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04 龍の巣
赤い猛獣
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02
「FOX-2!」
FA-18Cの部隊がHUDに捉えられ、100キロの距離から5発の99式が放たれる。
今度の敵飛行隊は、これまでの部隊とは機体も練度も違うようだった。
99式は最右翼の1機を撃墜した1発を除き、全てかわされる。
「クロスレンジに持ち込むぞ!」
『了解。ドッグファイトと行こう』
フレイヤ隊のF-15Jは、散開したFA-18Cに向かって加速をかけた。
敵に回避のすきを与えず、04式を撃ち込んで1機を仕留める。
『フレイヤ1、敵機を撃墜』
そのまま後ろを取ろうとする別の1機から逃れるべく、尾根に向けて急降下をかける。
この“龍巣”は年中突風が吹き荒れる場所だ。
操縦を誤ればたちまち墜落だ。だが、エスメロードの機動に危なげはなかった。
『くそ!ついて行けんのか!』
風にあおられて引き離されるFA-18Cのパイロットが毒づく。
元々空母艦載機として設計されたFA-18シリーズは、離発着時や巡航時の安全性を優先した構造になっている。
単純な加速力や機動性では、どうしてもF-15Jに比べて見劣りするのだ。
「FOX-3」
急旋回をかけてFA-18CをHUDに捉え、20ミリ機銃を浴びせる。
墜落を怖れて高度を下げることをためらったのが敵の致命傷になった。
アフターバーナーを焚くのも空しく、FA-18Cは火の玉となって落ちていく。
『注意、レーダー照射を受けている』
エスメロードはE-767からの警告に応じて、緩やかに旋回しながら加速する。
『FOX-2』
エスメロードを捉えそこなった1機が、ジョージによって撃墜されていた。
残った3機も、機体の性能をうまく引き出せないまま次々と落とされていく。
「こいつで最後だ!」
エスメロードは最後のFA-18Cを猛追しながら、99式を発射する。
舵を切るたびに身体と脳が左右に揺さぶられるが、振り切られることはなかった。
5機の敵に囲まれてよく戦ったと言えたが、さすがに限界だったらしい。
最後の1機も爆発四散して、“龍巣”の地に転がるスクラップのひとつになる。
『ニアラスが敵機を撃墜した』
リチャードが歓喜の声を上げる。
(ほんとにガキだな。まあ、楽しめているならいいが)
はしゃぐリチャードに呆れながらも、エスメロードは思う。
戦闘を楽しむのは悪いことではない。
どうせ殺し合いの果てに誰かが死ぬのだ。
(楽しんでやろうが、悲しんで哀悼の意を表しながらやろうがどんな違いがある?)
戦闘を楽しむのが不謹慎と批判する者は、単に戦闘を知らない素人か、きれい事を並べるだけの偽善者と相場が決まっている。
前戦で命のやりとりをしている自分たちには、戦闘を楽しむ権利がある。
それで兵士が戦闘にストレスを感じずにすむならいいことなのだ。
エスメロードはそう思うのだった。
『こちらAWACS。フレイヤ隊、ブリュンヒルデ隊は引き続き周囲を警戒せよ』
「フレイヤ1コピー」
エスメロードは無線に応じて、周囲を見回す。
まだ終わりではない。そんな気がしたのだ。
エスメロードの予測は悪い方に当たる。
『こちらAWACS。
あらたな敵部隊2つ接近中。北西と北からだ。
フレイヤ隊、ブリュンヒルデ隊交戦せよ。敵機のデータを送る』
E-767からの通信で、敵の増援がさらに2部隊駆けつけてきたことが知らされる。
データに寄れば、北西から侵入する部隊はF-4Eが6機。
来たから接近する部隊はF-14Dが4機であるようだ。
『くそ、きりがないな…』
「仕方ないだろう。
ブリュンヒルデ隊は北西の部隊を頼む。北の敵はこっちで受け持つ」
残弾と燃料を気にしてぼやくガートルードに、エスメロードは指示を送る。
今が“龍巣”の制空権を取れるかの正念場だ。
やるしかない。
『ブリュンヒルデ1了解。敵は高性能機だ。気をつけてな。
バッドボーイ、キッド、続行せよ』
『バッドボーイコピー』
『キッドラジャー』
ブリュンヒルデ隊は、一糸乱れぬ連携で旋回すると北西を目指す。
「こちらも行くぞアールヴ」
『アールヴコピー』
フレイヤ隊はアフターバーナー吹かして、敵に接近していった。
デウス国防空軍第4航空師団第11航空隊、通称ルビン隊。
主翼と尾翼を赤で塗装した、4機のF-14Dで構成される。
その長射程を活かして、多くの敵をアウトレンジから葬ってきた猛者たちだった。
最近アキツィア方面戦線で多数のデウス軍機を撃墜している敵部隊が“龍巣”に現れた。
その知らせを受けて、迎え撃つべく出撃したのだ。
『こちらリッター。各機、バッドニュースだ。
敵はF-15が2機。かなり手強いと思った方がいい。
ロングレンジで仕留めるぞ』
1番機であるゲオルグ・フラー大尉TACネーム“リッター”(騎士)は部下たちに伝える。
情報では、怪物じみた強さを誇る敵部隊はMig-29とF-15Jのコンビだったはずだ。
Mig-29も高性能機ではあるが、圧倒的な脅威にはならないと予測された。
(だが、現在でも世界トップクラスの性能を持つF-15Jが2機では?)
