自衛隊戦国恋花 ブロッサムオブジパングトルーパーズ

ブラックウォーター

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03 九州の脅威編

報復の花火 宗茂捕縛

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05

 博多沖。ミサイル護衛艦“ながと”。
 「勇馬久しぶり!会いたかったよお!」
 「元春、俺も会いたかったぞ」
 霧島は、ヘリで“ながと”に降り立った毛利家次女、吉川元春と抱き合っていた。
 彼女もまた妻だ。
 離れているのはなんだかんだで寂しかったのだ。
 困難を極めていた中国地方の旧尼子領の制圧はやっと終わることとなる。
 それにともない、陸自と毛利の陸戦力である吉川勢は、輸送艦“おおすみ”と小早川水軍の船に分乗して北九州に参集したのだ。
 「まったく、土豪や地侍たちのお守りばっかりで腐ってたんだよ。
 やっと大友相手に大戦できるよ。
 腕が鳴る!」
 そう言う元春に霧島は苦笑する。
 ゲリラ化した土地の者たちの制圧も重要な任務と、元春も心得ている。だが、やはりどうせなら大軍同士で派手にぶつかり合いたいらしい。
 「うん。
 今回正面を攻めるのは隆元だが、からめ手は元春にお願いしようということだ。
 戦いの勝敗は元春にかかっていると言える。 
 やってくれるね?」
 「もちろんじゃない!」
 元春はにぱっとまぶしい笑顔を浮かべる。
 (本当にかわいい)
 霧島は素直にそう思えた。
 「自衛隊はあの髙橋紹運を捕虜にしたって言うじゃない。
 あたしも負けてられない。
 戦果、期待しててね!」
 霧島の手をぶんぶんと振り回しながら元春が言う。
 「頼むよ」
 霧島も笑顔で応じる。
 
 大友勢に対する報復攻撃は、かくして開始される。

 筑前と豊前の国境。香春城。
「宗麟様、敵は役一万。
 こちらの八割程度です。動きからして別働隊がいると推測されます」
 姫カットの強気そうな美少女、大友家の若き武将、立花宗茂が報告する。
 「わかりました。討って出ます。
 ただし、引き際を見誤ってはなりませんよ?
 敵の戦力をある程度削ったら城に後退なさい!」
 豊かな金髪と碧眼の美女、大友家当主、大友宗麟は下知する。
 守ってばかりでは動きが取れなくなる。攻撃こそ最大の防御だ。
 敵の本隊だけなら充分叩けるはずだが、宗茂の言うとおり別働隊を警戒する必要がある。
 敵の殲滅にこだわらず、ある程度敵を削ったら城に逃げ込んでしまうのが最善の策だ。
 宗麟は内心で歯がみしていた。
 大友に対する毛利と自衛隊の報復は、同時多発的に開始されたのだ。
 特に、龍造寺を叩き出して実効支配した肥前は、鍋島直茂率いる龍造寺、毛利連合軍と陸自によって電撃的に奇襲を受けた。
 戦力を筑前方面に集中していたために、肥前は空き巣狙いを受けたも同然で、大友勢はほとんど戦わずして敗れていった。
 雷鳴こと立花道雪が率いる一軍を出撃させ、なんとか肥前の全土を奪われることは回避できた。が、筑後国境付近のわずかな土地と城を確保するので精一杯だった。
 そして、道雪の不在を見計らって、今度は博多に駐留する毛利の主力が豊前に攻めてきたというわけだ。
 大友としては豊前を渡すわけには行かなかった。豊前が落ちれは゛、いよいよ大友の本拠地、豊後が危うい。陸路と海路から大軍を送り込まれてしまう危険があった。
 「国崩し!放てーっ!」
 宗麟の美しく良く通る声に従い、大砲が火を噴く。
 無数の砲弾が、攻め寄せる毛利勢に降り注いだ。

 「くそ!ぶどう弾だ!」
 「危ない、伏せろ-!」
 「鎖骨が折れたああっ!」
 大砲に複数の小さな砲弾を装填し、大量の火薬で撃ち出すぶどう弾は、地味に驚異だった。
 複数の砲を並べてつるべ打ちをすることで、野戦での面制圧には持って来いだったからだ。
 毛利勢の進撃は鈍ることとなる。
 「準備射撃継続!
 槍隊、攻撃準備!合図で攻めかかるのです!」
 戦況は多くの大砲を有する大友に有利に運んでいた。
 準備射撃の後に槍隊を突撃させれば、敵を瓦解させることさえ可能に思えた。
 が…。
 突然大友勢の後方で巨大な花火が上がる。
 「なんだあれは?」
 「噂に聞く、自衛隊の巨大な火矢か?」
 爆発の方向を振り向くと、今正に光り輝く円筒状のものが、大友の城に突入するところだった。

