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第3章:厳島決戦編
4話
しおりを挟む一夜明け、天野くんはベロベロのまま自分の城へ帰っていきました。
見送った隆元とあやちゃんが「まったく仕方ないね」なんて笑いながら部屋に戻ると、廊下で隆景とすれ違いました。
「あれ、こっちに来てたんだ」
「……ええ、父上に用がありまして」
見れば、隆景の目許には、深いクマがあります。
結局あの後、寝ずに戦略を考えていたのですが、隆元にはそんなこと知るよしもありません。
「……ごめんね、うるさくしちゃって。ちょっと友達が来ててさ」
「天野殿、でしたか。米山城の」
「そうそう、さすが詳しいね」
「ずいぶん親しくされているようですが、本当に大丈夫ですか? 表向きは臣従を装って、実は陶の間者という可能性もありましょう」
実は天野くんのお嫁さん、弘中家の人間なのです。
(っていうか天野くん、結婚してたんですね)
なので、血縁のデータだけを追えば、陶に近い人間なのではないか?という疑問を持つのは当然のことです。
しかし隆元は
「いやいや、それはないよー」
なんて笑うばかり。
それがまた、天才・隆景くんの癇に障るのです。
「……何故そう言い切れるのです? 昨日の友が今日の敵になるやもわかりませぬ」
「ただの友じゃない。彼は親友だから」
「それでは何の説明にもなっておりませぬ!」
ヒートアップする隆景。
そこですかさず、あやちゃんが「お言葉ですが」と、助け船を出します。
「……もし天野殿が間者なら、殿も私も今ごろ骸にされておったでしょう。それに、間者があんなへべれけになるまで酒を飲むとは思えませぬ」
誰かさんとは違う、具体的な反証。
確かにそう言われたらそうか……と隆景も矛を収めます。
「……失敬。早とちりが過ぎました」
「いいよいいよ、気にしてないから。そうだ、これから朝ごはんなんだけどさ、一緒に食べる?」
「いえ、私はまた父上に呼ばれておりますので」
「そっか……頭良いと忙しくて大変だね。なんか決まったら教えてね。それじゃ」
そう言って消えていく隆元夫妻の背中を、隆景はじっと見つめていました。
カカア天下のくせして幸せそうな感じが、また妙に胸を締め付けるのです。
「なんだ。隆元がうらやましいか?」
隆景が、うわっと声をあげます。
元就です。
「わしもなあ、あいつが羨ましい時がある。一度で良いから、気の置けぬ友と、ああして酒を酌み交わしてみたいものだ」
「父上……」
「まあ、嫁選びはわしの圧勝だがな、カッカッカ」
冗談もほどほどに、元就と隆景は部屋に籠り、今後の対応について協議いたしました。
しかし話せど話せど結論は出ず、
さらに翌日、疲弊しきった二人は、結論が出ないまま家族会議の召集をかけたのでございます。
-*-*-*-*-*-*-*-
家族会議の朝。隆元とあやちゃんは朝ご飯を食べていました。あやちゃんの膝には、まだ幼い幸鶴丸がおります。
この時代、乳児期の育児は乳母の仕事ですから、こうした夫婦の食事に同席することは少ないのですが、この日はあやちゃんが頼み込んで連れてきたようです。
「……その子も、どこかに人質に出すことになるのかな」
朝ごはんをつつきながら、隆元は浮かない顔をしています。
家族会議はだいたい出番がありませんから、ウキウキになるはずもありませんが……。
「何をおっしゃるのです。むしろ毛利家が、余所から人質を取るぐらいにならないと」
「しかしそうなると、その子には不幸かも知れないね」
「どうしてです?」
「晴持様、だいぶご苦労されていたから」
大内晴持。
武家の頭領としての期待を背負いながら、最後には溺死してしまった少年を、隆元はよく覚えていました。
家が大きくなるということは、それだけ責任を背負うということでもあります。
「……その点、人質は気楽なもんさ。期待されていないからこそ太守様は優しかったし、ぶらぶら町を歩くことも出来た。この子にはそういう思い出を作ってあげられないのかなと思うと、」
「お言葉ですが、子の幸せは親が決めるものではないと思いますよ」
その言葉に、隆元の箸が止まります。
「……そうだね、ごめん。自分だって父上と比べられたくないくせにね」
隆元が幸鶴丸の頬に手を伸ばすと、幸鶴丸は隆元の指をぎゅっと握ります。子が頼れるのは、いつだって親だけです。
「悪かったなあ、幸鶴丸。むしろお前は幸福かも知れんぞ。だって、私は毛利元就と比べられたが、お前が比べられるのは私だから、」
「もう! どうしてそう後ろ向きなのですか! 確かに大殿は稀代の名将ですが、この家の主は殿なのですから、もっと堂々としていただかないと!」
「しょうがないだろ、もって生まれた性分なんだから」
「性分なものですか! だって山口にいた頃の殿は、もっと活発だったではないですか」
だって山口には父上いなかったし……などと屁理屈をこねる隆元の手(幸鶴丸が握っていない方)を、
あやちゃんがぎゅっと握ります。
「……変なら変で良い、自分の気持ちを素直に伝えるのが肝要だと、あの日教えてくれたのは殿ではありませんか。大殿とて人の子、答えがわからないから我らを呼び出したのです。ですから殿も自分のお考えを、」
「……私そんなこと言った?」
「言いましたよ! なんで覚えないんですか、もう!」
さて、まもなく運命の家族会議が始まります──。
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