不手際な愛、してる

木の実

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磁石

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「平内さん、今度の企画のプレゼンテーションの資料です」
初めて平内数馬に声をかけたのは、彼が私の部署に異動してきて1週間がたった頃だった。
「あぁ、ありがとう。えっと君は…」
「あ、村松美穂です。よろしくお願いいたします。」
ペコリと頭を下げると、ふいにフフっと笑いが聞こえてきたから、私は驚いた。頭をあげると、笑ったのは紛れもなく平内さんで、
「えっと、村松さん…だっけ?頭に枯れ葉、いっぱいついてるよ」
「え!?」
その日は嵐の中通勤してきたから、知らぬ間に飛んできた葉っぱが髪にひっかかったんだろう。
「すみません、本当に私どんくさくて…。仕事もいっつも失敗しちゃうんです。」
「生まれつきの性格は大人になってから直そうとすると、かえってボロがでるからね。」
低くて静かな声で、平内さんは微笑んだ。
「まぁ、僕もこの部署のことまだ分からなくて足を引っ張っちゃってるし、お互い頑張っていこうな」
「はい!」
この日から私は、平内さんと会話するようになっていった。仕事のことからプライベートな話まで、本当にたくさんの話をした記憶がある。
それくらい、平内さんとの会話には魅力があった。歳があまり変わらないから話が合うっていうのもあるのかもしれないけど、それより何より、私は彼の人間性そのものに引き寄せられていたのだ。どうやらそれは彼も一緒だったようで、私たちは磁石のように、自然と引き合わさって行ったのだ。
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