異世界帰還書紀<1>

空花 ハルル

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初任務

ルイス

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「内容は、側近試験のことについて」
蒼はその言葉を聞き、少しあった眠気が引いていくのを感じた。
「興味津津そうだね」
「でも・・内容なんか教えてしまって、大丈夫ですか」
「別に大丈夫だよ。教えてもいいところと駄目なところは分かってるから」
ギガントはそう言うと、何枚かの資料を持ち出してきた。その資料には、『側近選別試験(第二次)について』と書かれてあった。
蒼は、その資料に目を通した。
1枚目の内容は、第二次は8チームによるトーナメント戦である。そして、その中で優勝した1チームのみが側近になれる。それから、禁止事項などの試合ルールが書かれてあった。
2枚目の内容は、現在進出が確定している4チーム(その内の1チームは蒼達のチームだ)についての大まかな情報が記されてあった。
「昨日、一般公開された情報で。直接、フクロウによる伝達で届いた資料だよ。もらってくれてもいいよ。城に戻ったら、また手に入るし」
「ありがとうございます。」
蒼はその資料をバッグにしまい込んだ。
「それはそうと、男子会でもしない?こっちは一人で退屈だし・・」
「いいですね・・」
その後、蒼とギガントは他愛のない話をお茶を飲みながら、数十分ほど続けた。だが、蒼に睡魔が襲ったことをキッカケに切り上げることになる。
蒼は、部屋に戻ると、倒れ込むようにベッドに寝転がった。

そして、次の日・・。
蒼は珍しく、朝早くに目覚めた。まだ、二人は寝ているようだ。
「まだ、7時か・・。外の空気でも吸いに行くか」
外に出ると、空はまだ少し薄暗く。人の数は少なく、静かだ。
そんな時間の中、蒼が向かった先は・・。
「いますか?ルイスさん」
戸を叩くも返事はない。時間も早いので、まだ寝ている可能性が高いからだろう。
そして、蒼が帰ろうとした瞬間・・
「ルイスに用か?ルイスなら、30分前に、ここから10分ほど歩いた先の森に向かったらしいぞ」
たまたま通りかかった町男性が教えてくれた。
蒼は礼を言うと、走って、そこに向かうことにする。

男性が教えてくれた場所は、山の中腹辺りだが、登るのが大変だ。
しばらく、森の中を歩いていると、聞き覚えのある誰かの鋭い声が聞こえた。
「誰だ!」
その声の主は、ルイスだと、すぐに分かった。
「すみません。家にいなかったので・・。こんな所で何をしているんですか?」
「・・誰にも言わないなら、教えてもいい」
「言いません」
蒼のその言葉を聞くと、ルイスはついて来い、というような目でこっちを見た。少し歩くと、前に見たのとは少し違うタイプの突然変異型生物らしきものが倒れていた。
心臓部分に、槍が突き刺されてあるのを見ると、とっくに死んでしまっているのが分かる。
「こいつは、僕が討伐した奴だ。本来は、国に提出する義務があるのだが、個人的に、秘密裏に研究している。これが、言ってほしくない理由だ」
「はい・・。それはそうと、ルイスさん一人で、その怪物を倒したのですか?」
蒼が少し驚いた顔をして、ルイスに聞いた。
「そうだな。いつだったか・・」

3ヶ月前・・
「最近、研究の進み具合が悪いな」
ルイスは、研究を始めて1ヶ月ほどで、サンプルも資料も足りなく困っていた。もう一人の研究員(相方でもある)が手伝ってくれていても、順調ではない。
「研究なんて、そんなもんだろ。まだ、初めて1ヶ月しか経ってないんだ。地道にいこう!」
相方の名は、アクセル。気楽な性格で研究が行き詰まった時に、空気を和ましたりしてくれている。賢くて優しい男だ。
「確かにそうだな」
ルイスは落ち着きを取り戻し、再び机に向かう。
「なぁ、森にでも行かないか。新しい発見があるかもしれない」
「それはいいアイデアだな。準備をするから、待っててくれ」
準備を済ませた二人は、山を登り、森の中へと入っていった。その森の中には昔、使われた可能性が高い祭壇のようなもの(かなり崩れている)と石の墓がポツンと残っている。
「ここは、かなり調べたはずだが・・」
「それでも、できることは残っている。・・要するに、調べがいは、まだまだあるってことだ」
アクセルはそう言うと祭壇に上り、4本ある内の1つの柱を隅々まで、見渡しだした。
「僕は、墓の方を調べる」
ルイスはそう言い、墓に近づいた。その時、少し前の草むらが揺れた。よく見ると、大きな影が近づいているのに気がついた。
「おい、ルイス。あれって!」
「あぁ!2,3ヶ月前から報告情報が増えてきている突然変異型生物だな」
ルイスは、護身用に持ってきていた剣を構えた。
「おい、ルイス!戦るのか」
「逃げるとでも?こんなチャンス滅多にない!」
アクセルが止めるのを聞かずに真っ先に駆け出し、ルイスは生物との戦闘を開始する。
「怖いなら、見てるだけでいいんだぞ。アクセル」
ルイスが生物の攻撃を交わしながら、剣で表皮を斬りつける。そして、剣に力を込めると・・。
『ウィンド・カット』を切りつけた部分目がけて、放つ。
「フンッ!この程度じゃ、死なないことは想定内だ。」
右手に風の力を溜め込むと、敵の足元にそれを投げつける。風の力は、上に舞い上がる。
それにより、生物も上に持ち上げられ、抜け出そうにも抜け出せないようだった。
「終めにするか!」
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