異世界転生したら辺境の錬金術師でした

第10章

第10章：目覚める禁忌の生命体！ 錬金術師の試練

「おい……これ、本当に大丈夫なのか？」

カイルがカプセルの中に眠る人造生命体を見つめ、不安そうに呟いた。

透明なガラスの中に浮かぶのは、未完成の人型――肌は白く、髪は透き通るような銀色。そして、瞳は閉じられたままだ。

俺は慎重に観察する。

「……まだ生きているようです」

「なっ！？ これ、生きてるのか！？」

エルフの弓使いも驚きの声を上げる。

（生命を創るなんて、まさに錬金術の禁忌……。だが、エルドはそれに成功しかけていた）

俺は「賢者エルドの手記」をもう一度開いた。

《人造魂の錬成は、魂の欠片を核とすることで可能となる。だが、完全な魂を定着させることはできなかった。》

《私は最後の手段として、この存在に私の魔力の一部を与え、休眠状態にすることにした。》

《もし、誰かがこれを発見し、私の研究を継ぐならば……彼（彼女？）を目覚めさせる方法はただ一つ。》

《"賢者の秘薬" を使え。それが、私の到達した唯一の答えだ。》

「……"賢者の秘薬"？」

そんな薬は知らない。しかし、手記の別のページにはその作成方法が記されていた。

《材料：純粋な魔力を持つ結晶、スライムの体液、精製されたエルフの涙》

「スライムの体液なら手元にあるし……純粋な魔力結晶もポーションの触媒として持っている。でも、最後のエルフの涙って……？」

「……まさか、私の？」

エルフの弓使いが驚いた表情を見せる。

「いや、すまない。無理にとは言わない。ただ、この人造生命体を目覚めさせるには必要らしい」

彼女はしばらく考えた後、静かに頷いた。

「……わかったわ。これは錬金術師としての君の試練なのでしょう？」

そう言って、彼女は目を閉じ、魔力を込めた涙を一滴落とす。それを慎重に瓶に保存し、俺はすぐに調合を始めた。

目覚める人造生命体
賢者の秘薬が完成し、それをカプセルの魔法陣に注ぐ。

すると――

カプセル全体が青白い光に包まれた。

「おい、何か起こるぞ！」

カイルが剣を構える。

俺も息を呑みながら、目の前の存在を見守った。

「…………」

カプセルの中で眠っていた人造生命体が、ゆっくりと目を開く。

透き通るような蒼い瞳が、俺たちを映し出した。

「……アナタハ……ダレ？」

彼（彼女？）は、まだはっきりしない声で呟いた。

俺は静かに名乗る。

「俺はレオン・ファルス。錬金術師だ」

「……ワタシハ……」

人造生命体は自分の手を見つめる。

「ワタシハ……ナマエガ……ナイ」

彼女（仮にそう呼ぶことにしよう）は、まだ自分自身の存在が曖昧なようだった。

（賢者エルドの研究は未完成だった。だから、この存在も完全ではないのかもしれない）

「なら……名前をつけようか？」

俺がそう提案すると、彼女はゆっくりと頷いた。

「レオン、お前が名付け親ってことか？」

カイルが笑う。

俺はしばらく考え――**「ルミナ」**という名前を提案した。

「ルミナ……？」

「光（ルミナス）から取った名前だ。君が目覚めたことが、新たな可能性の光になるように」

すると、ルミナは微かに微笑んだ。

「……ルミナ。ワタシ……ルミナ」

そう呟く彼女の姿を見て、俺は確信した。

彼女はまだ未完成な存在かもしれない。だが、確かにここに「生きている」。

そして、俺の新たな錬金術の道が開かれた瞬間でもあった。