囚われの斎王は快楽に溺れる  竜と神話の王国

たまとら

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地底湖

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禊の為に地底湖へと降りる。
岩を掘った階段は、薄暗く湿っている。
こちらを威圧する為か、戦利品や押収品を確認する為か、王や兵がついてくる。
世話をしてくれる神官を連れて、地底湖の畔に立つ。
果てが無く見える空間に、王の口からふっと息が漏れた。

光苔で壁や天井は覆われて、ぼんやり明るくてもやはり暗い。
水面は鉛のような鈍い光を映す、黒い平原に見えた。

禊場に降りると、ケープを外して神官に渡す。
中に何もつけてないのを見て、ざわめきが起こった。

斎王は物心付いた時から人に世話してもらっている。湯浴みも着替えも。
だから人前で裸でいる事に躊躇いは無い。何故か目を逸らす兵達を見上げ、ゆっくり微笑む。

「では、禊をいたします。」

王がうなずくと、浅くなった水際に進む。
すっと足を入れると、いつものように、あちこちから波が集まってきた。
それが近くなると背びれだとわかる。
15メートル程の大きな背びれがぐんぐん集まる。

「斎王!危険です。竜が!」

兵が叫ぶのを手で止める。
人のざわめきに苛立った水竜(モササウルス)が、がっと牙だらけの大きな口を開けて、水面に躍り出た。
ひいぃぃ、と叫びがあがって、武器を構えようとするのを再び手で止める。

「大丈夫です。この子達は何もしません。」
ゆっくり、腰まで水に浸かる。
「し、しかし…」
「毎朝、挨拶してますから。」
にっこり笑いかけると、気圧されるように黙りこむ。
「この子達はここの主なのですよ。大きい子は百年以上前からここにいます。」

斎王として微笑みながら、ちらりと王を伺うと、何か考えている。
コレをいかに上手く使うか。だな。
シリンはすかさず、腹の中でいろんな可能性を考えた。


暗い水面に灯された燈のように、斎王の白銀の輝きだけが映っている。
その白銀が、果ての見えない地底湖の中に沈んでいく。
黒いと思えた水が、白銀を透かし出し、碧に揺らめいている。
その周りを巨大な水竜がゆっくり戯れて、銀の長い髪が水中でゆらゆら漂う。
まるで竜と遊んでいるようだ。

兵達の目には、斎王がまさしく神の代理として竜と戯れているように見えた。
歩兵に至っては、思わず跪いている。

神と竜への畏敬の念は、人の記憶の深い所から来ているに違いない。


ゆっくり水から上がった斎王の体は、濡れて反射し、直視するのもはばかられるような美しさだった。

お付きの神官からケープをかけられ、神殿へと踵を返す。 
王も黙ったまま、その後に続いた。

人が地底湖から去っていく。

それを見送った巨大な水竜が、ばちゃりと尾で水面を叩いた。
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