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薔薇の香りと剣舞曲
41 クエスト[花の回廊]①
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黒っぽい色の両開きの扉は、マッテオが残していった鍵で開けることが出来た。扉を盛大に手前に引くと
ギィィィィッ
と、大きな音がして扉が開いた。そしてモフモフうさが感じたのは、花の香り。
「くっさーっ」
空気の通りが悪いのか、それとも花々の匂いが強いからなのか、押し寄せる花の香りについ口から出た言葉がそれだった。
手で鼻を抑えて顔をしかめたままで、モフモフうさぎが中を覗き込む。
そのまま扉を通り抜けると、街の商店街のアーケードのようなアーチ型の天井が視線の先に真っ直ぐ続いているのが見える。その天井は幾何学模様の骨組みと白っぽいガラスで組み上げられて、陽の光を薄く透過し部屋…… 大きな1つの部屋とも言える回廊を、白くぼんやりとした空間に変えていた。
天井を支える柱が所々にあって、緑の蔦が絡まり桃色の小さな花を咲かせている。真ん中の通路にまで押し寄せる花と緑。時に霧雨が左右の壁から噴き出して、草花を潤す。
アーチ型の天井の骨組みにまで絡みつく蔦からは、黄色と白と赤と紫、つまり色とりどりの花が咲いていて、ここが花の回廊と呼ばれる由縁となっていた。
「なんだ、ここじゃねぇのか?」
相変わらず人の気配が無い。だがモフモフうさぎは両手にダガーを持ったままで先に進んでいる。さっき倒した肉屋マッテオみたいな敵が、いつ出てくるかもわからない気がしていたからだ。
辺りに注意しながら、足音を立てずにモフモフうさぎは先を急ぐ。しかし花の回廊の真ん中辺りを過ぎたところで、楽しそうに花に話し掛けているポニテールの女の子が、右手に咲き誇る薔薇の群生の中に居る事に気がついた。
(あっちは、まだ俺に気がついていないみたいだな)
気配を消したまま立ち止まって、モフモフうさぎはどうしようかと考える。しかしどうせこのまま進めばバレるだろうと判断して、彼女に声を掛けてみる事にした。
「こんにちはっ」
── ビクっと身体が動いたのが見えた。
モフモフうさぎの声に反応したポニーテールのお姉さんは、薔薇の花に話かけるのをやめて、モフモフうさぎの姿に気づくと、じっと見つめたまま固まった。
「あっ、お邪魔してます。こんにちはっ」
モフモフうさぎが再び挨拶をした…… が、返事が返って来ない。
(こっちを見たまま身じろぎもしない。なんだよ、本当にまた変な奴なのか?)
既に肉屋マッテオと出会った時点で、おかしな空間に放り込まれていることを自覚しているモフモフうさぎは、ポニーテールの女の子というラヴィアンローズならコロッと騙されそうな、いかにも花が大好きな花屋の娘に疑いの目を投げかけていた。
ポニーテールのお姉さんの口が動いた。何か小さな声で言っている。
「すまんっ、ちょっと聞こえ辛いんだ。俺はモフモフうさぎ、仲間を探しているんだ。あっちの黒い扉から来たんだけど、扉の向こう…… つまりこの部屋に仲間が居るのかと思ってたんだけど、あっ、ここって部屋でも無かったな、あぁ、すまない、勝手に入って来て。ここはお店か何かかな?」
「可哀想…… ごめんねっ、私が気がつかなかったばかりに」
(んっ可哀想? 何を言っているんだ?)
「あんな汚らしい、汚らしくって、変な匂いがする、変な匂いがする黒エルフが勝手に入って来て、勝手に私の大事なみんなのおうちを穢けがしたの、みんなのおうちが穢された、穢されたのよ……」
ギィィィィッ
と、大きな音がして扉が開いた。そしてモフモフうさが感じたのは、花の香り。
「くっさーっ」
空気の通りが悪いのか、それとも花々の匂いが強いからなのか、押し寄せる花の香りについ口から出た言葉がそれだった。
手で鼻を抑えて顔をしかめたままで、モフモフうさぎが中を覗き込む。
そのまま扉を通り抜けると、街の商店街のアーケードのようなアーチ型の天井が視線の先に真っ直ぐ続いているのが見える。その天井は幾何学模様の骨組みと白っぽいガラスで組み上げられて、陽の光を薄く透過し部屋…… 大きな1つの部屋とも言える回廊を、白くぼんやりとした空間に変えていた。
天井を支える柱が所々にあって、緑の蔦が絡まり桃色の小さな花を咲かせている。真ん中の通路にまで押し寄せる花と緑。時に霧雨が左右の壁から噴き出して、草花を潤す。
アーチ型の天井の骨組みにまで絡みつく蔦からは、黄色と白と赤と紫、つまり色とりどりの花が咲いていて、ここが花の回廊と呼ばれる由縁となっていた。
「なんだ、ここじゃねぇのか?」
相変わらず人の気配が無い。だがモフモフうさぎは両手にダガーを持ったままで先に進んでいる。さっき倒した肉屋マッテオみたいな敵が、いつ出てくるかもわからない気がしていたからだ。
辺りに注意しながら、足音を立てずにモフモフうさぎは先を急ぐ。しかし花の回廊の真ん中辺りを過ぎたところで、楽しそうに花に話し掛けているポニテールの女の子が、右手に咲き誇る薔薇の群生の中に居る事に気がついた。
(あっちは、まだ俺に気がついていないみたいだな)
気配を消したまま立ち止まって、モフモフうさぎはどうしようかと考える。しかしどうせこのまま進めばバレるだろうと判断して、彼女に声を掛けてみる事にした。
「こんにちはっ」
── ビクっと身体が動いたのが見えた。
モフモフうさぎの声に反応したポニーテールのお姉さんは、薔薇の花に話かけるのをやめて、モフモフうさぎの姿に気づくと、じっと見つめたまま固まった。
「あっ、お邪魔してます。こんにちはっ」
モフモフうさぎが再び挨拶をした…… が、返事が返って来ない。
(こっちを見たまま身じろぎもしない。なんだよ、本当にまた変な奴なのか?)
既に肉屋マッテオと出会った時点で、おかしな空間に放り込まれていることを自覚しているモフモフうさぎは、ポニーテールの女の子というラヴィアンローズならコロッと騙されそうな、いかにも花が大好きな花屋の娘に疑いの目を投げかけていた。
ポニーテールのお姉さんの口が動いた。何か小さな声で言っている。
「すまんっ、ちょっと聞こえ辛いんだ。俺はモフモフうさぎ、仲間を探しているんだ。あっちの黒い扉から来たんだけど、扉の向こう…… つまりこの部屋に仲間が居るのかと思ってたんだけど、あっ、ここって部屋でも無かったな、あぁ、すまない、勝手に入って来て。ここはお店か何かかな?」
「可哀想…… ごめんねっ、私が気がつかなかったばかりに」
(んっ可哀想? 何を言っているんだ?)
「あんな汚らしい、汚らしくって、変な匂いがする、変な匂いがする黒エルフが勝手に入って来て、勝手に私の大事なみんなのおうちを穢けがしたの、みんなのおうちが穢された、穢されたのよ……」
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