異世界帰還書紀<1>

空花 ハルル

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初任務

道中−3

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「これで、辺りの様子の監視をお願い!異常があったら、すぐに知らせて!」
「わかった!」
蒼は、両手で双眼鏡を持つと、辺りをキョロキョロと見渡しだした。

それから約1時間、ランツェが馬車を走らせるが、それといった危険な動物が見つかるっことはなかった。見つけたとしても、シカやタカなどの無害な生物ばかりだ。
「見つからない。まあ、見つからない方が良いのかもしれないけど・・」
「確かにそうかもね、危険だし。その分、ヒグマなどの生物の皮は、高く取引できるんだよ。」
蒼はランツェの話を興味深そうに聞いている。それと同時に、目を右左と動かしながら、周りを見ている。
ランツェは、そんな蒼の姿を見て、クスッと小笑いした。

そして、2時間後・・
夕日がほとんど山に沈み、辺りが暗くなってきた。
向こうの山の辺りには、トキ色の夕焼けの空が広がっており、帯連なった雲がまた壮観さを底上げしている。
「もうそろそろ、日が沈むね。蒼」
「そうだな」
蒼は、何も考えずに、その美しい夕焼けを眺め続けている。
その間、ランツェが何度か話しかけても、聞こえていないくらい、その圧感の景色に見惚れていたようだ。
2、30分もすると、太陽は山に隠れ、空は闇に包まれた。
「何にも見えなくならない!夜の山は危険だと思うけど」
蒼は慌てて、ランツェに聞く。
「大丈夫だよ。それに、もうすぐ頂上だよ!」
森を抜けると、辺りは一面の草原が広がっているのが、薄暗い視界の先に見える。
そして、夜空には星が一面に広がっていた。
「うっ。着いたのか?」
「目的地には、まだね。今日、寝る場所だよ。テントを張ったり、食事の準備をしたりするから、ちょうど良かった」
ランツェが2枚のテントを抱えている。
「わかった。手伝おう」

3人は、夕食の下ごしらえやテント張りなどを40分弱ほどで済ませた。そして、まだ沸騰していない鍋を囲んで、座っている。
「・・星がキレイだな」
「そうだね。それに、ロートンさんの2階の部屋から見た時より、多く感じる」
蒼とサンダーは、その無数の星々を瞬きもせず眺めている。
その横で、ランツェは料理の仕上げに取り掛かっていた。

「今日の夕食のメニューを紹介するね。・・」
メニューは、レーズン入りのパン、クリームスープ、そして、バーベキューらしい。
「キャンプみたいだ」
「みたいだ、じゃない。実際に、キャンプだ。これは・・」
サンダーのそのツッコミで、蒼とランツェは軽く笑い出した。それにつられて、サンダーも少しクスッと笑っている。

串刺しにされた野菜や肉、海鮮などを焼いて、パンと一緒に食べる。蒼たちがいた場所では、米の方が主流だった。パンが存在しない訳では無いが・・。
「以外に、焼き肉とパンも合うんだ!」
「そうだな!これはこれで美味いな!」

食事を済ませ、片付けをしている内に時間は、とうに11時を過ぎていた。
3人はマットを敷き、川の字になって、星を眺めている。星の中には、バーの2階から見えていた橙色の星も見えている。
「あの少し目立つ星の名前は、セレネって呼ばれていて・・。過去に存在した女神の名前が由来なんだって」
「そうなのか、詳しいな!ランツェ。」
ランツェは、星に興味を寄せており、よくテネレ国立図書館で借りて読んでいるらしい。詳しいのは、そのためだそうだ。
「それから、あの星は・・」
ランツェの星のうんちく・・ではなく、説明は数分間続いた。
そんな中、テントの後ろの背が高めの草むらが、ガサッと揺れる音が聞こえた。
「何だ。」
耳を澄ますと、草むらからは何らかの動物のグルルという激しい威嚇声と鼻息が聞こえている。
「下がって!二人とも!」
ノソノソと熊のようでそうでないような見たことのない生物が姿を表した。
「こいつは!少し前から、遭遇が報告されている突然変異型生物だ。」
突然変異型生物というのは、低級精霊に取り憑かれたり、属性持ちの魔物の一部を口にすることで、その力を使えるようになったモノのことらしい。
「もしかして戦う気?ランツェ」
「もちろん戦うつもりよ。まあ、二人は見てて。突然変異型生物とは、一度やり合ったことがあるからね。」
そう言うと、ランツェは槍を構え、単独でその生物に向かって、走っていった。
蒼とサンダーは止めようとしたが、ただ黙って見ていることしかできない。

「はっ!」
ランツェは生物の引っ掻き攻撃を華麗にかわすと、首元目がけて、力一杯突きをした。突きが命中すると、生物は後ろにのけぞった。どこかランツェのことを睨みつけているように見える。
「やっぱり再生し始めたね。」
「どうするんだ、ランツェ」
ランツェは、後ろに魔法陣を作り出すと『サード・フレイム』という名の技を放った。3つの魔法陣から火球が放たれる技のようだ。
火球をほぼゼロ距離で命中させると、生物はグォォと叫び声を上げると、倒れ込み、起き上がろうと必死にもがいている。
「これで、トドメね。」
ランツェは倒れ込んだ生物の上に立つと、指を銃の形にすると脳天に『フレイムショット』を一発撃ち込んだ。
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