推しのダンジョン配信者を死なせたくないので炎の仮面冒険者始めました~日本初の100層踏破者は毎回コメント欄がツッコミの嵐

煌國粋陽

文字の大きさ
19 / 29

19、お野菜魔法

しおりを挟む
原宿ダンジョン94層――。


撮影ドローンのカメラ越しでも絶望を感じさせる暗闇が拡がる空間の上方に浮かぶ巨大な炎の冷蔵庫。


:疑似太陽って言っても周囲真っ暗なままじゃね?
:空中に逃げればSランクの魔物達も手が出せないのか?
:有効なひとつの戦術なんだろう
:【注】普通の冒険者はまず飛べません


ここから何が起こるのか、その場にいる野心鬼をはじめライブ配信の視聴者たちも固唾を飲む。
すると燃え盛る巨大な炎の冷蔵庫の向きが変わり、パカッと扉が開いた。

開いた扉から溢れ出したのは真紅の光。
漆黒の空間を真紅が照らし出す。


:ちょwたしかに夜中真っ暗な状態で冷蔵庫の扉開けたら明るくなるけどww
:【作戦詳細発覚】疑似太陽作戦ではなく冷蔵庫作戦だった。
:冷蔵庫設定にはこんな意味がww
:【スルーしてあげて警報】カッコよく疑似太陽って言った大将、肩透かし喰らってしまう
:ホント解説者泣かせだよこの仮面冒険者


炎の仮面冒険者の挙動にコメント欄が和む。
しかし場が和んだのも束の間だった。

:おい。なんだあの黒く蠢いてるの?

真紅の光に照らされているのは細長い異形な黒だった。
ひとつまたひとつ新たな黒がその異形に吸収されていく。
蠕動する黒に視聴者たちも狼狽する。


:うわぁ。なんかグロくて無理
:徐々にでっかくなって冷蔵庫に近づこうとしてね?


『――魔物達が仮面冒険者を喰らおうと押し合いへし合い潰し合ってやがる。さながら魔物の塔だアレは』

瘴気感知のミアズマスコープを装着している野心鬼がそう呟いた。

:あれ全部魔物なのかよ……
:塔というかもう山っぽくね
:下敷きになってる魔物は圧死してくれるとかあるのか?
:S級魔物はS級魔物に潰させるっていうのがこの階層の攻略法?
:それだと下敷きになってる魔物しか死なん
:いやもう冷蔵庫に襲い掛かれるところまできてるぞこれ


あくまでダンジョンの1階層であり、天井が存在するこの空間では浮遊回避にも限界がある事を視聴者たちも悟る。

その時だった。

巨大化した炎の冷蔵庫からなにやら先端が尖っていて細長い炎の塊が続々と魔物目掛けて落下していく光景が始まったのは。

炎塊が黒き魔物の山に突き刺さっては爆発し、真紅に照らされた黒を四散させていく。


:おおおッ!すげえ
:S級魔物がまるでゴミのようだ
:それにしてもあの炎の形、なんか見覚えがあるような……
:ぶっちゃけあれ大根じゃないか?
:……
:……
:……

ひとりの視聴者の言葉にコメント欄が一瞬沈黙する。

:マジで大根だwww
:ちょww
:意地でも貫く冷蔵庫設定wwww
:【悲報?】正体不明のS級魔物さん、大根に負ける
:あの大根、どこで買えますか?

暫くすると大根姿の炎塊とはまた違った形の炎の塊が既に半分ほど破壊された魔物の山を追撃する。

:今度はニンジンか?
:きゅうりもあるぞ
:あれはナスじゃね?
:急にお野菜シルエット当てクイズ大会が始まってて草
:これは視聴者を飽きさせない配信冒険者の鏡

:【防衛省からのお願い】あれはお野菜魔法ですので、良い子の皆さんは決して本当の食べ物の野菜で魔物を倒そうとしてはいけません
:お野菜魔法wwww
:【防衛省からのお願い】がクセになってきた
:わかる
:明日小学校で大根振り回すこどもがいたら100%アルパカのせい
:仮面冒険者さん、こどもの教育に悪かった


視聴者たちが和気藹々とする中で魔物の山はひとりの仮面冒険者によって完全に淘汰された。
真紅の光は動きを見せる黒の存在の消滅を確認したところで消えた。

巨大な炎の冷蔵庫も徐々に小さくなり、地面まで降りてくる。
野心鬼も戦闘終了を確認し、仮面冒険者の元へ歩み寄る。



「ふざけたやり方でS級1000体斃しやがって」

自分よりも格上の強者への羨望かそれとも嫉妬かはたまた安堵か様々な感情を綯い交ぜにした眼光で野心鬼は相好を崩しながら毒づく。

:想定の800超えてるじゃん
:不規則氾濫の最中だから魔物の数も通常より多いんだろうな
:じゃあ95層はS級2000は想定しておかないとって事か?
:加えてフロアボスもいる
:東京最大【東魔天譴】でも踏破出来ない訳だ


「配信という形での調査をお願いしたのは自分なんで視聴者さんたちを退屈させない努力は必要なのかなって」

:出たよヘビーリスナー発言
:90層攻略に血道を注いでるガチ勢が卒倒しそうなコメント
:配信映えをどうするかの方に頭悩ませてそう
:頭悩ませすぎた結果、『そうだ!冷蔵庫でいこう』
:あなた疲れてるのね京都へ羽根を休めてきた方がいいと思うの


「じゃあ大将、95層行きます?」


:言葉が軽すぎる
:完全に課長、もう一軒行きます?のノリ
:S級2000個体も普通に殲滅しそう
:100層踏破がブラフじゃなくなってきた


元のサイズに戻った炎の冷蔵庫は再び扉から真紅の光で周囲を照らしながら出口を見つける。
階層出口の先にいたのは自慢の雷槍に黒竜の頭を突き刺した嗚桜だった。


「よお。待ってたぞ」

:おお。【天譴】だ
:ブラックドラゴン討伐したのか流石だな
:そりゃ昨日まで東京随一の冒険者だったんだから
:嗚桜真月さん、既に東京最強の看板を外されてしまう
:この冷蔵庫、既に神奈川を狙ってるし
:神奈川を狙う冷蔵庫ってどこぞのAI世界よ


「嗚桜さん」
「嗚桜でいい」
「95層行きますよね?」
「ああ……勿論だ」

:【天譴】も若干ビビってるな
:未踏破層は誰だって怖いんだな
:実際94層の絶望感を日本国民全員知ったからな
:アルパカみたいにおふざけ映像にしないととても世間に公開できんわ


「嗚桜よ。お前の心配は杞憂だ。自分の身を守る事だけに専念しろ」

野心鬼はそう語り掛けながら嗚桜にミアズマスコープを渡す。

「???」


:そうだ【天譴】は94層で何が起きたか知らないんだった
:冷蔵庫が扉開けてお野菜がどんどん出てきたらあら不思議。階層踏破出来ました
:文章だけだと理解不能
:踏破ガチ勢があれ見てどんな反応するか興味ある


:アカン下手したら日本の冒険者の脳が破壊されてしまう

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!

川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。 だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。 だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。 馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。 俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

処理中です...