白い結婚をしたら相手が毎晩愛を囁いてくるけど、魔法契約の破棄は御遠慮いたします。

たまとら

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結婚への道  レイト

5 呪文と甲乙

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まずレイトとクレストは
「本日の見合いについて人に一切を喋らない」
という魔法契約書にサインした。

最近は特別感を出す為に魔法契約書がブームだと聞いていたが。
……コレはガチな奴だった。
喋ったら喉が、筆記すれば腕が、麻痺して使用不可になるという条項がある。
…暴露出来ないガチモノだった。
しかも麻痺解除条件は、契約相手への心底の謝罪というマジモノだ。

多分、コレでチャラい奴が20人は会う前からのお断りで敵前逃亡しただろう。

レイトは隣に座るクレスト兄様の笑顔で、とりあえずサインした。
まぁ、喋る相手もいないけどね。


そうしてインテリメガネがポスターのように巻かれた羊皮紙を取り出したのだ。
それは嫁となる乙へ婿となる甲の結婚への魔法契約書だった。

羊皮紙の冒頭は『乙は甲と1M以上の距離をとること』で始まった。

怪しまれないように1週間を夫婦の寝室で休む事。
その時もベッドで1Mの距離は死守する事。
結婚式以後の同伴は無い筈だが、不測に備える為一カ月は王都の屋敷にいる事。
期限後は単独で領地に帰郷しても構わない。
その後は既婚者として相応しい生活を心がける事。

そんな軽いジャブの後、乙甲の呪文攻撃が始まったのだ。

乙は甲の食後のスプーンを舐め無い事。
乙は甲の使用済み衣類の匂いを嗅がない事。
乙は甲の寝具を秘匿しない事。

………変態かっ。

乙は甲のトイレについていかない事。
乙は甲のワードローブに触れない事。
乙は甲に従者を介さずにプレゼントを渡さない事。

乙が甲が、とインテリメガネの凹凸の無い声が流れる。
何?ホラーか? 怖、むしろ怖。

白だ。
真っ白でねじくれている…
つまり簡潔明瞭に言うと『白い結婚』の魔法契約書だった。
それも事細かく粘着質な。

そしてその報酬としての取り決めが再び乙と甲と並んでいる。

乙にはグランハルト領の望む荘園が与えられる事。
乙には夫人としての手当が支給される事。
乙はその生活をその手当の中で行う事。
使用人や屋敷の維持等は荘園の上がりから支給される事。
夜会などの不測の事態では乙は夫夫として出席する事。
その際もやむおえないエスコート以外は1Mを死守する事。


馬鹿じゃん。
ここまで到達出来た見合い相手はいるのだろうか?
無理無理無理無理。無いわぁ

もうほとんど気が遠くなりそうな時に、その赤黒い点に気がついた。
サロンの敷地には護衛が立っている。
でもその外からこちらを伺う奴がいる。
目立つ点は3つ、でも一条向こうにも潜んでいる。合計8個だ。
いつもなら姦しく教えてくれる光の玉は、クレスト兄様が登場してからぴたりと見えない。そりゃもう領地から王都まで遠くで僅かに光るだけだ。
兄様の圧に怯えているんだと思う。わかるー

赤黒いのは害意や殺意だ、それも物理的な。
インテリメガネの呪文から、レイトはそっちの色に集中した。
学校でも逃げた牛とそれを狙う獣の気配を探って、草原で無双した事がある。
赤黒い色は無視しちゃいけない色だ。
だからこの色だけは白金の壁からもわかる様にしている。
こいつらの目当ては誰だ?
セルジオ?クレスト兄様?いやぁ僕って事は無いしねぇ。

レイトはピンと来た‼︎

見合いというのに本人は現れない。
しかもまるで時間稼ぎの様なこの結婚契約書。
誰がどう見てもオッケーと言うはずのないばかばかしい結婚契約書だ。
だいたい見合いというのはクレスト兄様の言葉だけだ。

……セルジオサイドは見合いという気はさらさら無くて、付け狙う敵を上手く兄様に擦りつけるつもりだったんだ!
そうだ‼︎そうに違いない!

さっすが僕、冴えてるぅ。

馬鹿な奴だ。
バレバレじゃんか!
どうした兄様⁉︎あんたは食物連鎖のトップに立ってる男だと思ってたぞ。
いや、知り合いとかいう関係で断りきれなかったのかもしれない。
クレスト兄様はアレで懐に入れた人には優しいからな。
そんな兄様を騙すなんて極悪じゃん‼︎

ぐぬぬと拳をにぎったレイトの前で、ようやく呪文のような説明が終わった。

「いかがでしょう?宜しかったらサインを」

羽ペンを持ってセルジオが言うので

「宜しくないです!」

と拳を握ったまま立ち上がった。

「兄様!見合いという甘い言葉で誘い出して、8人もの殺意で囲む奴を信用してはいけません!こんなモノにサインしたら領地を巻き込む惨事になるに決まってます!
さっさと帰りましょう!」

ぶほっとクレスト兄様が噴いた。
インテリメガネの切れ長な目が真ん丸になってメガネがずり落ちた。
キメ顔のレイトの額にクレスト兄様のデコピンが爆烈した。


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