異世界帰還書紀<1>

空花 ハルル

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初任務

研究

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「俺に何か用ですか?」
「警戒してるのか?それじゃあ、自己紹介でもしとこう。僕の名前は、ルイス」

「何の用か?だったよな。実は・・」
ルイスは、町では2人しかいない研究家の一人であり、町長の息子でもある。研究内容は、宿るモノについてのことだそう。その研究対象として、蒼の刀に宿っているモノをとりあえず、見てみたいとのことだ。
「ここで話すのも申し訳ない、上がって!詳しくは中で話す・・」
「分かった。だけど、長くは話せません。二人を待たせてますから」
そう言うと、蒼はルイスの家に上がった。

「外でも話したが・・その剣、見せてくれるか?」
蒼は頷き、刀を片手で持ち、手渡した。ルイスは、その刀を手に取った瞬間、興味深そうにジロジロと刀を見回している。
「何か分かりました?ルイスさん」
「かなり興味深いモノだな、これは。・・何が興味深いか、って?」
蒼が聞いてもいないのに、ルイスは勝手に話しだした。
「普通、無生物に何かが宿ると、その力に耐えきれずに壊れていってしまう。しかし、これはそうでない。研究材料のためにも、この剣についての情報を教えてほしい、さらなる事が分かるかもしれない。」
刀について、蒼が知っていることは、1つのみ。
この刀は二、三代前(2,300年前)から存在していて、その時の持ち主の魂が宿っている(らしい)ということ。
「なるほど。この剣・・ぜひとも、研究サンプルとして、欲しいが・・」
ルイスは頭を抱えながら、蒼の顔をチラチラ見ている。
そのような目をされても、蒼も、さすがに刀を差し出す気は微塵もなかった。
「流石に・・あげられません。協力できず、すみません」
蒼は丁寧に断り、謝ることにした。
「やはり、駄目か。他の実け・・研究をしよう」
ルイスはそう言うと、立ち上がり、奥の方から一冊の分厚い本を持ち出してきた。本は、ボロボロになっているところがチラホラあり、付箋もついている。
蒼は(今、実験って、言おうとした?)と心配になりつつ、ルイスの話を聞くことにする。
「この研究をしたいけど・・」
ルイスは、本の1ページを指さした。そのページのタイトルは『移し替えの研究記録』というものだ。蒼は、その内容を読もうとしたが、殆どが走り書きのようで、読むことができなかった。
「読めないと思う、僕の口から説明しよう」
研究内容は、タイトルの意味そのままである。簡単に言えば、他のものに宿っているモノを、別のものに移す・・だけのことだ。
「危険はないのですか?」
「うーん。全く危険が無いって、言ったら嘘になるか」
過去数回行った動物実験では、失敗例が数多くあった。ここ数回では、ないみたいだが。初期の頃では、実験に使用した動物が死亡した事例もある。
そして、人間で実験するのは、今回が初だそう。人間で実験するにも、非戦闘員で実験するわけにもいかない。
ちょうど、町に3人の冒険者が来ると聞きいた。冒険者協会からの情報(プロフィール)を見せてもらった上で、目をつけたのが、蒼だ。
「するもしないも自由だが。成功すれば、かなりのメリットが得られるはずだ」
メリットは、刀に宿っている力を最大限に引き出せるようになれるらしい。現時点では、刀が力を抑え込んでいるので、力の半分も・・いや20%も出せていないそうだ。それを蒼の体自身に移すことで、今までにない力を引き出したり、技のレパートリーも増やすことが可能になるみたいだ。
だが、蒼の答えは・・。
「少し、考えさせてください。明日、返事は返します」
蒼は悩みながらも、返事を先延ばしにすることにした。それもそうだ。命の危険がある以上、そう簡単に決められることではない。
「危険な橋だな。けど、強くなるには危険を伴うことも必要だと、僕は思う。・・急ぎはしないがな」
そう言うと、ルイスは蒼を見送った。
ルイスの家を離れた蒼は急いで、夕食を買いに走った。

ー3人の部屋ー
「遅かったな、蒼!何かあったのか」
「・・いや、なにも」
蒼は少しうつ向いたが、サンダー達の方を向いて笑顔で答えた。
「そうか、ならいいのだが・・」
「大丈夫そうね。」
そこからは、蒼達はいつもと変わらず雑談をしながら、食事を済ました。
そして、数分後・・誰かが部屋の扉をコンコンと叩く音が聞こえた。
「はいはい」
扉を開けると、ギガントの姿があった。
「蒼。僕の部屋に来ない?話たいことがあるから。それに、ランツェとサンダーは女子会をしたそうな目をしてるし・・」
ギガントは、少し強引気味に蒼を部屋から連れ出した。

ギガントの部屋も、サンダー達がいる部屋と全く構造は変わらないようだ。
蒼をソファーに座らせると話をし出した。
「話と言っても、ただの雑談に近いかな。まっ、とりあえず座ってよ」
食事中に聞いたが、ギガントはすごく偉い人物だそう。どう偉いかというと、彼はテネレ王国軍隊中佐 兼 総合軍中佐という階級についているからだ。
詳しくはランツェの知らないが、総合軍というのは、五大国が総合で選出した特別部隊のことらしい。
「はい・・。それで、話の内容は・・?」
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