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序章

御伽噺 (挿絵あり・メインビジュアル)

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 まだ現世に、陸が無かった頃、二柱の神が降り立った。

 伊邪那岐いざなぎ伊邪那美いざなみ

 二人は陸と、新たな神々と、人間達を作る。だが、伊邪那美は、最後の神を産み落としたとき、命を落とした。伊邪那岐はそれを嘆き、その嘆きからもまた、神々が生まれた。

 時同じくして、宇宙の深淵で、孤独彷徨さまよう者も、愛を求めて嘆いた。

 二人の御霊が共鳴すると、二人も気づかぬ間に、深い深い地の奥底、冥府の更にその先。常闇の地で、一柱の女神が、目を覚ます。

 瞬く間に暗き地は、光で満たされた。

 そこに住まう人々に、彼女は自らを、愛数宿あすやどりと名乗った。以来、善なる者も悪しき者も、強き者も弱き者も、皆全て等しく、多くの慈愛と、豊穣なる自然秩序が包み、我らを生かし続けた。


 そして何時しか、女神と人々は、名も無きこの地を、


 『秋津国あきつくに


 そう呼んだ。






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