異世界帰還書紀<1>

空花 ハルル

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側近選抜試験

試験ー6

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「あきらめが悪いな!それと、反撃をするなら、早くしろ。何か行動を起こすまで、この攻撃をし続ける」
ルイスが再び、風の渦の力を溜めだした。
「ちっ!(まだ、策が思いつかない・・)」
今の時点でも、3回は切り刻まれている。それに、これ以上、喰らうと決勝にも影響が出る可能性がある。
状況はかなりまずい。
「いくぞ!(これで蒼は仕留められるな。次は、ラムの援護にでも行くとしよう)」
また、あのカッター攻撃が飛んでくる。

5日前・・訓練場では。
木と木がぶつかり合う鈍い音が鳴り響いている。(鳴り響いているのは、防音魔法による効果だろうが)
「やるね!純粋な決闘だったら、私が負けてる、かもね!」
ランツェが思いっ切り、武器を降ってきた。
「うっ!」
ドッといとも簡単に吹き飛ばされ、尻餅をついてしまった。
まだ、ランツェに剣技で勝てない。
「勝負あり!ランツェの勝利!」
審判役のサンダーが言い放った。
「私の勝ちだけど、いい感じになってきたね」
ランツェの温かい言葉が投げかけられる。
次こそは、こちらがそのセリフを言いたいものだ。
「フウ、もう一本!ランツェ」
「いいけど・・一旦、休憩にしましょう!私も水が飲みたくなってきたし」
「私が取ってくる。二人は待ってろ」

サンダーが去った後。
「ランツェ。少し相談があるんだが・・」
「何?蒼。相談って・・」
「ランツェが使うフレイム系統の魔法を教えてほしい。頼む。いや、お願いします!」
頭を90度下げ、誠心誠意そう言った。ランツェが止めてはいるが、この感情を伝えるには十分な頼み方だっただろう。
「そんな頭下げなくても、教えるわよ。・・ただし!最低でも10個はこの5日間で覚えてもらうわよ」
少しきつくそう言われたが、厳しくしてもらえるなら、これ以上ありがたいことはない。
「はい!」
蒼は元気よく返事を返した。
「フフッ!・・でも、何で?」
「理由は、試験時に分かるよ。楽しみに待っていてよ」
炎の属性魔法を習得できたら。いくつもある弱点の9割はカバーできる。
「何を話しているんだ?二人共?」
サンダーが水を持って帰って来たようだ。
できれば、サンダーにも試験まで黙っておきたい。2人へのサプライズだ。
「何でもないぞ!サンダー・・連携方法を相談していただけだよ。誰と相性の良い組み合わせになるか分からないし」
「そうだな。連携を会議するのもいいが、次は私と勝負だ。ランツェ」
相変わらずの強気な物言いだ。

そして、現在・・
腹の底から炎の力が湧き上がって、来ているのを感じる。
やっと、成功でできる。
「・・『フレイムバリア』・・発動」
蒼の盾のひとつひとつに炎がまとわりつきだした。
「何!(蒼の先祖の力とやらを調べてみたが、炎を扱える適正はなかったはず)」
「(できた!)色々、練習したんでな!(ランツェのおかげだな。試験が終わったら、ビール一杯奢るか)。さて、反撃開始だな!」
蒼はルイスをグッと睨みつけ、そう言った。
いつも以上にたくましい声で。
「だからといって、俺の有利に変わりはない!『ストーム』」
ルイスが竜巻を生み出した。巻き込まれたら、ひとたまりもなさそうだ。
だが、蒼は眉一つ動かない。無言で手をかざし、刀を生成した。
「サード・フレイム・ソード』!」
炎が刀にメラメラと燃えながら、まとっている。
そして、その刀は赤黄色の弧を描きながら、攻撃を仕掛けた。
刀は竜巻を避け、遠回りをする。
「厄介だな!だが・・」
ルイスは再び風を放出した。
「フッ!同じ手は聞かない!『フレイム・サークル』」
弾こうとした刀の影から、炎をまとった斧が姿を表した。斧はルイスの周囲を回転し続け、複雑な動きを繰り返している。
「ちっ!なら、全方向に弾くまでだ!」
ルイスに風が集まりだした。
「フッ!かかったな!」
蒼はニヤリとルイスに対して、笑ってみせた。
ルイスは、何だ?とでも言いたそうに、見つめてきている。だが、その1秒も経たないうちに、はっと何かに気づいたようだ。
今更、作戦に気づいたところで遅いが・・。
ルイスが風の収集を中断したが、その勢いが重なって、蒼の刀は本来以上のスピードをつける。
刀は、一直線にルイスの元に飛来した。
「ぐっ・・グハッ!うっ・・ハァハァ!(精霊の力をもってしても、回復が追いつかない!なんとかしなければ・・)」
ルイスの足や腕に刀が貫通している。炎の力も相まって、よりダメージを負っているのだろう。
その刀を顔を歪ませながら、一本一本丁寧に抜いていく。
少しやりすぎたかもしれない。
「さて・・」
蒼は、座り込んでいるルイスの額の前に刀を突き出した。
「俺に降参しろって、言うのか?もしそうなら、残念だが、する気はない!」
「な、なら・・こ、このまま・・」
蒼の右手が震える。
「別にこの試験で殺してはいけないなんて、ルールはない。だが、蒼に人を殺すことは不可能だ。俺を無視して、2人のどちらかに加勢しに行ってもいい。だがな、回復したら、また戦うことになる。まぁ、この試合が終わるまでだがな」
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