ということかと。
先日も、第二の故郷ともいえる山口が戦災で焼かれた記録映像をご覧になって、かなりお怒りでしたから」
「愛情や信頼は、裏切られたとたん憎しみや怒りに取って代わられる、ということもありますか」
士官食堂に微妙な空気が流れる。気持ちは理解できるが、常に穏やかで戦いを嫌う隆元が主戦論を唱えているというのはいささか寂しい気もするのだ。
「ともあれ、いずれ陶とは戦いになると思っておくべきかと。
毛利家が大内の新しい当主を認めない以上、戦いは不可避でしょ」
それまで沈黙していた霧島が口を開く。
相変わらずの即断即決ぶり、と他の幹部たちが苦笑する。
「それについて異議はないが、どう戦うかという問題が残るな。
“おおすみ”は現状備後から離れられない。
陸自の主力が手が空いていないとなると、兵力で勝る陶が有利ということになる」
陸自指揮官の麻野三佐が渋面を浮かべながら言う。
「そこはこの謀神にお任せ下さい。
要するに、大軍が数の有利を活かせない状況を作ればよろしいのでしょう?」
元就が剣呑な笑みを浮かべる。気のせいか、彼女の眼鏡がきらりと光ったように見えた。
「わかりました。陽動に関しては元就様に一任致します。
なんとか海自と空自、そして安芸に残っている陸自の部隊で対処しましょう。
我々は、陶と戦う」
梅沢の鶴の一声で、自衛隊と毛利は陶と戦うことを決定する。
「それで、陽動についてですが…」
具体的な作戦が話し合われていく。
元就も自衛隊員たちも、すでに戦う覚悟を決めていたのである。
数日後、元就は山口の大内義長に対して、「毛利は陶の傀儡に過ぎない者を大内の当主とは認めず」という書簡を送る。
臣従の拒否。実質的な戦線布告である。
いよいよ、毛利と、陶が実権をにぎる大内は戦争状態へとなだれこんでいく。
長門、山口。
一度焼失し、新築された山口の大内館では議論が紛糾していた。
大内がたの軍事的要衝、草津、矢野などが相次いで毛利と自衛隊に落とされた。大内勢は安芸、周防における戦いの主導権を失いつつあったのだ。
列席する者たちは焦り、興奮していた。
「毛利とじえいたいを許すな!今すぐ安芸に侵攻だ!」
「待て待て、じえいたいの強さは知っているだろう。あれとまともに戦うのもどうかな」
「ふん、いくら火力に優れても、じえいたいは1500人程度に過ぎん。
数で押せば勝てるわ」
「その数で押すのをどうするかが問題なんだろう。じえいたいの鉄砲は連射が効く上に射程もやたらめったら長い」
「戦う場所を選ばなければ一方的にやられる危険があるか。
いっそこちらは待ちに徹して地の利がある周防、石見を戦場としてはどうかな?」
「ばかな!兵力ではこちらが有利なのに、みすみす周防、石見への侵攻を許すというのか!?
冗談ではない!」
会議は収集がつかない有様だった。
毛利を討伐することに関しては全員が意見の相違はない。だが、自衛隊とどう戦うかに関しては列席者の間で温度差があった。
特に、安易な根性論や精神論に任せて突撃を主張する者たちと、無駄死にはごめんだと考える者たちの問答は平行線だった。
「落ち着け、ケンカは敵とするものだ。
私はこの際戦力を集中投入すべきと考える」
軍議の上座の黒髪の美女の言葉に、列席者たちは口を閉じる。
大内家筆頭家老、陶隆房改め陶晴賢だった。
「尾張の守様、してどこを攻めるので?」
豊かな長い茶髪が特徴の美女が問う。
晴賢の側近、弘中隆兼だった。
「厳島だ」
晴賢は地図を指さして言う。
「厳島は古来より交通の要衝であり、船戦においては重要な拠点でもある。
現状は毛利によって要塞化されているが、駐留している兵力は多くない。
我々が制圧して拠点とする。
そこを足がかりとして、海路から安芸に攻め込むのだ」
軍議の間に「おお」と声が上がる。
今までのいらだちと屈辱が一気に晴れる予感を覚えたのだ。
周防、石見と安芸の国境では、毛利元就、小早川隆景母娘の采配と謀略のお陰で、陶がたはいつも裏をかかれていた。
決定的な敗北こそないが、地味に劣勢を強いられている。
このままでは兵たちの士気に関わる事態となっているのだ。
「我らの動員可能な戦力は船500と兵力2万。
一気に安芸に攻め込み、元就の首をさらしてやろうぞ」
「尼子母娘を忘れるな。毛利と一緒に打ち首だ」
「今ならじえいたいの陸上戦力と毛利の次女、吉川治部少は備中にいて不在だ。
我らの優位は動かん」
列席している武将たちは鼻息が荒かった。
だが、隆兼だけは不穏なものを感じずにはいられなかった。
上座の晴賢の眼がいつもにも増して濁り、光を宿していなかったからだ。
晴賢は相変わらず巨匠が書いた絵画のように美しい。だが、その時の隆兼の目には、それが晴賢の部品を寄せ集めて作った出来の悪い偽物のように映ったのだ。
(まさか、死に場所を求めているのではありますまいな?)
