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第4話
チュンチュン
パチッ
穏やかな朝。小鳥のさえずりが聞こえ、目を開けると、そこはいつもの自分の部屋ではなかった。
(あぁ…そうだ、私、昨日フェリクス様に婚約破棄の話をする為に王宮に行って、それで…)
結局、婚約破棄する事は出来ず、豹変したフェリクスにより、家に帰ることも出来ずに王宮の離れで暮らすことになったのだ、と改めてルビーは、今の現状を理解した。
(昨日はたくさん泣いちゃったし、目元が赤く膨らんでそうね)
そっと自分の瞼に触れて、そう思っていると、右手に暖かい感触があった。横を見てみると、そこには執事のカルがルビーの手を握りながら頭を伏せて眠っていた。昨日、泣き疲れて眠った私をそのままベッドまで運んでくれて、安心させるように手を握ってくれていたのだろう。
「カル…ありがとうね」
起こさないように、カルの柔らかい髪の毛をそっと撫でながらお礼を伝えた。
「んっ…」
声で起きてしまったのだろう。カルが少し眠たそうにしながら「おはようございます、お嬢様。…申し訳ございません、起きるのが遅くなってしまって」と掠れた声で挨拶をする。
「おはよう、カル。全然大丈夫よ。それと…昨日はありがとう。カルにはたくさん、迷惑かけちゃったよね」
少し申し訳なさそうに伝えると、カルは頭を横に振りルビーに柔らかく微笑んだ。
「迷惑だなんてとんでもない。私がそうしたかったのです。それに、手を握るだけでお嬢様が安心して眠れたのなら…私はそれだけで、とても幸せなのですよ」
「ふふっ…カルは私を笑顔にさせる天才ね」
「そうであればとても嬉しいです。…私は貴方が笑顔でいてくれる事がいちばんの幸せなので」
穏やかな会話が進む中、ふとルビーは昨日までの出来事の中で気になっていた事をカルに問いかけた。
「ねぇ、カル。……あなたがここに居る事は、私にとって、とても嬉しくて心強い事よ。けれど…」
「クライシス家…お嬢様のお家やご家族について、ですね?」
言い淀んだ私に代わり、カルは私の家の事について話してくれた。
「結論からお話しますと、クライシス家についてですが…公爵様をはじめ、ルビー様のご家族様も全員ご無事なのでご安心ください。」
私はその言葉でホッと胸を撫で下ろした。
(良かった…お父様達はご無事なのね)
「ただ…」
「?」
「私も王太子殿下が来られた際に話し合いに立ち会っていたのですが…あの方が公爵様に行った事は、一国の王子としては、あるまじき脅迫に近い話し合いでした。
国の中枢の一つとも言えるクライシス家を王太子という立場で脅し…あまつさえ、公爵様が大事にされているお嬢様やご家族様を人質にすることで、公爵様が話し合いにうなずくしかない状況を作っていたのですから」
「とても一国の王太子ともあろう方が行うべき事では到底ありません」と忌々しげに零していた。
「本当に…そんな事をなさっていたのね」
「えぇ。私もまさかあの方が、婚約破棄を言ったお嬢様に対して、ここまでするとは思っておりませんでした。それは公爵様も同じだったのでしょう…」
…確かに、私もそう思ったくらいだったのだ。私たちの関係を近くで見ていたカルやお父様がそう思うのは尚更当然の事だっただろう。
「そう言えば、フェリクス様が言っていたわね。『お父様が言ったから、カルをここに置いて居る』って」
私の答えにカルは頷いた。
「えぇ。王太子様の言う通りです。…この味方の居ない王宮にご自分の娘が取り残される事を心配した公爵様が、クライシス家の名のもとに、専属執事の私を住まわせる事を条件として承諾をされたので。
いくら王太子と言えど、国の中枢でもある名家のクライシス家を敵に回すことは避けたいでしょうからね」
確かに、クライシス家は国の中枢でもある上位貴族の一つだ。それを考えれば、国にとってもこちらを失う事は、ダメージも大きいのだろう。ただ、譲歩したといっても囁かな程度だが。
(でも、一先ず何も無かったことに安心したわ)
いきなり変わった王太子が何をするか、ルビーも分からなかった。どうしていきなり変わったのか分からないまま、半ば強制的に連れてこられて、事情を聞いただけでは納得できないところもあったから。