フラーはそこには絶対の自信を持てなかった。
無理をすることはない。
レーダーの性能とミサイルの射程であればこちらが有利なのだ。
『攻撃開始』
フラーの号令で、ルビン隊は一斉に長距離ミサイルを発射した。
『注意、レーダー照射を受けている』
『ちっ。この距離でか!』
AWACSからの警告に、ジョージが舌打ちする。
そして、フレイヤ隊は敵の脅威をすぐ察知することになる。
「AAM(対空ミサイル)接近!回避!」
エスメロードは無線に叫びつつ機体を翻す。
距離が遠すぎて敵ミサイルはこちらを追い切れなかった。だが、回避のタイミングが遅れていたら危うかったかも知れない。
(なんて射程だ)
まだ敵まで140㎞もあるにも関わらず、かなり正確に撃ってきた。
『さすがF-14だな』
「ああ、強力なレーダーを搭載した複座機ならではだ」
F-14シリーズは、強力なレーダーと長射程のミサイルを搭載する複座の防空機として設計されている。
長距離でも索敵とミサイルの誘導が可能な上に、複座であるため、操縦とミサイルの誘導を分担することができる(というより、後部座席に操縦機能がないためミサイルの誘導しかできない)。
後部座席のエンジニアリングオフィサー(兵装士官)がミサイルの誘導に専念できるため、距離が遠くとも正確なコントロールが可能というわけだ。
(ロングレンジでは勝ち目はないか)
『フレイヤ隊、ミサイル接近!』
加速をかけて敵との距離をつめようとするが、その間にも長射程ミサイルが飛んでくる。
フレイヤ隊は急降下しつつ旋回してやり過ごす。
低空では複雑な地形にレーダーが乱反射して、ミサイルはこちらを見つけることができないのだ。
「ちらっとだが見えた。R-77、ラムジェット型の長距離ミサイルと思われる。
アールヴ、接近するぞ。クロスレンジに持ち込めばこちらが有利なはずだ」
『アールヴコピー!報復するぞ!』
フレイヤ隊は加速しつつ緩やかに旋回して敵に接近していく。
R-77は優秀な対空ミサイルだが、そのアドバンテージは長射程にある。
逆に言うと、接近してしまえば性能を活かしきれないはずだ。
『注意!ミサイルアラート』
「これしきのこと!」
距離が100㎞までつまると、ようやく敵部隊を99式空対空誘導弾の射程に入れることができる。
エスメロードとジョージは、フレアを発射しつつ機体を降下させてR-77を回避。
そのまま上昇して返す刀で99式を発射する。
『ロックされた』
F-14Dの部隊は回避行動に入る。
2発の99式のうち、敵機を撃墜できたのはジョージの放った1発だけだった。
が、威嚇効果は高かったらしい。
敵は編隊を維持できず、各個に回避運動を取らざるを得なくなる。
『各機、接近戦に備えよ』
敵1番機は冷静だった。
だが、クロスレンジに持ち込んでもF-14Dはしぶとかった。
『ち、なかなかやるな!』
「さすが複座の可変機だ!」
エスメロードとジョージは、なかなか敵機をHUDに捉えられずにいた。
可変翼を活かして高い機動性を発揮する上に、回避機動中でもかなり正確にミサイルを撃ってくるのだ。
『各機、こちらの機動力を見せてやれ』
(後部座席がミサイルの誘導に専念できるとこれほど強いとは)
パイロットは回避に専念し、エンジニアリングオフィサーが索敵と攻撃を担当する。
恐らく2人の間に阿吽の呼吸が必要だろうが、この部隊はそれを可能としているのだ。
「ちっ!可変翼をうまく活用している」
鮮やかな赤に塗装された可変翼が忙しく角度を変える。
加速時には閉じて空気抵抗を減らし、旋回時には開いて揚力を稼ぐ。
可変翼機ならではのキレのあるマニューバだった。
「だが、基本性能ではこっちが上だ!」
エスメロードはアフターバーナーを吹かしながら旋回し、敵機の後ろを取る。
エンジン出力が同等なら、重い可変翼を持つF-14Dは加速力や軽快さの面でどうしてもF-15Jに及ばないのだ。
「FOX-2!」
04式空対空誘導弾が至近距離で発射され、F-14Dが火の玉となって後方に流れ去る。
『FOX-2』
