僕らは間違っているか。

虹彩

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二章

止まらない関係

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次の日から、優子は学校に来て、部活にも戻ってきた。みんなには、風邪をこじらせたと言い、黙々と仕事をこなす優子がそこに居た。ただ、優子は前よりも部員と話すようにしていた。その頑張りは誰の目に見ても可愛いかった。
「西岡、可愛くなったな!頼りやすくなったし!!」
「優子ちゃん!俺にアイシングつくってくれる?」

もともと整った顔立ちの優子だ。先輩たちもほっておかなくなった。


「でもお前にはおどろいた。」
ふと横を向くと、内さんの姿があった。朝のたった2人の時間。誰にも邪魔されない。
「何がー?」
「ケーキぶん投げた時。お前、意外と怒ると怖いんだな!」
にっと笑う内さんの言葉に、思い出したように顔が熱くなった。
「もう!」
しゃがみこんだ膝に顔を埋める。
(恥ずかしい…)
恥ずかしい思い出を頭の中でもう一度思い返していた時、ふと冷たい指が耳に触れた。
驚いたように顔をあげる。左側にしゃがむ内さんの顔も少し赤らんでいた。
耳に触れた指は頬を包んだ。冷たさが伝わるのに少し心地いい。
私は思わず目を閉じてその時間をかみしめた。
「そーゆーところだよ。すきだらけ。」
「え?」
次の瞬間、内さんの唇の温もりを感じた。ただ拒むことは出来ず、素直にキスを返していた自分がいた。
頬を包んだ右手は肩へと周り、隣り合った体は向かいあっていた。

その瞬間だった。非常階段を登ってくる足音に気づいた。とっさに体を離したが、階段を登ってくる人から隠れられるような場所はなかった。
目のやり場に困り、ただ不自然に立ちすくみ、壁を見ているしかなかった。

「おー、おはよー」
「お、おはようございます!」
そこにいた2人の野球部員は元気よく挨拶を返した。階段を登ってきたのは、古典の水田先生だった。彼はおおらかな性格で生徒からいい意味でも悪い意味でもナメられていると噂だった。
先生は大きな体を揺らしながら前を歩き去って行った。
緊張して強張った体から力が抜けて、顔から血の気が引くのがわかった。
「ど、どうしよう…」
「大丈夫、水田だから!みられてないって!」

そう内さんは言ったけど、私はただ不安で仕方なかった。
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