2 / 5
子供は宝と言うけどね
1 取り残された僕
しおりを挟む
強張っていた父様の手が、柔らかくなって来た。
ぐにゃりと冷たくて凶々しい。
わかってる。
父様は死んだ。
この手はもう動かない。
僕の頭を撫でてはくれないのだ。
せめて顔が穏やかなのが、ホワンは嬉しかった。
最近は何も口にしようとしなかった。
痛そうな、苦しそうな顔はもう無い。
なんでだろう。
生きてないって言うだけで、こんなによそよそしいなんて。
やつれても微笑んでいるような深い皺を見上げながら、ホワンはとろとろと意識を手放した。
頭の隅で鶏に餌をあげなきゃ、とか
仕事さぼってマスター怒っているかな、とか考えたけど。
もうどうでもいいや。と吐き出した。
鶏は庭から出て野原に行っちゃうだろうけど。
仕事しないとパンが買えなくなるけれど。
もう、どうでもいいや。
父様が死んだ。
母様に頼まれていたのに、父様が死んだ。
もうこの地上で僕は独りぼっちだ。
もう何もしたくない。
もうどうでもいい。
のふのふと時折り覚める意識の中で、ホワンは再び沈んでいく。
どうせなら連れて行って。
置いてかないで。
一緒に連れて行って。
僕はもういい
どこん。
大きな音が扉を噴き上げた。
不格好に乗っていた屋根のスレートが、反動で飛び散る音がする。
鍵と蝶番を破壊されて、一枚板になった扉が床に倒れて埃を舞い上げた。
「うおっ!」
「くっせぇ。窓開けろっ‼︎」
そんな野太い声を、ホワンは閉じた意識の中で聞いていた。
「あっ!発見しました!」
「待てっ、口元を覆えっ!腐乱が始まってる」
「早く防腐シートを広げろ、そこにお移しする」
扉が無くなって外からの光が広がった。
舞い上がる埃がキラキラする中で、黒い人影がちらちらする。
掴まっていた父様から引き剥がされた事で、ホワンは目醒めた。
知らない男達が、死体をシーツで包み込んで持ち上げる。
広げたシートに横たえるので、ホワンは焦って叫ぼうとした。
「~~~~~~」喉が掠れて声が出ない。
何日眠っていたのか力が入らない。
必死で頭を持ち上げて、倒れながら近くの男に縋った。
ホワンに縋られて男は驚いてひいっと叫んだ。
「た、隊長!子供がいます‼︎」
「はあっ⁉︎」
わさわさと人影が動く。
ホワンはぐいとひっくり返され、少し頭を持ち上げられた。
「水をよこせ!」
「君。君は誰だ⁉︎」
「いつからここにいた。」
大声が吹き荒れる嵐の中でホワンの唇に水筒が当たる。
否応なく入ってきた水は、塞がった喉にぼこんと固まって、ぐえっと咳き込ませたがその水分は頬肉や舌にじゅっと沁み込む。
「連れてかないで。父様を連れてかないで」
必死で叫んだが、ただの弱々しい息漏れにしかなってない。
男の人は膝をついてホワンの口元に耳を寄せた。
言葉を聞き取ると「父様ぁ?」と頓狂な声を上げた。
その声に男達に動揺が走る。
「お子様がいらっしゃったのか⁉︎」
「まさか‼︎」
「どうする?ご遺体の回収しか命じられて無いぞ」
「いや、こんな幼いお子様はありえないだろうが!」
「そうだよ。孤児を引き取って世話をさせてたんじゃないか」
「どうする…」
連れ帰っていいものか。
動揺でおろおろする男達の後ろから
「その子は確かにオルフォンス様のお子様だ」
声がした。
ぐにゃりと冷たくて凶々しい。
わかってる。
父様は死んだ。
この手はもう動かない。
僕の頭を撫でてはくれないのだ。
せめて顔が穏やかなのが、ホワンは嬉しかった。
最近は何も口にしようとしなかった。
痛そうな、苦しそうな顔はもう無い。
なんでだろう。
生きてないって言うだけで、こんなによそよそしいなんて。
やつれても微笑んでいるような深い皺を見上げながら、ホワンはとろとろと意識を手放した。
頭の隅で鶏に餌をあげなきゃ、とか
仕事さぼってマスター怒っているかな、とか考えたけど。
もうどうでもいいや。と吐き出した。
鶏は庭から出て野原に行っちゃうだろうけど。
仕事しないとパンが買えなくなるけれど。
もう、どうでもいいや。
父様が死んだ。
母様に頼まれていたのに、父様が死んだ。
もうこの地上で僕は独りぼっちだ。
もう何もしたくない。
もうどうでもいい。
のふのふと時折り覚める意識の中で、ホワンは再び沈んでいく。
どうせなら連れて行って。
置いてかないで。
一緒に連れて行って。
僕はもういい
どこん。
大きな音が扉を噴き上げた。
不格好に乗っていた屋根のスレートが、反動で飛び散る音がする。
鍵と蝶番を破壊されて、一枚板になった扉が床に倒れて埃を舞い上げた。
「うおっ!」
「くっせぇ。窓開けろっ‼︎」
そんな野太い声を、ホワンは閉じた意識の中で聞いていた。
「あっ!発見しました!」
「待てっ、口元を覆えっ!腐乱が始まってる」
「早く防腐シートを広げろ、そこにお移しする」
扉が無くなって外からの光が広がった。
舞い上がる埃がキラキラする中で、黒い人影がちらちらする。
掴まっていた父様から引き剥がされた事で、ホワンは目醒めた。
知らない男達が、死体をシーツで包み込んで持ち上げる。
広げたシートに横たえるので、ホワンは焦って叫ぼうとした。
「~~~~~~」喉が掠れて声が出ない。
何日眠っていたのか力が入らない。
必死で頭を持ち上げて、倒れながら近くの男に縋った。
ホワンに縋られて男は驚いてひいっと叫んだ。
「た、隊長!子供がいます‼︎」
「はあっ⁉︎」
わさわさと人影が動く。
ホワンはぐいとひっくり返され、少し頭を持ち上げられた。
「水をよこせ!」
「君。君は誰だ⁉︎」
「いつからここにいた。」
大声が吹き荒れる嵐の中でホワンの唇に水筒が当たる。
否応なく入ってきた水は、塞がった喉にぼこんと固まって、ぐえっと咳き込ませたがその水分は頬肉や舌にじゅっと沁み込む。
「連れてかないで。父様を連れてかないで」
必死で叫んだが、ただの弱々しい息漏れにしかなってない。
男の人は膝をついてホワンの口元に耳を寄せた。
言葉を聞き取ると「父様ぁ?」と頓狂な声を上げた。
その声に男達に動揺が走る。
「お子様がいらっしゃったのか⁉︎」
「まさか‼︎」
「どうする?ご遺体の回収しか命じられて無いぞ」
「いや、こんな幼いお子様はありえないだろうが!」
「そうだよ。孤児を引き取って世話をさせてたんじゃないか」
「どうする…」
連れ帰っていいものか。
動揺でおろおろする男達の後ろから
「その子は確かにオルフォンス様のお子様だ」
声がした。
1
あなたにおすすめの小説
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
愛などもう求めない
一寸光陰
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた
こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる