奇欲

木の実

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突然の疑惑の目

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 「沢栗ーー、ちょっといいか?」
「え?」
事件が風化し、夏休みまであと二週間を切ったある日、私は突然戸田先生に呼ばれた。戸田先生は、一組の担任で、いかにもおっさんという感じの学年主任だ。
「なになに~?真波、何かやらかしたんじゃな~い?」
教室で掃除をしていたから、多くの人に聞こえたみたいだった。すかさず穂乃花がちゃかしてくる。
「やだ、何もしてないよ私」
「はいはい、行ってらっしゃい!」
穂乃花に背中を押されて、私は戸田先生と個別相談室へと歩いた。
「突然悪いな、沢栗。」
「あ、いえ……」
戸田先生とは一度も話したことがない。部活もたしか、バスケ部の顧問だから、私の美術部とは全く面識もないし……。一体何なんだろう。
「この前のハムスターが殺された騒動の前日に、夜学校に入ったか?」
「へっ?」
自分でも驚くくらい、すっとんきょうな声が出てしまった。何で今、その話?
「あっ……部活が終わって、それで友達と帰ってて…その後忘れ物に気づいて学校には引き返しましたけど…」
何か嫌な予感がして、心が震える。
「へぇ。それでその時、5組に入ったか?」
「いや、教室の前までは行ったんですけど…異臭がして、あ、たぶんそのハムスターの死体の香りだったのかも。」
「それで?」
「思わずためらっちゃって、入れませんでした。」
「忘れ物は?持って帰らなかったのか?」
「あ、なんかなぜか廊下に投げ出されてあったので、そのまま持って帰りました。」
「沢栗さぁ……」
ふいに、戸田先生がため息をついた。
「そういう大事なことは、早く言ってくれないと。」
「あ、ごめんなさい」
しまった。これじゃまるで、私がずっとこの話を隠していたみたいになってしまう。
「違うんです先生、あんまりこんなことに巻き込まれたくなくて…」
「じゃあ1番最後まで学校に残ってたのは、沢栗だったってわけか…」
私の言うことが聞こえてないのか、先生が何かの紙にメモしていた。
「あの、もしかして私、疑われちゃうんですか?」
「いや、そういうわけじゃないけどさ。」
そんな。私、何もしてないのに…。身体中が、どんどん熱くなってくる。
「私あんなことしませんよ、絶対。」
「落ち着けって沢栗。あぁごめん、言い方が悪かったかな。」
幼児に対して言うような偉そうなその口ぶりに、私は思わずカチンときてしまった。
「もう永遠にしないって誓って、それからちゃんと一生懸命みんなと同じように生きてきたんです!!!!それがなんでこんな犯人扱いされなきゃいけないんですか!?理不尽すぎますよ、頑張って生きてきたのに!!」
「“もう永遠にしない”?どういうことだ沢栗。今までなんか、やってたのか?」 
ハッとした。自分で叫んでしまってから、言ってはいけないことを言ってしまったことに気づいた。思わず目が泳ぐ。
「おいおい、どういうことだよ沢栗。ちゃんと説明してくれ」
「すみません私もう帰ります」
そう言って私は、すかさず走って個別相談室を飛び出した。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。
どうすればいいの。なんで、どうして。何もしてないのに!!
  廊下を走って、教室に向かう。向かい風が痛い。
  それとも、これは昔の私への罰なのか。過去に殺してきた、虫や動物たちからの復讐なんだろうか。あぁ、そんな。殺した時の彼らの死体がフラッシュバックする。
「あれ、真波お疲れ、どうだった?」
「私、今日はもう帰るね」
「え、ちょ、真波?部下は?」
「行かない、帰る」
驚く穂乃花をよそに、私は自分のリュックサックをとってまた教室から飛び出た。
「おい、沢栗!」
廊下を出たところで、後を追ってきたのか、再び戸田先生に出くわした。
「ごめんなさい」
私はそれだけ言って、戸田先生をうまくかわして走り抜けた。他の生徒とぶつかりそうになりながら、靴箱へ走る。
  なんだかすごくまずいことになりそうな予感が、心の中でもぞもぞとうごめいていた。
   言葉にならない、黒い予感が。

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