全てに達観してしまったような目をしている晴賢に、隆兼はそんな疑念を抱かずにはいられないのだった。
かくして、厳島攻撃が決定される。
彼らは知らなかった。自分たちは断崖絶壁に向けて進撃していることを。
安芸、吉田郡山城。
「んん…隆元…?」
「あ…起こしちゃいましたか?」
けだるそうにまぶたを開き、生まれたままの姿の義隆が布団から体を起こす。
同じく生まれたままの姿の隆元は、枕元の水差しから硝子の器(最近自衛隊の協力で安芸で製造されているもの)に水を汲み、飲んでいた。
「義隆様もお水、いかがです?」
「ああ、頂くよ」
器を受け取った義隆は、美味しそうに水を飲んでいく。
「目が覚めたら、一瞬どこにいるのかわからんかったよ」
「あら、ご挨拶ですね。少し前まであんなに愛し合ってたのに」
義隆の言葉に、隆元が冗談めかして返す。
義隆と一緒に亡命してきた冷泉隆豊は、長防の情勢を報告するために護衛艦“ながと”に泊まっている。
義隆を一人にさせておくのは忍びないと、隆元が夜の相手を買って出たのだ。
隆元にしても、義隆と触れあって義隆が生きていることを感じたかった。
陸自のヘリで安芸に運ばれてきた義隆と再会したとき、隆元は涙を流して義隆と抱き合った。
もう会えないかも知れないと内心で思っていたのだ。
そして、数日が経った今でも、知らないうちに義隆がどこか遠いところに行ってしまうのではないかという不安を覚え続けている。
義隆と肌を触れあわせることで、その不安を消そうとしたのだ。
義隆との戯れでは、これまではいわゆるタチ(責め)とネコ(受け)で言えば、義隆がタチ、隆元がネコだった。
が、隆元は今夜は義隆を感じさせたい気分だった。
人質生活の折、義隆に仕込まれた手管を、隆元は余すことなく発揮した。
義隆は唇を、乳首を、女の部分を、尻の穴まで隆元の指と舌で感じさせられ、白い腰を波打たせて何度も絶頂に押し上げられた。
終いには心地よすぎて失神してしまったのだった。
「隆元があんなに上手やなんて知らんかった…。なんか、体が自分の体やないみたいや…。
隆元から離れられんくなりそう。
旦那様に恨まれるかな?」
頬を赤く染めながら、義隆は言う。
「大丈夫でしょ。うちの旦那様は女同士の交わりが大好きですから。
それに、長防の方がこれだけきな臭いと、当分“ながと”から離れられないでしょう。
独り寝するくらいなら、義隆様のお相手を私がするくらいわかってくれますよ」
隆元はそう言って、義隆の長く美しい栗色の髪を優しく撫でる。
義隆は少し考える表情になり、やがて意を決したように口を開く。
「隆元。もし毛利と陶が戦になる時は、うちも“ながと”に乗せてもらえんやろうか?
