僕らは間違っているか。

虹彩

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思い出す

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朝、いつもより2本も早い電車に乗る。朝日もやっと体が全部出たばっかりで、涼しい風が吹いているはずなのに、なぜか熱い。
いつも聞こえるはずのバスケ部の音は聞こえず、体育館横にあるトレーニングルームへと向かう。
そこにまだ人影はなく、ダンベルを重ねてあるポールにもたれかかる。1番軽いダンベルを手に持ち、手先を絞る鉄の棒に今ここにいる痛みを感じる。
「え、何、筋トレ?」
そこにはエナメルバッグを担いで昨日までは白いポロシャツだったはずの内さんが、うちの学校特有の淡いブルーのカッターシャツになってネクタイに縛られて立っていた。
「あ!いや、ちがくて、暇で」
「暇で!?あ。待たせたか、ごめんな!」
「そんなつもりじゃ…」
全てを聞かずに近づき、ポールの反対側にもたれかかる内さん。
何もかもがイレギュラーで、動けなかった。なんの話だろう。
「ネクタイ、縛りすぎじゃないですか?」
とにかく顔が見える方に行こうと、正面に立ち、首元に手を伸ばす。これじゃ苦しいだろう。不器用なのだなと思った。その時ふと体に温もりを感じた。
「そーゆーのずるい。いきなり近寄られると我慢できないよ」
そんなつもりじゃ…
その言葉は口から出なかった。
「俺が言いたいことわかる?」
ただ首を振る。
「俺ね欲がすごいの。それで君色気がすごいなっと思って。」
イレギュラーにもほどがある回答に戸惑う。続きを黙って待つ。
「ね、胸触ってもいい?」
ただ、体から血の気が引いていた。気付いた頃にはトレーニングルームの出口前で小さく座り込んでしまった。
「ごめん、怖がらせた?」
顔を見た。いつもの内さんだった。
「俺が言いたかったのは、君とこーゆー関係になりたいってこと。」
「いやです。」
途切れそうな声は内さんの表情さえも変えなかった。
「お願い」
「私もう出ます。」
たしかに届いたその鋭い声に驚いた内さんは、
「ぎゅーだけでいいよ?もう一回だけ。」
両手を広げてそう話した。
右頬に熱い涙が落ちた。ただうつむいて首を振るしかなかった。
「そっか、じゃあ仕方ないな」
その言葉を最後まで聞き取り、ゆっくり立ち上がると勢いよくトレーニングルームのドアを開けた。
その時体育館の横に二年生のマネージャーの赤坂 茜さんがいて、異様な光景を見られたことにさらに恐怖を覚えて、走った。
体育館を出る時、恐怖に怯えきった顔を隠せず、涙を流し震える体で非常階段へと走った。防火扉を開けると、そこには同級生の晶がいた。
「なーと?どした?」
あだ名で呼ぶ晶の声に安心し、私は涙を止めることができなかった。



昔私は、強姦未遂にあったから。
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