【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら

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いきなり辺境

3 マウント取り合い

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キリルはいい性格をしている。
王都では、心配してくる最愛の弟の手前優しい兄を演じていた。

それが今、愛する弟はいない。
しかも初対面でかましてくる夫候補と対峙している。
おかげで上品に。とか、淑やかに。とかの必要性を微塵も感じなかった。

その『嫌だったらとっとと帰れ』というスタンスは、いい出しっぺが王様なのだから
「おまえが頭を下げて破談にしろよ‼︎」
と、思う。
こっちが勝手に帰ったら、王様サイドの心象は10対0でこっちが悪いになるだろうがぁ‼︎
しかもこちとら一ヶ月の馬車旅で着いたばかりなんだぞっ!

ちっとは相手の立場とか、世間体とか、体調とか、考えやがれ!

と、キリルは苛ついている。
売られた喧嘩は受けて立つぜ。
~僕、悪く無いからね。


アルベルトはキリルの"ばぁ~か"が聞こえた訳でも無いのに、真っ赤に茹で上がっている。
拳がぶるぶるしているのは、振り上げる気か?
やっぱDV野郎か?

キリルは冷徹な目でそれを見守っていた。


この世界には二種類の人間がいる。
アニマとアニムスだ。
つまり子供を産めるかどうかだ。

そしてアニマはアニムスに比べて華奢で小柄だ。
キリルはアニマだ。
正直非力だ。
それでも理不尽な暴力に対抗する為に、幼い頃から防護術を訓練してきた。

もし目の前の男が人に手をあげる下衆野郎だというのなら、矯正する迄、徹底的にいたぶりたおす自信がある。


キリルの決して折れない目を見て、アルベルトの侍従はぶんぶんと頭を横に振った。

ちゃいます。
殴る男じゃございません。
すいません、これ以上追い詰めないであげて!
と、いうサインだ。

ギブ。
ギブです!

彼の心がダダ漏れだ。

どう考えても勝てないと踏んで、彼はアルベルトの陰から前に進み出ると礼をとった。

「キリル様はお帰りにならないと思って宜しゅう御座いますか?」

昂っているキリルを遮って、ガルゼが礼を返す。

「その様に王から申し使わされて参っております」

(王命なんだよ。勝手に帰れる訳ないだろうがぁ!いいから、さっさと言いたいことあるなら言いやがれ!)

アルベルトの侍従はエルダスと名乗った。
()ナニナニを副音声で美辞麗句が飛び交う。
貴族の顔を見せながら、侍従達は話をすり合わせていく。


この国には婚姻の誓約書に署名する迄に、顔合わせというお試しの仮婚システムがある。
最長、一ヶ月を夫側の家で過ごす。
そして家風やしきたりを学び、意義が無ければ成婚するという、まぁ夫候補の家に入ったからには逃げ場のないお見合いシステムがある。

正直アニマの数は少ない。
おかげで囲い込まれる様に大事に育てられるアニマは、気弱でおとなしい者が多い。

そのせいか、一発やられちまったらだいたい抵抗もせずに成婚になる。

顔合わせの期間は表向き"ベッドを共にしない""清い関係でいる"と互いに約束するけれど。
大概の夫側は貴重で可愛いアニマを手に入れようと、その気満々ウェルカムで嫁候補を迎えるし、嫌だと思う嫁側はなんとか攻防戦を繰り広げて必死にしのぐ。

反対に地位と金のある美味しい夫だと思うと、嫁側はとにかく寝室に入り込もうとあの手この手を使ってくる。

遊び人の夫候補だと、ヤルだけやって『合わない』と、追い出したりする。

なかなか泥沼なそんなお試しの顔合わせが始まる訳だけど。
キリルは王様という金看板を背負ってる訳で。
まぁ、無事になんとか誓約書に署名したいと思っていた。
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