不手際な愛、してる

木の実

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嵐の前夜

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鋭い雨音が窓を叩きつける。夜中の嵐は、酷くうるさくて、激しさを募らせる。
「どういうこと?」
目の前の世界が、全て黒白に見える。さっきまでの、あの夢のように心地よかった世界さえも、嵐に連れていかれたようだった。
「ねえ、どういうこと?数馬。」
「……」
彼は、目線を部屋のあちこちに動かしながら、困ったようにうつむいてしまう。
「答えてよ、数馬。どういうことなのよ…」
ドゴオオオン。雷が、心をつんざいた。
「数馬、結婚してるの?」
もうひとつ、雷が落ちた。





平内数馬と出会ったのは、二年前だった。上京してやっとのことで入れた保険会社で、23歳だった私の営業成績は下がる一方だった。引っ込み思案な性格のせいでお客様にうまく売れ込めなかったり、重要な取引先の会社の製品を壊してしまったり。自業自得とはいえ、本当にしんどい日々が続いていた。
だけどそんなある日、総務部から異動してきたのが彼だった。
「初めまして、平内数馬です。入社三年目ですが、この部の仕事はまだ全くわからないので、教えて下さい。」
丁寧な人だな、というのが第一印象。私と三歳しか違わないのに、佇まいもスーツの着こなしかたもずっと大人。私はそんな彼に、少し憧れていた。自分もあんな風に、きちんとした大人に早くならないと。
仕事と人生への焦りも、ピークに達している頃だった。
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