 「大友の諸君、あいさつ代わりだ」
 “ながと”のCICでは、霧島がアニメの悪役のような表情でスクリーンを見上げていた。
 90式艦対艦誘導弾を示すアイコンが、今正に目標に着弾するところだった。

 一発目に比べて爆発の規模は小さかったが、飛来した円筒は城門と防御設備をきれいに吹き飛ばしてしまった。
 初弾は恐らく城の北側にあった煙硝倉を吹き飛ばしたのだろう。
 城に大規模な火災が起きていることとあわせて、城は軍事拠点としての機能を喪失したことを意味していた。
 「なんと言うこと…。これでは戦い続けることはできない」
 宗麟は呆然とする。
 ある程度敵戦力を削ったら城に逃げ込む作戦がご破算になっただけではない。
 備蓄していた兵糧も城ごと燃えてしまったことになる。
 腹が減っては戦はできないのだ。
 「宗麟様、こうなっては是非もありません。
 豊前国内に撤退しましょう。
 ここにいてはいずれ飢えるだけです」
 「わかりました。
 全軍に撤退を下知なさい!
 ここは引くのです!」
 参謀格の武将の言葉に、宗麟は業腹なものを感じつつも撤退を決意する。
 (じえいたいという軍勢。火力もすごいが頭も切れる。
 城一つが一瞬で崩壊すれば、作戦の前提が崩れることを知っている)
 どんな兵器も、それを使いこなす人間が無能なら腐るだけだ。
 だが、自衛隊は自分たちの力を有効に用いる術を心得ている。
 現に、自分たちは優勢から一転して撤退を余儀なくされている。
 だが、今は考えている暇はない。
 とにかく撤退しなければならないのだ。
 
 戦場においては、当事者よりも第三者からの方が状況が良く見えるということはままある。
 例えるなら、迷路は中を進む者にとっては方角もわからず大変だが、上から見下ろしていると何ほどのこともないのに似ている。
 立花宗茂は、撤退を始めた本隊が敵の策に引っかかりつつあることを察していた。
 「敵が包囲するように動いているのに、あの方向だけ手薄。
 しかも、林がある」
 宗茂は血の気が引いていくのを感じた。
 自分が敵将なら、あの林に絶対伏兵を置いておく。
 いつもならばこの程度、宗麟が罠だと看破していただろう。
 だが、城が突然爆破されるという事態に、宗麟はいつもの聡明さと冷静さを失っているようだ。
 「全軍続け!宗麟様の支援に向かう!」
 宗茂は軍配で本隊の方を差し、号令する。
 こうなった以上待ち伏せを受けてしまうのは不可避だろう。
 ならば、味方の損害を少しでも抑えることを考える必要がある。

