不手際な愛、してる

木の実

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「京子、ワイン頼んでくれない?」
「え?」
「あ、ごめんごめん。お前は美穂だったね」
窓の外に東京の夜景が煌めくきらびやかなレストラン。今日は数馬との久しぶりの穏やかな時間だった。それなのに……。
「なんか最近、それ多くない?」
私はさすがに我慢の域を越えて、こらえていた不満を口にした。
「それ、って?」
「……奥さんの名前と私の名前、よく間違えるじゃない」
奥さん、という言葉を出すのも嫌なのに。
「そうかな、俺ももう歳かなぁ」
数馬はさほどのことでもないかのように、笑って受け流そうとする。
「もう一度言うけど、私は美穂だよ?」
「わかってるって」
「ならいいけど……」
私は手元の白ワインを一気に飲み干した。ワインと一緒に全て洞窟の底に流れてしまえばいいのに。
 わかっている、本当はそんなこと、数馬があからさまにわざとやっていることだって。彼の真意はわからないけど、目に見えている事実だった。
「……私をどうしたいの」
「ん?何?」
「……なんでもない」
何も言えない。間違えてでもあなたを手放してしまったら、私は独りなんだから。

「美穂、愛してるよ」
「私も、数馬、数馬……」
その夜ベッドで数馬がささやいた甘い言葉は、私の心臓を貫き通すほど艶やかな震えだった。
 だから私は、決心した。
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