The Outer Myth(アウターミス) ~外円神話~

とちのとき

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第一部 目覚めの少女と嘆きの神

53話 新たな力5

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 ツグミは背後の岩肌を斬り拓くと、
 「宇迦之御魂うかのみたま様、父さんを連れてここから離れて下さい」
 「お、おう、用心するのじゃぞ?」
 白狐姿の宇迦之御魂は、傑を背中へ乗せると外へと駆け出した。すると、様子を窺っていた大太刀の山犬が、突然飛び退く。そこに僅かに遅れて、どこからか一撃が振り下ろされた。そこには須佐之男すさのおの姿かあった。彼は鋭い眼光で敵を追いながら、
 「素早いな・・・・。わっぱども!こいつは俺が引き受ける!まずは社から遠ざけるぞ!」
 イナホ達は返事をすると、一斉に駆け出した。ツグミは、
 「イナホ!斐瀬里!私たちはもう片方の獣型を引き付けましょう」
 それを聞いた悠は、
 「よし、俺たちはこのデカいのを、片づけるぞ」
 秋ノ御太刀あきのみたちに手をかけるイナホ達。直後、あちこちで金属質の打ち合う音が響き渡り始める。

 遠くから敵の姿を目にしていた手塚は、
 「なんだ・・・、あの、デカブツは・・・・。それに、あの白い奴まで・・・・。あんなのとやり合っているのか・・・、あの子達は」
 後ろに控える隊員たちも、銃を構えるのも忘れて驚嘆していた。

 三日月の様な刃を両前足に持つ獣の、素早い攻撃をイナホとツグミは正面から裁く。斐瀬里も隙を見て斬りかかるが、双刃の山犬は、その鋭い装甲を武器にした尻尾でも器用に、それらを阻んでいた。

 一方、超大型の多脚戦車は、主砲こそ無いものの、車体の側面、そして上下にも複数の機関銃。それに加え、火炎放射器までも搭載していた。それは明らかに、生身の人間の殺戮を目的としたものであった。
 長い車体から降り注ぐ銃弾を掻い潜りながら、悠は、
 「慶介!刀を!後ろから武装を潰してくれ!」
 「わかった!」
 慶介は刀を投げ渡すと、遮蔽物の後ろに駆け込み、八咫射弩やたのいどを構える。悠は二振りの刀を構え、戦車から吐き出される炎を避け、
 (体が軽い!敵の動きが、射線が見える・・・!)
 人間を逸脱した速さで敵の足元へと一気に距離を詰める。他の仲間たちも、今まで以上の動きで車体に取り付くと、刀を振るった。
 車体の片側の脚の数本を失った戦車は、バランスを崩し傾きかける。より不規則に戦車は銃弾をばら撒くが、そこに慶介の弾丸が少しづつ沈黙を与える。八咫射弩の銃声が鳴る度に、戦車は攻撃手段を失っていった。
 香南芽の最後の一撃で戦車は完全に停止した。彼女はそれを確認するや、
 「ももっち!イナホ達に加勢するよ!」
 「当然!私たちの新しい力、思い知れ!」
 悠は駆けていく二人を見ると、
 「俺たちも須佐之男様に加勢するぞ!」
 頷く司と慶介。三人も駆け出していく。

 獣の瞳がツグミを捉える。ツグミの思考回路には、
 (パターン解析・・・。上方からの斬りかかり攻撃70パーセント。着地地点割り出し。ノイマン効果による、敵装甲破壊を提案。指向性地中機雷を選択)
 飛び掛かって来る敵に対し、ツグミは納刀すると、
 「ここ!!」
と、八咫射弩に持ち替える。瞬時に三発ほど地面に何かを撃ち込むと、後ろに飛び退き、鋭い攻撃を寸前で躱した。
 その地面に獣の脚が着地した瞬間、爆発音と共に土が真上に吹き飛び、細い火柱が上がった。双刃の片方が折れ、左前足が吹き飛び、倒れる獣の傍らにそれらが落下する。ツグミが、
 「今です!」
と、声を上げたのを合図に、斐瀬里は刀を振り上げる。獣の体から黒い繊維が伸びて、脚を再生しようとしていた。斐瀬里がそれらを断ち斬ると、再生は止まったのだった。それを見たイナホは、
 「これが金毘羅刀の・・・!」
 残った脚で立ち上がる獣は、まだ戦う意思を見せる。その鋭い牙をイナホが受け止めると、銃声がし、獣が横によろけた。
 香南芽と百花は、ショットガンに変化させた八咫射弩で獣の腹部を狙い、発砲を続けながら向かってくる。そして装甲が砕けると、百花は、
 「お、弱点はっけーん。やっちゃってイナホ!」
 イナホが透かさず獣の核に、トドメの一太刀を浴びせると、その体は崩れ落ちたのだった。

