アンタレス 『電脳世界の恋愛とは』なんて言ってる暇はない

ウエノ ワカ

文字の大きさ
36 / 50
薔薇の香りと剣舞曲

36 バッドムR怒られる

しおりを挟む
 俺は汎用型VRヘッドギアを取り外して、下から覗いて画面の表示が変わらない事を確認すると、トイレに向かった。ついでに顔も洗って気分を入れ替える。

「半端ねぇっつーの」

(俺様[ラヴィ様]をこんな目に遭わせやがって、絶対おかしいだろっ)

 自分で言うのもなんだが、おれの勘は良く当たる。PK、隕石とくりゃあ、次もあるってことだ。あの、グヘヘでバナナなGMの野郎が絡んでいるに違いない。ま、ともかくスライムの消化はまだまだ時間がかかりそうだから、俺は立ち上げっぱなしのPCでネットを検索してみることにした。

「ふむふむ」

(げっ、まじかっ! 当たってるし。CCがなんで居たのかはわからないけど、他の人は新しいスポーンゲートが噴水公園って所に再設定されているらしいじゃないか!)

 俺は汎用型VRヘッドギアを下から覗き込んだ。

(ん~、まだだな。後、30分ぐらい掛かるだろうな)

 [ゲームオーバー]の字の下の横バーは半分ぐらい減っていた。カップ麺を食べながらネットで書き込みを見る時間はたっぷりあるわな。もぐもぐタイムでもしとこう。


 ◇


「よう、首尾はどうだ?」

 GMスワンが噴水公園を眺めている部屋にGMバッドムRがやって来た。

「今のところ順調だな。ラグも無いし、人の動きもスムーズだ」

「そりゃ良かった。ところで」

「ところで?」

「ネカマのラヴィちゃん一行に家をやるって話だが」

「うん」

「やんの、やめろよっ。あいつらGMに楯突いたんだぜ。普通ならBANだぞ」

「いやいや、その前に色々あっただろ。それに対する補償だから、それとは違うだろう」

「お前もやられたんだろっ? なんで庇うんだっ!」

「別にお前みたいに2回も死んでないし、俺たちもGMって事を隠していたんだから、あちらに非があるわけではないぞ」

「いや、あるだろっ。街でいきなりタコ殴りしやがったんだぞ」

「まあ、あれは確かにちょっとなんだが」

「お前、ロビーって女にスリングブレイド決められたって話じゃねぇか」

「プログラムにあそこまでリアルなモーションを取り入れたのは誰の意見だったかな? 」

「ガハハッ俺だな。まさかお前が1番に決められるなんて思わなかったぜ」

「結局お前のせいだろっ。余計な事をしたおかげで回転するのが売りのはずだった街が、隕石でちょっと崩壊した回らない街になってしまったし、結局時間が無くて元に戻さないままでいくことになってしまったし」

 余計な事とGMスワンが言った時に、GMバッドムRはこっそりラヴィアンローズとモフモフうさぎの座標を弄って、MPK『モンスタープレイヤーキラー』の罠に嵌めた事がバレるのを気にした。その瞬間、視線が泳いだのをスワンは目ざとく見逃さなかった。

「おいっ、お前また何かやったのか? ここに来るのも遅かったし、カルはお前のケツ持ちで本部に呼び出しを食らっているから来ないにしてもだっ、その態度、何か隠してるだろっ!」

 GMスワンとGMバッドムR、ここには居ないGMカルの三人は実はリアルで親友というか、悪友と呼ばれる仲だった。バッドムRのコネでアルバイトとして新規VRMMORPG アンタレスONLINEのGMになる事が出来た3人だが、その際、過去に無いGMの積極的なゲームへの介入によるプレイヤーとのワールド構築の相乗効果を謳って、設定の変更権限を半ば強引に認めさせていた。

「いや、別に……まぁ、ちょっと座標を弄っただけだよ」

「なんの座標? はっきり言えよっ、やりすぎると流石にまずいぞ」

「あぁ、だからあの、ネカマのラヴィちゃんを噴水の下の地下水路に落として、モフモフ野郎を竜の谷に転移させただけだよ」

「はぁ? 本当にその2人だけか? ロビーはどうしたんだ?」

「あいつはまだログインしてねぇよ、まぁ座標は弄ったかな……ゴブリン王国に」

「そりゃやばいぞ本当に。直ぐ元に戻せ! エルフの女とゴブリン王国は最悪に相性が悪いっ。やりすぎだぞ、それは」

「やっぱそうか、じゃ直ぐ戻すわ」

「全員元に戻せっ! いい加減苦情が来るぞ。運営本部にそんなのが届いたら、下手すればゲーム自体の評価が落ちてお前のとこの会社の業績に響くぞっ」

「ヤベェ、親父に怒られる。俺、急いでやってくるわ」

 GMバッドムRがログアウトした。残ったGMスワンがため息をついて窓辺の椅子に腰掛ける。

(忙しくてラヴィ達3人と約束した家の鍵を、彼らのアイテムボックスに入れる暇が無かった。先にやっておけばバッドムRの横暴を防げたかもしれない、あぁ~しかし時すでに遅しか。せめてもの救いはロビーが…… 俺にスリングブレイドかましたエルフがゴブリンの群れに放り込まれていなかった事。まぁ、それだけがマシだった。本当酷い事をするわ、バカRは)

 GMスワンも椅子に腰掛けたまま、ラヴィ達それぞれにリンクしていった。家の鍵をアイテムボックスに入れて、メールで家の座標を送る。一応ラヴィとモフモフはログイン状態だった。

(せっかく良いアイデアがあったのに、大丈夫かな? あの2人は)

 なんとなく地下水路の情報にアクセスして出現モンスターを確認すると、巨大スライムがポップすると書いてある。プレイヤーの対応レベルは最低でも35以上が望ましいモンスターだ。それから竜の谷も調べてみる。竜の谷では出てこなくて、古代竜の信仰の谷でヒットした。出現モンスターは古代竜 ダンクイという翼竜で、推奨レベル85、パーティ必須のレアモンスターが出現と書いてあった。

「生きてるのか? あの2人は」

 ズズズー

 1人はカップ麺を啜っていた。

チーンッ

 もう1人は、白目を剥いて床に倒れていた。

 そんな事はつゆ知らず、GMスワンは良いアイデアの実行に向けて下準備に取り掛かかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...