僕らは間違っているか。

虹彩

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ぎこちなく

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その日は午後から雨になり、グラウンドが使えずに部員は校舎でトレーニングをしていた。マネージャーは部室掃除や、普段はゆっくり掃除できないところを各自分担して行う。
(正直、雨が降ってくれたおかげで助かった。顔を合わせなくて済む)
そんなことを考えながら、掃除をしていると、棚の上に大きな蜘蛛の巣を見つけた。口を歪めながらも、普段からの掃除が必要だと感じ、渋々と落ちていた木の枝で蜘蛛の巣を巻き付けようとした。しかし、157㎝しかない七斗の一生懸命伸ばされた右手は空振りをした。どうしたものかと後ろふり向こうとしたとき、どうしたっと声が、かかった。
ただその一言なのに、背後からした声に恐怖を覚えて、七斗は一瞬固まった。風見さんだった。
「なんだ大山、届かないのか?」
肩に力の入ったまま振り返り、
「そ、そうなんです!」
とかえした。
「あ、驚かせたか?ごめんな!」
ただ、後ろから声をかけられただけにしては、驚き過ぎたと脈打つ心臓が知らせた。
「貸してみ!」
そう言って木の枝を取り上げ、蜘蛛の巣をすくってみせる。
「そういえばさー、大山、内となんかあったの?」
今一番聞きたくない名前だった。
「なんでですか?」
「んー、いや、いつも学校に来たら、一番に昨日お前とどんなメールしたとか、楽しそうに話すんだよ。好きじゃないなんて言いながら、絶対に好きだと思うんだよ。なのに、今日は来なくてさ。」
本当に好きなら。好きならあんなことをしないでほしい。
「昨日早くに寝ちゃって!ネタなかっただけですよ!」
「お前…もしかして。修太に何かされたんじゃ。」
なんでそんな質問?この人…
「今日、茜がトレーニングルームの前でお前らみたって。俺以外に言わないように口止めしておいたけど。」
目から朝枯れたはずの涙がこぼれた。雨と混じり頬を伝う。手がかすかに震える。
「あいつ、すごい愛情表現が不器用でさ。前の彼女にも攻め過ぎて振られたらしいんだよ。暴走したのではないかと思って。」
「…すいません、何もいえません。」
そう内向きながら話した。
「そっか!すまんな!へんな話きいちまった。ほら!蜘蛛の巣わたあめ!」
そう言って棒の先を押し付けてくる風見さんに笑顔で
「やめてください」
そう言った。あの時も本当は冗談で、こうして笑顔でそう言えたなら。いや…あまりにもそう言うには状況は本物だった。
風見さんが校舎の方へと駆けていく。その姿を見送りため息をつきながら掃除を再開した。
「七斗。今の話本当?」
背筋が凍った。
「内さんに何されたんだよ」
そこにいたのは、明らかに穏やかではない若葉だった。
「今日1日やけに目が合わなくて、そもそも朝練にも来れないなんて初めてだから、心配してたんだ。内さんと何があった。」
「関係ないよ」
「怯えてたじゃないか。」
「大丈夫だよ」
精一杯振り絞った笑顔は鏡を見なくても引きつっていることがわかる。
「わかったよ。」
そうゆうと、若葉は背中を向けて野球部倉庫へと入っていった。
ぎこちなく動かされる雑巾を握った手は震え。目尻は涙を抱えきれず落とした。
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