対してジョージは、無理にドッグファイトを挑むことをせず99式の撃ちっぱなし能力を活かして一撃離脱で敵機を撃墜していた。
『“龍巣の雷神”やるじゃないか』
最後に残った敵1機は、墜落も怖れずとばかりに低高度で機体をぶん回す。
『FOX-2』
ジョージが放った04式はあっさりと回避される。
だが、そこまでだった。
「FOX-2!」
『ちっ!ミサイルアラート!』
低空に降下したら、必然的に上昇しなければならない。
天候が不安定な上に地形が複雑で、航空機には難所であるこの“龍巣”であればなおのこと。
頭を上げた瞬間が、F-14Dの運の切れ目だった。
電波干渉や欺罔に強く設計されている99式の追従は、この“龍巣”の低空でも危なげがない。
F-14Dはフレアを発射して機体を急上昇させるが、空しく99式に食らいつかれ爆発四散した。
『ニアラス、お疲れ。
手強かったな』
「ああ、さすが高性能機だけはある」
エアマスクを外してバイザーを上げたエスメロードは、自分が疲れ切っていることに気づいた。
それだけ、敵機とそのパイロットが手強かったことを意味していた。
『こちらAWACS。周辺に敵影なし。
作戦終了。フレイヤ隊、ブリュンヒルデ隊帰還せよ』
「了解、ミッションコンプリート、RTB!」
エスメロードはE-767からの無線に応じて、機体を南に向ける。
北西から侵入していたF-4Eの部隊も、ブリュンヒルデ隊によって殲滅された。
(昼食には間に合いそうだ)
そんなことを思う。
最近出撃が多く、コックピットで食事をする頻度が上がっていた。携帯食のサンドイッチやホットドッグばかりで食傷していたのだ。
(海鮮のマリネが食べたい)
痛烈にそう思った。
「FOX-2!」
FA-18Cの部隊がHUDに捉えられ、100キロの距離から5発の99式が放たれる。
今度の敵飛行隊は、これまでの部隊とは機体も練度も違うようだった。
99式は最右翼の1機を撃墜した1発を除き、全てかわされる。
「クロスレンジに持ち込むぞ!」
『了解。ドッグファイトと行こう』
フレイヤ隊のF-15Jは、散開したFA-18Cに向かって加速をかけた。
敵に回避のすきを与えず、04式を撃ち込んで1機を仕留める。
『フレイヤ1、敵機を撃墜』
そのまま後ろを取ろうとする別の1機から逃れるべく、尾根に向けて急降下をかける。
この“龍巣”は年中突風が吹き荒れる場所だ。
操縦を誤ればたちまち墜落だ。だが、エスメロードの機動に危なげはなかった。
『くそ!ついて行けんのか!』
風にあおられて引き離されるFA-18Cのパイロットが毒づく。
元々空母艦載機として設計されたFA-18シリーズは、離発着時や巡航時の安全性を優先した構造になっている。
単純な加速力や機動性では、どうしてもF-15Jに比べて見劣りするのだ。
「FOX-3」
急旋回をかけてFA-18CをHUDに捉え、20ミリ機銃を浴びせる。
墜落を怖れて高度を下げることをためらったのが敵の致命傷になった。
アフターバーナーを焚くのも空しく、FA-18Cは火の玉となって落ちていく。
『注意、レーダー照射を受けている』
エスメロードはE-767からの警告に応じて、緩やかに旋回しながら加速する。
『FOX-2』
エスメロードを捉えそこなった1機が、ジョージによって撃墜されていた。
残った3機も、機体の性能をうまく引き出せないまま次々と落とされていく。
「こいつで最後だ!」
エスメロードは最後のFA-18Cを猛追しながら、99式を発射する。
舵を切るたびに身体と脳が左右に揺さぶられるが、振り切られることはなかった。
5機の敵に囲まれてよく戦ったと言えたが、さすがに限界だったらしい。
最後の1機も爆発四散して、“龍巣”の地に転がるスクラップのひとつになる。
『ニアラスが敵機を撃墜した』
リチャードが歓喜の声を上げる。
(ほんとにガキだな。まあ、楽しめているならいいが)
はしゃぐリチャードに呆れながらも、エスメロードは思う。
戦闘を楽しむのは悪いことではない。
どうせ殺し合いの果てに誰かが死ぬのだ。
(楽しんでやろうが、悲しんで哀悼の意を表しながらやろうがどんな違いがある?)