 イナホ達が戦っている頃、須佐之男の方にも、悠たち三人が駆け付ける。三人による集中砲火の援護。須佐之男は敵から一度距離を取ると、
 「やるじゃねぇか!あっちを片付けるのにもう少しかかると思ったが」
 司は照準を覗きながら、
 「お怪我はありませんか!?」
 「ふっ、人間のわっぱに心配されるとはよ。お、鎧が割れてきたぜ?あの目は足掻いてくるぞ、気をつけな!」
 須佐之男の言った通り、大太刀の山犬は先ほどより素早さを増し、銃弾を躱す様子もなく、悠たちに襲い掛かってきた。咄嗟に刀に持ち替えた彼らは、その大太刀を受け止める。
 しかし激しい接近戦を経て、獣の装甲は徐々に散っていく。ほぼ全身が露わになったそのどす黒い肉体は、見るに悍ましいものだった。そんな獣の頭部には、核が露出していた。
 尚も殺意を捨てない獣の大太刀を悠と司が受け止め、二人は慶介に目で合図を送る。慶介は八咫射弩に持ち替えると、ためらう事なく核を撃ち抜くのだった。


 イナホ達が社に戻ると、傑と共にいた宇迦之御魂は須佐之男に向かって駆け出し、
 「父様ー!ご無事で!」
と、そのままの勢いで少女の姿に戻り飛びついていた。それを横目に傑はイナホ達を見て、
 「大丈夫か?君達。傷だらけだ、何か手当てできるものを探してくる」
 どこかに行こうとする傑に斐瀬里は、
 「あ、ちょっと待ってください。他に怪我した人はいそうですか?」
 「こっちは特に被害は無かったと思うが」
 「そうですか。なら・・・!」
 そう言って八咫射弩に力を送り始めた。斐瀬里はそれを上に掲げ引き金を引くと、イナホ達の周囲に緑の光が飛散した。すると、たちまちに皆の傷が塞がっていった。
 皆が嬉しそうに斐瀬里に感謝していると、ツグミは自身の塞がった傷跡に触れ、
 「不思議なものです。組成の違う私の体まで直るとは・・・・」
 傑はそんな彼女に、
 「治癒という概念の力なんだろうな」
 斐瀬里は、
 「たぶん、八幡さんの人間に近い部分と、私が認識してる範囲だけかも。機械的な故障とかは治せないかもね」
 百花は斐瀬里の肩に手を置き親指を立て、
 「ひせりん、これで私たち無敵だね!」
 その横でイナホも頷く。そんな二人に斐瀬里は、
 「無敵ではないと思うよ・・・?」
そう苦笑いを浮かべていた。

 そこに手塚たちが戻って来ると、
 「凄いな、君達。本当にあんな奴らを倒してしまうとは・・・・。正直、まだ疑ってた部分があったが、これで完全に信じざる得なくなった。ところで、私たちの携帯端末に気になるメッセージが届いたんだ・・・」
 傑はラップトップの画面を手塚たちに見せると、
 「これの事かい?」
 「ああ、差出人不明。やけに具体的な内容。とても悪戯とは思えん」
 「この件も踏まえて、みんなには改めて話しておくことがある」
 そう傑は皆の方を向くと、
 「天照様が怪我を負っていることは知っているね。昨日、月詠様から聞かされた事なんだが、天照様は思ったより状態が良くないらしい。持ってあと二週間という事だ・・・・」
 イナホは悲しみと焦りの混じった顔で、
 「そんな・・・・。じゃあ急がないと!この国の全ての命が・・・・」
 傑は続ける。
 「ああ、その通りだ。だがさっきの襲撃で、天照様の回復に使う予定だった装置が、作業小屋ごと壊されてしまった」
 手塚は腕組みをしながら傑に、
 「その回復に使う装置の掘り出しやら、素材の調達には人手を回そう」
 「すまない、感謝する。そして、さらに急がなければならない、厄介な情報が飛び込んできた」
 悠は、
 「それがその謎のメッセージという事か」
 「そうだ。内容は、北方連邦と大華国の合同による、機械軍掃討目的の大規模爆撃が一週間後にあるというものだ」
 「なら、それに乗じて俺たちもヒルコの本拠地を叩けばいい」
 「それが、そういう訳にも行かなくてね」
 「と言うと?」
 「日本上空はヒルコ達によって衛星が機能していないはずなんだ。僕らの端末に送られて来たメッセージも、衛星経由でなく、かなりローカルで特殊なものだった。丁度、僕が作っていた天照様の回復装置の様なね。それはいいとして、つまり、目が効かない状態で大量のミサイルを日本に打ち込むって事なんだ」
 手塚も難しい表情を浮かべ、
 「政府も国民の大部分も居なくなった今、海の外の奴らは本気で日本を盗りに来てる。誰も見てないこの国で、僅かに残った日本人が何人死のうと、お構いなしってワケさ」
 傑も残念そうに頷き、
 「ああ、日本の救済なんて建前だよ。この資料によると、北方連邦で完成した巨大電磁カタパルトは、核弾頭を積んだ極音速飛翔体をも飛ばせる。これならやつらの迎撃網も破れるかもしれないね。でもこんなもの何発も撃たれれば・・・・」
 少し声を震わせる悠は、
 「ツグミが八咫射弩の力の生成で、禁忌事項として言っていた核兵器・・・。更に人々が犠牲になれば、天照様の信仰を取り戻す事は不可能に・・・・」
 皆に少しの間、重い沈黙が流れる。そして、胸の前に握り締めた手を当てたイナホは、
 「行こう。ヒルコを止めに。そして、この国を救おう」
 その言葉にその場の全員が、力強い同意を示すのだった。
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