僕らは間違っているか。

虹彩

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透明

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ひがしーに彼女ができたことで、私は1人ぼっちの帰り道を歩いていた。
(部活は充実してるし、今は夏の大会のことだけを考えて部活しないといけないのに。ひがしーには、そんなつもりないのに。1人で毎日舞い上がってバカみたいだな。)
ネガティヴな思考を巡らせ、家に着く頃にはすっかり重たくなった頭に、冷たいものがあたる。
(雨…?)
いつの間にか頭上を覆っていた雨雲に気づき、ハッとして干したままの洗濯物のために足早に家に入る。
階段を駆け上がり、洗濯物を急いで取り込むと、慌ただしくご飯の準備を始めた。
(わかってた。ひがしーが私のこと妹のように思っていたこと。仕方がない。しかたないことなんだから。)
忙しさに身を任せてひがしーのことを忘れようとした。
それから何日もの間、ひがしーと山本さんの2人が、楽しそうに話す姿を見るたびに痛んだ胸は、必死に部活に打ち込むことでその痛みも和らいでいった。
「大山、元気取り戻したんだな!」
廊下ですれ違った若葉が、急に声をかけてきた。
「え、何?」
「お前最近元気ない気がしててさ。マネージャーなんてしんどいことばっかりだと思うんだけど、俺達もっと頑張るからさ!夏に向けてバテずにいこーぜ」
初めて話した時は、マネージャー希望の子達にあんなトゲトゲしていた若葉は、あどけなく無邪気なとても優しい奴だった。
「だね!!今日もバリバリ部活頑張るよ!」
2人で顔を合わせて笑い、走り出していく若葉の背中に、自分の中で夏の大会に向けての気持ちが大きくなっていくことを感じた。
(切り替えれたのかな。若葉ありがとう。)
ふと、前を見ると、違った世界が見えた気がした。言葉では表せない、透明な、けどそこに確かにある、フィルムみたいなもの。そこはすごく輝いた世界で、そこが毎日過ごしていたグラウンドを一望できる非常階段だと気づいたとき、自分のいる世界の輝きにも気づいた。非常階段は全面がガラス張りで、透明な水槽の中にいるような気分になる。
(すごく…きれい。)
勢いよく足を踏み出す。
夏はまだ始まったばかりの、7月のことだった。
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