大内の最期。できればこの目で見ておきたいんよ」
「大内の最期ですか。確かに…そうなる可能性は高いですね。
で、見届けた後はどうしますか?」
義隆の言葉に、隆元は目をのぞき込みながら応え、問う。
「髪下ろしてお寺に入ろうか思ってるんよ。
母義興や今までの当主には申し訳ないけど、うちは、戦国で一国の主として生きられる女やなかったようやしね」
義隆の言葉に、隆元も寂しい気持ちになる。
女傑である母となにかと比較されてきた隆元には、身につまされるものがあったからだ。
「“ながと”に乗ることは、私が旦那様を通じて艦長にかけあってみます。
でも、出家は待って下さい」
そう言って、隆元は義隆と唇を重ねる。
「義隆様にはまだまだお願いすることが山ほどあります。
それに、こんな美しい髪、切ったらもったいないじゃないですか?」
「もう、隆元」
義隆は隆元を抱きしめる。
二人は再び愛し合いたい衝動に襲われる。
「今度はうちが感じさせてあげる」
「はい…あんっ…」
今度は義隆が隆元を感じさせ始める。
互いに愛おしい気持ちが溢れ出て来るのを止めることができない。
二人は空が白み始めるまで愛し合い続けるのだった。
数日後。安芸、呉港。
新設なった桟橋に、ミサイル護衛艦“ながと”とヘリコプター搭載護衛艦“あかぎ”が係留されている。
輸送艦“おおすみ”は備後の制圧に当たっていて不在だ。
“ながと”の士官食堂では、第161任務部隊の幹部自衛官の他、毛利元就と冷泉隆豊も交えて会議が開かれていた。
議題はもちろん、陶隆房改め陶晴賢に牛耳られる大内家に関してだ。
「元就様。大内家から、というより陶殿から再三に渡って臣従するよう求められているとか?」
「ええ、新たな当主、義長様を主と仰ぐようにと」
“ながと”艦長兼隊司令である梅沢一佐の問いに、元就は嘆息しながら答える。
「それで、元就様のご意向はどうです?」
「先の当主の義隆様を保護させて頂いているからには、呑めない話ですね。毛利は陶に仕えているつもりはありませんし。
ただ、備後、備中の制圧が終わらないうちに大内と事を構えるのは避けたいところです」
空自の桐山三佐の言葉に、元就は難しい顔で応じる。
旧尼子領の備後、備中の国人や土豪たちの中には、毛利の支配を簡単には受け入れない者も少なくない。
実際、毛利も自衛隊も備後、備中を固めるのに苦労しているのが現実だ。
二面作戦は避けたいというのもわかる話だ。
「しかし、拒絶するにしても返答を保留するにしても、結局敵とみなされるのでは?
陶晴賢殿は政変を起こして以来、若干疑心暗鬼になっているようですしな」
「そうです。問題はそこなのです。
それと実は、わが長女である大膳大夫(隆元)が陶を討つべしと主張していまして」
元就の言葉に、列席する者たちが意外そうな顔をする。常日頃戦いが嫌いな隆元らしくないと思えたのだ。
「大膳大夫様はわが主に世話になっていましたし、その…個人的にも親密な関係にあります。
わが主を追放して実権を握った尾張の守(晴賢)に憤慨なさっているとか」
それまで口を聞かなかった隆豊が言葉を選びながら発言する。
「隆元様は晴賢殿とも親しかったと聞いていますが?」
「それはそれ、ということかと。
先日も、第二の故郷ともいえる山口が戦災で焼かれた記録映像をご覧になって、かなりお怒りでしたから」
「愛情や信頼は、裏切られたとたん憎しみや怒りに取って代わられる、ということもありますか」
士官食堂に微妙な空気が流れる。気持ちは理解できるが、常に穏やかで戦いを嫌う隆元が主戦論を唱えているというのはいささか寂しい気もするのだ。
「ともあれ、いずれ陶とは戦いになると思っておくべきかと。
毛利家が大内の新しい当主を認めない以上、戦いは不可避でしょ」
それまで沈黙していた霧島が口を開く。
相変わらずの即断即決ぶり、と他の幹部たちが苦笑する。
「それについて異議はないが、どう戦うかという問題が残るな。
“おおすみ”は現状備後から離れられない。
陸自の主力が手が空いていないとなると、兵力で勝る陶が有利ということになる」
陸自指揮官の麻野三佐が渋面を浮かべながら言う。
「そこはこの謀神にお任せ下さい。
要するに、大軍が数の有利を活かせない状況を作ればよろしいのでしょう?」