「クライシス家の事についてはこれで以上になります。次は、お嬢様の今後について考えていきましょう」
「私の今後について…」
「えぇ。王太子様が変わった事で今後何が起こるか分かりません。昨日対面した時に思いましたが、あの方のお嬢様に対する執着のようなものには狂気すら感じるほどでした……ですので、」
言葉を一旦区切ったカルは私の手を握り真剣な目で私を見つめた。
「何かあればすぐに私を呼んでください。
一人で抱え込まないで、貴方が悩んで居る時は、私も一緒に悩み、解決しましょう。
苦しい事や悲しい事、辛い事があれば貴方の傍に居て貴方を笑顔にさせましょう。
…そしてもし、貴方に何かあれば、私の、この命に代えても必ずお守りすると誓います。」
「なにせ、私は貴方の…ルビーお嬢様だけの専属執事なのですから」と力強く、それでいて安心させるような声音で話すものだから、再び私の涙腺が緩みそうになる。
「カルは…私を泣き虫にさせる天才でもあるわね」
からかいながらそう言えば「い、いえっ!私は…」と焦りながら弁明をしようとするカルに再び笑いが零れる。
(カルが居てくれるだけで王宮での暮らしも頑張れそうな気がしてくるわ)
改めてこの従者がどれほど心強い味方か再確認し、気持ちにも整理をつける。
(婚約破棄を伝えた事で、1周目でなかったことが起きている事。そして突然のフェリクス様の豹変…)
この先も何が起こるか分からない、けれど、一つだけ分かる事がある。この執事が居るだけで私は、どんな事にもきっと挫けずに前に進んで行けるだろう。
だからまずは、
「ねぇ、カル」
「なんでしょう、お嬢様」
「…安心したら、少しお腹がすいてきたわ。」
「外にある庭園で一緒にお茶でもどうかしら」と微笑みながら伝えると、カルは一瞬目を見開いた後、フフッと笑いながら答えた。
「ええ。喜んで、ご一緒いたしましょう」
自分を大切に想ってくれている、この大切な執事に少しながらの恩返しを、と。
そう思いながら、ルビーは、カルと共に部屋を後にしたーー
…けれど、その穏やかな時間は、招かれざる客によって無惨にも壊されることになるとは、今はまだルビーは知らないーーー。
パチッ
穏やかな朝。小鳥のさえずりが聞こえ、目を開けると、そこはいつもの自分の部屋ではなかった。
(あぁ…そうだ、私、昨日フェリクス様に婚約破棄の話をする為に王宮に行って、それで…)
結局、婚約破棄する事は出来ず、豹変したフェリクスにより、家に帰ることも出来ずに王宮の離れで暮らすことになったのだ、と改めてルビーは、今の現状を理解した。
(昨日はたくさん泣いちゃったし、目元が赤く膨らんでそうね)
そっと自分の瞼に触れて、そう思っていると、右手に暖かい感触があった。横を見てみると、そこには執事のカルがルビーの手を握りながら頭を伏せて眠っていた。昨日、泣き疲れて眠った私をそのままベッドまで運んでくれて、安心させるように手を握ってくれていたのだろう。
「カル…ありがとうね」
起こさないように、カルの柔らかい髪の毛をそっと撫でながらお礼を伝えた。
「んっ…」
声で起きてしまったのだろう。カルが少し眠たそうにしながら「おはようございます、お嬢様。…申し訳ございません、起きるのが遅くなってしまって」と掠れた声で挨拶をする。
「おはよう、カル。全然大丈夫よ。それと…昨日はありがとう。カルにはたくさん、迷惑かけちゃったよね」
少し申し訳なさそうに伝えると、カルは頭を横に振りルビーに柔らかく微笑んだ。
「迷惑だなんてとんでもない。私がそうしたかったのです。それに、手を握るだけでお嬢様が安心して眠れたのなら…私はそれだけで、とても幸せなのですよ」
「ふふっ…カルは私を笑顔にさせる天才ね」
「そうであればとても嬉しいです。…私は貴方が笑顔でいてくれる事がいちばんの幸せなので」
穏やかな会話が進む中、ふとルビーは昨日までの出来事の中で気になっていた事をカルに問いかけた。
「ねぇ、カル。……あなたがここに居る事は、私にとって、とても嬉しくて心強い事よ。けれど…」
「クライシス家…お嬢様のお家やご家族について、ですね?」
言い淀んだ私に代わり、カルは私の家の事について話してくれた。