戦闘を楽しむのが不謹慎と批判する者は、単に戦闘を知らない素人か、きれい事を並べるだけの偽善者と相場が決まっている。
前戦で命のやりとりをしている自分たちには、戦闘を楽しむ権利がある。
それで兵士が戦闘にストレスを感じずにすむならいいことなのだ。
エスメロードはそう思うのだった。
『こちらAWACS。フレイヤ隊、ブリュンヒルデ隊は引き続き周囲を警戒せよ』
「フレイヤ1コピー」
エスメロードは無線に応じて、周囲を見回す。
まだ終わりではない。そんな気がしたのだ。
エスメロードの予測は悪い方に当たる。
『こちらAWACS。
あらたな敵部隊2つ接近中。北西と北からだ。
フレイヤ隊、ブリュンヒルデ隊交戦せよ。敵機のデータを送る』
E-767からの通信で、敵の増援がさらに2部隊駆けつけてきたことが知らされる。
データに寄れば、北西から侵入する部隊はF-4Eが6機。
来たから接近する部隊はF-14Dが4機であるようだ。
『くそ、きりがないな…』
「仕方ないだろう。
ブリュンヒルデ隊は北西の部隊を頼む。北の敵はこっちで受け持つ」
残弾と燃料を気にしてぼやくガートルードに、エスメロードは指示を送る。
今が“龍巣”の制空権を取れるかの正念場だ。
やるしかない。
『ブリュンヒルデ1了解。敵は高性能機だ。気をつけてな。
バッドボーイ、キッド、続行せよ』
『バッドボーイコピー』
『キッドラジャー』
ブリュンヒルデ隊は、一糸乱れぬ連携で旋回すると北西を目指す。
「こちらも行くぞアールヴ」
『アールヴコピー』
フレイヤ隊はアフターバーナー吹かして、敵に接近していった。
デウス国防空軍第4航空師団第11航空隊、通称ルビン隊。
主翼と尾翼を赤で塗装した、4機のF-14Dで構成される。
その長射程を活かして、多くの敵をアウトレンジから葬ってきた猛者たちだった。
最近アキツィア方面戦線で多数のデウス軍機を撃墜している敵部隊が“龍巣”に現れた。
その知らせを受けて、迎え撃つべく出撃したのだ。
『こちらリッター。各機、バッドニュースだ。
敵はF-15が2機。かなり手強いと思った方がいい。
ロングレンジで仕留めるぞ』
1番機であるゲオルグ・フラー大尉TACネーム“リッター”(騎士)は部下たちに伝える。
情報では、怪物じみた強さを誇る敵部隊はMig-29とF-15Jのコンビだったはずだ。
Mig-29も高性能機ではあるが、圧倒的な脅威にはならないと予測された。
(だが、現在でも世界トップクラスの性能を持つF-15Jが2機では?)
フラーはそこには絶対の自信を持てなかった。
無理をすることはない。
レーダーの性能とミサイルの射程であればこちらが有利なのだ。
『攻撃開始』
フラーの号令で、ルビン隊は一斉に長距離ミサイルを発射した。
『注意、レーダー照射を受けている』
『ちっ。この距離でか!』
AWACSからの警告に、ジョージが舌打ちする。
そして、フレイヤ隊は敵の脅威をすぐ察知することになる。
「AAM(対空ミサイル)接近!回避!」
エスメロードは無線に叫びつつ機体を翻す。
距離が遠すぎて敵ミサイルはこちらを追い切れなかった。だが、回避のタイミングが遅れていたら危うかったかも知れない。
(なんて射程だ)
まだ敵まで140㎞もあるにも関わらず、かなり正確に撃ってきた。
『さすがF-14だな』
「ああ、強力なレーダーを搭載した複座機ならではだ」
F-14シリーズは、強力なレーダーと長射程のミサイルを搭載する複座の防空機として設計されている。
長距離でも索敵とミサイルの誘導が可能な上に、複座であるため、操縦とミサイルの誘導を分担することができる(というより、後部座席に操縦機能がないためミサイルの誘導しかできない)。
後部座席のエンジニアリングオフィサー(兵装士官)がミサイルの誘導に専念できるため、距離が遠くとも正確なコントロールが可能というわけだ。
(ロングレンジでは勝ち目はないか)
『フレイヤ隊、ミサイル接近!』
加速をかけて敵との距離をつめようとするが、その間にも長射程ミサイルが飛んでくる。
フレイヤ隊は急降下しつつ旋回してやり過ごす。
低空では複雑な地形にレーダーが乱反射して、ミサイルはこちらを見つけることができないのだ。
