僕らは間違っているか。

虹彩

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夢か現実か

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夕暮れ間近の近所は、下校途中の中学生と、スーパーへと買い物に向かう主婦の会話が行き交う賑やかな街だ。当時中学一年生だった私は、親しい友と別れて、近道をしようと川沿いの坂道を下っていた。いつものこと、いつもの夕方。坂の下の高架下を抜ければすぐに家だった。しかし、今日はそこに何人もの高校生がタバコを片手にたむろしているのが見えた。
(怖いな)
そう思いつつも目の前に家が見えていることもあり、足早に横を駆け抜けようと思った。
そのとき1人の男に声をかけられ、私は足を止めてしまった。

そこからの思い出したくもない無駄に鮮明な記憶が、今も頭に刻まれている。声をかけてきた男は遊ぼうといい、頑なに断る私を3人ほどで囲んだ。服を掴まれ耐えきれなくなったボタンが弾け飛ぶ。
足に手の感触を覚えて震え上がる。昔からこうなのだ。初めてできた彼氏も、仲の良かった男友達も、しばらく経つと、体を求めて来る。みんな揃えて、変な色気があると言う。母親からも、変な色気のことを指摘され、中学に上がる前に長かった髪の毛はバッサリと切った。涙が溢れされるがままの私を助けたのは、東崎さんだった。漫画の中のヒーローみたいだった。長い足で高校生を一蹴し、
「警察呼んだぞ」
と携帯電話を突きつけた。
そして、泣いてる私を抱きしめて、それから毎日家まで送ってくれた。


あの道を通らなければ。あの時足を止めなければ。何度後悔したかわからないその思いがこみ上げた。やはり思い出なんて増やさなければ、今日会いに来なければ。もう守ってくれる東崎さんはいないのに。ただ溢れ出す涙を黙って見つめて隣にいてくれる晶に、この全てを話すには重たくて、しかしこの場を切り抜ける方法が見つからず、
「ごめん、怖いことがあったんだ。晶の顔見たら安心して、」
「そうか!何事かと思ったよ。なーとらしくない!話さなくていいから落ち着くまでここにいよう」
その言葉に甘えて、私は晶に深く寄り添った。晶は優しい顔つきを真面目に変えて、「もう少し、頼っていいんだぜ?若葉も俺もお前のこと心配なんだ。」
晶と若葉は本当によく気にかけてくれる。まだ知り合って5カ月だと言うのに昔から知ってるようだ。一つ頭を頷かせ、涙をぬぐい、いつもの笑顔を向けた。
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