「結論からお話しますと、クライシス家についてですが…公爵様をはじめ、ルビー様のご家族様も全員ご無事なのでご安心ください。」
私はその言葉でホッと胸を撫で下ろした。
(良かった…お父様達はご無事なのね)
「ただ…」
「?」
「私も王太子殿下が来られた際に話し合いに立ち会っていたのですが…あの方が公爵様に行った事は、一国の王子としては、あるまじき脅迫に近い話し合いでした。
国の中枢の一つとも言えるクライシス家を王太子という立場で脅し…あまつさえ、公爵様が大事にされているお嬢様やご家族様を人質にすることで、公爵様が話し合いにうなずくしかない状況を作っていたのですから」
「とても一国の王太子ともあろう方が行うべき事では到底ありません」と忌々しげに零していた。
「本当に…そんな事をなさっていたのね」
「えぇ。私もまさかあの方が、婚約破棄を言ったお嬢様に対して、ここまでするとは思っておりませんでした。それは公爵様も同じだったのでしょう…」
…確かに、私もそう思ったくらいだったのだ。私たちの関係を近くで見ていたカルやお父様がそう思うのは尚更当然の事だっただろう。
「そう言えば、フェリクス様が言っていたわね。『お父様が言ったから、カルをここに置いて居る』って」
私の答えにカルは頷いた。
「えぇ。王太子様の言う通りです。…この味方の居ない王宮にご自分の娘が取り残される事を心配した公爵様が、クライシス家の名のもとに、専属執事の私を住まわせる事を条件として承諾をされたので。
いくら王太子と言えど、国の中枢でもある名家のクライシス家を敵に回すことは避けたいでしょうからね」
確かに、クライシス家は国の中枢でもある上位貴族の一つだ。それを考えれば、国にとってもこちらを失う事は、ダメージも大きいのだろう。ただ、譲歩したといっても囁かな程度だが。
(でも、一先ず何も無かったことに安心したわ)
いきなり変わった王太子が何をするか、ルビーも分からなかった。どうしていきなり変わったのか分からないまま、半ば強制的に連れてこられて、事情を聞いただけでは納得できないところもあったから。
「クライシス家の事についてはこれで以上になります。次は、お嬢様の今後について考えていきましょう」
「私の今後について…」
「えぇ。王太子様が変わった事で今後何が起こるか分かりません。昨日対面した時に思いましたが、あの方のお嬢様に対する執着のようなものには狂気すら感じるほどでした……ですので、」
言葉を一旦区切ったカルは私の手を握り真剣な目で私を見つめた。
「何かあればすぐに私を呼んでください。
一人で抱え込まないで、貴方が悩んで居る時は、私も一緒に悩み、解決しましょう。
苦しい事や悲しい事、辛い事があれば貴方の傍に居て貴方を笑顔にさせましょう。
…そしてもし、貴方に何かあれば、私の、この命に代えても必ずお守りすると誓います。」
「なにせ、私は貴方の…ルビーお嬢様だけの専属執事なのですから」と力強く、それでいて安心させるような声音で話すものだから、再び私の涙腺が緩みそうになる。
「カルは…私を泣き虫にさせる天才でもあるわね」
からかいながらそう言えば「い、いえっ!私は…」と焦りながら弁明をしようとするカルに再び笑いが零れる。
(カルが居てくれるだけで王宮での暮らしも頑張れそうな気がしてくるわ)
改めてこの従者がどれほど心強い味方か再確認し、気持ちにも整理をつける。
(婚約破棄を伝えた事で、1周目でなかったことが起きている事。そして突然のフェリクス様の豹変…)
この先も何が起こるか分からない、けれど、一つだけ分かる事がある。この執事が居るだけで私は、どんな事にもきっと挫けずに前に進んで行けるだろう。
だからまずは、
「ねぇ、カル」
「なんでしょう、お嬢様」
「…安心したら、少しお腹がすいてきたわ。」
「外にある庭園で一緒にお茶でもどうかしら」と微笑みながら伝えると、カルは一瞬目を見開いた後、フフッと笑いながら答えた。
「ええ。喜んで、ご一緒いたしましょう」
自分を大切に想ってくれている、この大切な執事に少しながらの恩返しを、と。
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