異世界帰還書紀<1>

空花 ハルル

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側近選抜試験

試験−8

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ランツェがグングニルを放とうとした瞬間・・。
辺り全体に大きな影が覆った。
「何?!」
ランツェとラムが上空を見ると、闘技場の上空だけに大きな薄暗い雲が覆い尽くしていた。
「(サンダーの力?これは?)」
サンダーの方を見ると、全身から巨大な電撃が放電している。


サンダー対アクセル・・。
「(これは近づいても、距離をおいてもヤバそうだ)電撃攻撃は意味がないって、言わなかった?」
「分かっている。(私はまだ一点にしか落雷を落とすことができない。どれだけ練習しても、複数個所は無理だったた。その代わり、威力は最大でいかせてもらう!)」
溜まりきった電気を全て、上空の雲に向けて打ち上げた。

雲がゴロゴロと音を鳴らし始めた。
「なるほど・・」
「今から10秒後に雷を落とす!降参するならそれまでに」
サンダーはいつにも増して強気な口調だ。
「・・・」
今にも落雷しそうだが、アクセルは黙っている。何かしようとしているのだろうか。
「時間切れだ。『ブレイク・ライトニング』」
そう唱えた瞬間、闘技場に一瞬の眩い光が走った。
観客全員があまりの眩しさに目を覆っている。
光の後、ドゴーンと大きな音が響き渡った。蒼達と観客の鼓膜を破壊していないといいのだが。
「うっ・・」
煙が晴れると、地面に倒れ込んでいるアクセルがいた。
「私の勝ちだ」
「そ、そうだね。このタイマンはサンダーの勝ちだな。邪魔はしないから、ランツェの援助に行ってきたらどう?(行ったところで勝てるかな)」
アクセルは両手を上げている。

同刻、ランツェの方
「くっ!(サンダーの魔法ね。すごいけど・・視界が・・)」
ランツェは、手で目を覆い隠し、よろめいた。
同じくネイも突然のフラッシュに驚いているようだ。
光と煙が晴れると、尻餅をついたラムが目の前にいた。
「2人はやられたみたいだけど、まだ続ける?」
「・・もちろんよ!」
ラムが勢いよく立ち上がると、再び武器を構えた。
「ランツェ!来たぞ!」
「(なら)・・サンダー。私達の決着が着くまで、介入は無しでお願い」
こちらに走ってきているサンダーを引き止めた。
「・・わかった。だが、もし負けたら、私が戦ってもいいよな。蒼はルイスに引き止められてるみたいだからな」
「いいけど。負けるつもりはないよ!『フレイム・スピア』」
ランツェは、背伸びをした後、炎の槍を構えた。
その背中を見ていると、ランツェが負ける可能性がしなくなってきた。

「さて、準備できた?ラム」
「ええ!いつでも」
お互いに武器を構える。
「『フレイム・グングニル』!」「『ジェネレ』!」
同時に魔法を唱える。

その後の勝負は一瞬だった。
ランツェは、配置された半透明の空間の全てを避けた。
一瞬にして、ラムの近くまで近づく。
そして、首の横に槍を突きつけた。
「また、私の勝ちね」
「・・そうね。降参よ。もう魔力もギリギリだしね」
ラムが両手を上げて、そう言った。
ランツェが槍をしまい込こむと、ラムはその場にバタッと座り込んだ。
「はぁ・・私もよ」
ランツェも一息つくと、膝をついた。
「私達の負けね。ここまで来たんだから、側近の座に、ちゃんと、ついてよね」
「もちろんよ」
ランツェは胸を張って言った。
後ろで蒼とサンダーも頷いている。


蒼たちの決勝進出が決定した。


特別観客室ー
「いや、すごかったね。特にサンダーちゃんの魔法は」
「確かにそうね」
サングラスを装着したレイラがそう返した。
マリアナもサングラスを着けながら、黙り込んでいる。
「うぅ!・・もう大丈夫ですか?」
ネイは、頭を伏せ、ブルブル震えている。
「大丈夫だよ」
ヴィトンがネイの肩にそっと手を置いた。
「ひっ!・・あ、ありがとうございます」
「・・脅かせて、ごめんね」



10分後・・。
準決勝Bブロックが開始された。
「さて、このまま勝って・・決勝に行こうか!」
男が仲間の方を見ながら、そう言った。
「フッ!威勢だけはいいみたいだな。(この試合は我だけで十分だろう。)お前たちは後ろで見ていろ」
「わかりました」
敵の仲間の2人は、最大限まで後ろに下がった。
「・・さーて・・。1分で終わらせてやろうか!」
敵がゆっくりと振り返ると、ニヤリとこちらに笑みを向けてきた。
「く、来るぞ!」

試合30秒後・・
「うっ・・よくも・・」
2人のメンバーは地面に倒れ込み、リーダーらしき人物はピクリとも動かなくなっている。
「お前たちが貧弱なのが、罪なのだ。その罪をリーダーが背負ってくれたのだ。我を恨む暇があるなら、自身を恨み、リーダーに感謝を向けろ」
敵はそう言い張ると、目の前から去っていってしまった。


再び、特別観客室・・。
「・・彼女どう思います?レイラ様。そして、2人共」
ヴィトンが質問を投げかける。
「・・彼女・・。少し、強すぎる」
「それだけじゃないです、レイラ様。それに、彼女の姿・・何処かで見たことがあります」
マリアナが、柵に前のめりになってまでして、闘技場内部に戻っていく後ろ姿をまじまじと見つめている。


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