恋するじゃがいもと、先輩とボケナス

たまとら

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学園生活

8 客観視は大人の階段

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シグルド先輩が苗を持ち上げる。
張り出している根からボタボタと固まった土が落ちた。

「やっぱりローフェ地方は粘土質だね」
「根張りが浅いと収穫にも影響しますからね」

温室横のガゼボでミーティングしてる。
真面目な話なのに脳味噌に沁みて来ない。
ごめんなさいシグルド先輩の指に見惚れています。
手入れされた爪が土汚れの中でキランと光ってる。
いやぁ、カッコいいわぁ。
上級貴族は汚れる事をしないのに、スルッと働いちゃうって大物感だわぁ。

どうしよう、すっごく好き。

ルインはこのドキドキもゾクゾクも、好きって事だと気が付いてしまった。
のべつ幕なし『シグルド様をたぶらかすな』だの『シグルド様から離れなさい』だのと言われると、むしろ意識しちゃって気が付いちゃった。
これ、好きって事では⁉︎って。
もう雷がガラガラビッシャーン!ってなって、晴天の霹靂って感じだった。

そして生まれて初めて"客観的に自分を見る"という大人の階段に足を掛けた。
おかげで自分の立ち位置を考えた。

僕って学園に来たい訳じゃ無かった。
とにかく行ってこいって言われたから来たんだ。来なかったらそのまま田舎でケニーおじさんと野菜作って、牛の世話したり卵集めたりして暮らしてた。
父様や兄様みたいに領民を守る為に戦ったり出来ないし。
母様みたいに戦闘マニアな巨人族を御すなんて絶対出来ない。
僕って一体何ができるんだろう。
いや魔力の方向は農業方面だけど。

うむうむと考えるルインは無意識にペン軸で額をコリコリした。
おかげで毛が逆立ってぽわぽわとはみ出していく。
先輩達がほほえましく見ているのに気付かずに、ルインは煩悩の海に沈んだ。


このモヤモヤの原因はわかってる。
「シグルド様に恥をかかせるおつもりなの?」って言われたからだ。
自分の悪口は平気だ。
むしろどんとこい!と思ってた。
倍返ししてやると思ってた。

恥って言葉が刺さって抜けない。

今まで誰に何と言われようと、自分は自分でいいじゃないかと思ってた。
キャンキャン吠える白塗り達は、顔の識別も怪しいくらいだ。
嗤うなら勝手に嗤えばいいやと思ってた。

でも恥って言われた。

シグルド先輩に恥をかかせてる?
一緒にいると先輩が嗤われる?
好きって気持ちを返して欲しいなんて思っていない。
だってカッコ良すぎて無理だもの。
でも部活で一緒にいるだけで先輩が嗤われるなんて…

有象無象の言葉なんか気にしない。
でも先輩は…

きっとシグルド先輩は気にするなって言うだろう。ほっとけばいいって。

でもあのかっこいい先輩が。
あの優しい先輩が。
僕のせいで嗤われるなんて…


ルインのもやもやはご飯を食べても治らなかった。
一晩寝ても治らなかった。
心の中に棘が刺さって、じゅくじゅくと瘴気のように負を撒き散らす。



ミーティングが終わって、畑に向かう途中でカラド先輩を木の陰に引っ張り込んだ。
シグルド先輩の侍従で、いつも辺りを静観しているカラド先輩ならどうすればいいか教えてくれると思う。

ルインの勢いにちょっと困った笑顔で
どうしたの?って聞かれたから
「僕、そばかすが消えるでしょうか⁉︎」
と聞いてみた。



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