元就が剣呑な笑みを浮かべる。気のせいか、彼女の眼鏡がきらりと光ったように見えた。
「わかりました。陽動に関しては元就様に一任致します。
なんとか海自と空自、そして安芸に残っている陸自の部隊で対処しましょう。
我々は、陶と戦う」
梅沢の鶴の一声で、自衛隊と毛利は陶と戦うことを決定する。
「それで、陽動についてですが…」
具体的な作戦が話し合われていく。
元就も自衛隊員たちも、すでに戦う覚悟を決めていたのである。
数日後、元就は山口の大内義長に対して、「毛利は陶の傀儡に過ぎない者を大内の当主とは認めず」という書簡を送る。
臣従の拒否。実質的な戦線布告である。
いよいよ、毛利と、陶が実権をにぎる大内は戦争状態へとなだれこんでいく。
長門、山口。
一度焼失し、新築された山口の大内館では議論が紛糾していた。
大内がたの軍事的要衝、草津、矢野などが相次いで毛利と自衛隊に落とされた。大内勢は安芸、周防における戦いの主導権を失いつつあったのだ。
列席する者たちは焦り、興奮していた。
「毛利とじえいたいを許すな!今すぐ安芸に侵攻だ!」
「待て待て、じえいたいの強さは知っているだろう。あれとまともに戦うのもどうかな」
「ふん、いくら火力に優れても、じえいたいは1500人程度に過ぎん。
数で押せば勝てるわ」
「その数で押すのをどうするかが問題なんだろう。じえいたいの鉄砲は連射が効く上に射程もやたらめったら長い」
「戦う場所を選ばなければ一方的にやられる危険があるか。
いっそこちらは待ちに徹して地の利がある周防、石見を戦場としてはどうかな?」
「ばかな!兵力ではこちらが有利なのに、みすみす周防、石見への侵攻を許すというのか!?
冗談ではない!」
会議は収集がつかない有様だった。
毛利を討伐することに関しては全員が意見の相違はない。だが、自衛隊とどう戦うかに関しては列席者の間で温度差があった。
特に、安易な根性論や精神論に任せて突撃を主張する者たちと、無駄死にはごめんだと考える者たちの問答は平行線だった。
「落ち着け、ケンカは敵とするものだ。
私はこの際戦力を集中投入すべきと考える」
軍議の上座の黒髪の美女の言葉に、列席者たちは口を閉じる。
大内家筆頭家老、陶隆房改め陶晴賢だった。
「尾張の守様、してどこを攻めるので?」
豊かな長い茶髪が特徴の美女が問う。
晴賢の側近、弘中隆兼だった。
「厳島だ」
晴賢は地図を指さして言う。
「厳島は古来より交通の要衝であり、船戦においては重要な拠点でもある。
現状は毛利によって要塞化されているが、駐留している兵力は多くない。
我々が制圧して拠点とする。
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軍議の間に「おお」と声が上がる。
今までのいらだちと屈辱が一気に晴れる予感を覚えたのだ。
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決定的な敗北こそないが、地味に劣勢を強いられている。
このままでは兵たちの士気に関わる事態となっているのだ。
「我らの動員可能な戦力は船500と兵力2万。
一気に安芸に攻め込み、元就の首をさらしてやろうぞ」
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「今ならじえいたいの陸上戦力と毛利の次女、吉川治部少は備中にいて不在だ。
我らの優位は動かん」
列席している武将たちは鼻息が荒かった。
だが、隆兼だけは不穏なものを感じずにはいられなかった。
上座の晴賢の眼がいつもにも増して濁り、光を宿していなかったからだ。
晴賢は相変わらず巨匠が書いた絵画のように美しい。だが、その時の隆兼の目には、それが晴賢の部品を寄せ集めて作った出来の悪い偽物のように映ったのだ。
(まさか、死に場所を求めているのではありますまいな?)
全てに達観してしまったような目をしている晴賢に、隆兼はそんな疑念を抱かずにはいられないのだった。
かくして、厳島攻撃が決定される。
彼らは知らなかった。自分たちは断崖絶壁に向けて進撃していることを。
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