「ちらっとだが見えた。R-77、ラムジェット型の長距離ミサイルと思われる。
アールヴ、接近するぞ。クロスレンジに持ち込めばこちらが有利なはずだ」
『アールヴコピー!報復するぞ!』
フレイヤ隊は加速しつつ緩やかに旋回して敵に接近していく。
R-77は優秀な対空ミサイルだが、そのアドバンテージは長射程にある。
逆に言うと、接近してしまえば性能を活かしきれないはずだ。
『注意!ミサイルアラート』
「これしきのこと!」
距離が100㎞までつまると、ようやく敵部隊を99式空対空誘導弾の射程に入れることができる。
エスメロードとジョージは、フレアを発射しつつ機体を降下させてR-77を回避。
そのまま上昇して返す刀で99式を発射する。
『ロックされた』
F-14Dの部隊は回避行動に入る。
2発の99式のうち、敵機を撃墜できたのはジョージの放った1発だけだった。
が、威嚇効果は高かったらしい。
敵は編隊を維持できず、各個に回避運動を取らざるを得なくなる。
『各機、接近戦に備えよ』
敵1番機は冷静だった。
だが、クロスレンジに持ち込んでもF-14Dはしぶとかった。
『ち、なかなかやるな!』
「さすが複座の可変機だ!」
エスメロードとジョージは、なかなか敵機をHUDに捉えられずにいた。
可変翼を活かして高い機動性を発揮する上に、回避機動中でもかなり正確にミサイルを撃ってくるのだ。
『各機、こちらの機動力を見せてやれ』
(後部座席がミサイルの誘導に専念できるとこれほど強いとは)
パイロットは回避に専念し、エンジニアリングオフィサーが索敵と攻撃を担当する。
恐らく2人の間に阿吽の呼吸が必要だろうが、この部隊はそれを可能としているのだ。
「ちっ!可変翼をうまく活用している」
鮮やかな赤に塗装された可変翼が忙しく角度を変える。
加速時には閉じて空気抵抗を減らし、旋回時には開いて揚力を稼ぐ。
可変翼機ならではのキレのあるマニューバだった。
「だが、基本性能ではこっちが上だ!」
エスメロードはアフターバーナーを吹かしながら旋回し、敵機の後ろを取る。
エンジン出力が同等なら、重い可変翼を持つF-14Dは加速力や軽快さの面でどうしてもF-15Jに及ばないのだ。
「FOX-2!」
04式空対空誘導弾が至近距離で発射され、F-14Dが火の玉となって後方に流れ去る。
『FOX-2』
対してジョージは、無理にドッグファイトを挑むことをせず99式の撃ちっぱなし能力を活かして一撃離脱で敵機を撃墜していた。
『“龍巣の雷神”やるじゃないか』
最後に残った敵1機は、墜落も怖れずとばかりに低高度で機体をぶん回す。
『FOX-2』
ジョージが放った04式はあっさりと回避される。
だが、そこまでだった。
「FOX-2!」
『ちっ!ミサイルアラート!』
低空に降下したら、必然的に上昇しなければならない。
天候が不安定な上に地形が複雑で、航空機には難所であるこの“龍巣”であればなおのこと。
頭を上げた瞬間が、F-14Dの運の切れ目だった。
電波干渉や欺罔に強く設計されている99式の追従は、この“龍巣”の低空でも危なげがない。
F-14Dはフレアを発射して機体を急上昇させるが、空しく99式に食らいつかれ爆発四散した。
『ニアラス、お疲れ。
手強かったな』
「ああ、さすが高性能機だけはある」
エアマスクを外してバイザーを上げたエスメロードは、自分が疲れ切っていることに気づいた。
それだけ、敵機とそのパイロットが手強かったことを意味していた。
『こちらAWACS。周辺に敵影なし。
作戦終了。フレイヤ隊、ブリュンヒルデ隊帰還せよ』
「了解、ミッションコンプリート、RTB!」
エスメロードはE-767からの無線に応じて、機体を南に向ける。
北西から侵入していたF-4Eの部隊も、ブリュンヒルデ隊によって殲滅された。
(昼食には間に合いそうだ)
そんなことを思う。
最近出撃が多く、コックピットで食事をする頻度が上がっていた。携帯食のサンドイッチやホットドッグばかりで食傷していたのだ。
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たぬきち25番
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