 「敵は罠にかかった!
 好機だよ!大友宗麟を討て!恩賞は思いのままだ!」
 伏兵たちを指揮する元春は勇んでいた。
 宗麟の馬印を掲げた大友勢本隊が、狙い通りにこちらに来てくれたからだ。
 林だけでなく、周辺の丘や茂みにも潜んでいた伏兵たちが、確実に包囲を狭めつつある。
 一方の大友本隊は、まともに隊列も組めないまま撤退を開始したため、味方が邪魔になり、大半の兵が戦闘ができない状態にあった。
 「よし、いいよ!
 予定通り谷に追い込め!」
 元春は、さらに包囲を狭めつつ、敵を谷に押し込んでいく。
 谷は断崖絶壁だ。大友勢は、斬られるか谷に蹴落とされるかを選択することになる。
 「やらせはしない!」
 妙にかわいい声が周囲に響く。
 そして、突然吉川勢の脇腹を突く形で無数の矢が射かけられてくる。
 「ちっ!立花宗茂か?
 いいところなのに!」
 元春は、逆に自分たちが奇襲を受けてしまったことに憤る。
 宗茂が救援に来る事は想定していたのだが、あまりにも速かったのだ。
 (飛将とはよく言ったもの)
 が、「まあいい」と彼女はすぐに頭を切り換える。
 こういうときのための自衛隊だ。
 宗茂は確かに自分たちの脇腹を突いた。だが、その刃が骨にまで届くことはないだろう。
 「自衛隊に連絡!左手から立花飛騨守(宗茂)の脇を突かれたし!」
 元春は、宗茂の部隊が駆けつけるのを急ぎすぎたために、攻めに傾注しすぎて防御をおろそかにしていることを見抜いていた。
 その予測通り、陸自の89式装甲戦闘車二台が稜線から姿を現し、機関砲による攻撃をかけ始めると宗茂の部隊はたちまち瓦解していく。
 全ての兵が正面を向いていたため、側面からの攻撃に全く無防備だったのだ。
 だが、宗茂はここで思い切った行動に出る。
 「ひるむな!転進しても撃たれるだけだ!正面突破!
 敵の包囲を破って本隊を誘導する!」
 もはや部隊に犠牲が出るのも覚悟の上と開き直った宗茂は、一点集中の中央突破を試みたのだ。
 「ちょっと!正気なの?
 いや、見上げた忠誠心と言うべきか。
 本体、二手に分かれる。一番から三番までは包囲を維持、四番から六番まではあたしに続け!」
 元春は開き直った宗茂を迎え撃つよう陣形を修正する。
 だが、それは包囲が手薄になってしまうということでもあった。
 「元春様!包囲が突破されました!大友宗麟、逃げて行きます!」
 結局、暴れる熊によって網は破られた。宗麟の本隊が包囲を破って逃げ出したのである。
 「ええい!こうなったら飛騨守だけでも捕まえてやる!」
 元春は八つ当たり気味に宗茂の馬印に向けて部隊を突貫させる。
 装甲戦闘車に加え、陸自の普通科による小銃と分隊支援火器の射撃で、宗茂の部隊はいよいよ殲滅されつつあった。
 いつの間にか孤立無援となっていた宗茂は、迷彩服を着た自衛隊員に包囲されていた。
 「誰から死にたい?死なばもろともだ」
 愛用の両刃の刀、長光を抜いた宗茂は、自衛隊員たちをにらみつける。
 「とんでもない」
 後ろ、ごく近くからかけられた声に振り向いた宗茂は、他の自衛隊員たちに比べて軽快そうな装備をまとった男の存在に気づく。
 その男が持った口径の大きな銃が火を吹くのがおぼろげに見えた。
 凄まじい衝撃が胸に走り、宗茂の意識は闇に吸い込まれた。
 
 「元就様より、生かして捕まえろとのお達しなんでね」
 特戦の楠原二等陸尉は、カスタムされたレミントンM870から非致死性のゴム弾の薬きょうを排出しながら言う。
 「ある意味、死ぬよりも苦しくて屈辱的なことになるんじゃ?」
 まだ若い二曹が苦笑いしながら気絶した美少女を見る。
 元就によってこの美貌を利用されるか、かわいい女の子に目がない隆元の性の奴隷として飼われ、挙句百合妊娠をさせられるか。どちらにせよ過酷だ。
 「まあ、生きていればいいこともある。そう信じようじゃないか?」
 二曹の言い分を否定しきれない楠原は、そう言って宗茂の身柄の確保を命じるのだった。
 「またお母さんが勝手に命令を下してたの?
 困るなあ。最高指導者が現場に口を挟んでくるのは」
 いつの間にか近くに来ていた元春が、唇を尖らせる。
 元就が毛利家の当主であることは認める。だが、自分に相談もなく宗茂を生け捕れと命令していたのが不満らしい。
 「申し訳なかったとは思っています。しかし、立花宗茂殿は殺す気でかからずに倒せる相手ではありません。
 元春様には、首を取るつもりで宗茂殿を攻めて頂く必要があると」
 「それってあたしが単純てこと?ご挨拶だね!」
 「いえ、元春様を大事に思われている親心でしょう。
 敵将を生け捕りにするために、娘に万一のことあってはなるまいと、お母上は思っておいでなのです」
 憤る元春に、楠原は考えつく限りの言葉をかける。お世辞、気休め、慰め。
 元春が単純であることは否定しないままに。

 かくして、豊前国境の戦いは、大将である宗麟の離脱こそ成功したものの、多くの兵力を失う。
 また、大友家にとって期待の新星であった宗茂が捕虜となってしまった事実は、大友家の将兵の士気に大きな影を落とすのだった。
 
 
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