【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら

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城での生活

8 伝統芸能ってヤツか

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状況を述べよう。

追い詰められたアルベルトがはっとしたのと同時に。
パーフェクトなガルゼは背後に持っていた足台を、すっと前に押し出した。


阿吽の呼吸というヤツ?
もしくは様式美の昇華。

キリルはその台に駆け上るように飛び乗って、すかさずアルベルトの顔の横にドンしたのだ。


……だって、身長差があるんだもん。

壁ドンは相手を威嚇する伝統芸能だ。
キリルも大好物だ。
だが、いかんせん、今回は背が足りない。

通常でアルベルトにドンしたとしたら、せいぜい脇の下辺りをドンする事になる。
そんな所に手を置いて、見上げたりなんかしたら。
~胸筋の間に上目遣いな菫色の瞳が見える訳で。

なんか側から見ると、キス待ちな自意識過剰なイタい奴に見えちゃうじゃあありませんか!



ガルゼは考えた。

頭に血が上ってるキリルは詰め寄るに決まっている。
蹴りを入れたいし、投げ飛ばしたい。
でもアルベルトは現役で鍛えまくってるから無理だろう。
戯れてる甘えん坊さんにしか見えないだろう。

と、いう事は…。
と、ガルゼは冷静に判断して足台を用意した。

今、そのおかげで見事な壁ドン状態に二人はいる。

引き攣った驚愕の表情のアルベルト。
やったぜ!というドヤ顔でウキウキしているキリル。
睨みつけていてもウキウキが隠れていない。
ドヤ顔なのは仕方ない。
シリアスを前面に出してても、普段見下ろされている男をドンで動けないようにするのは、むっちゃええ気持ちなのだ。

そしてその周囲は若干口元をヒクヒクして耐えていた。

足台。

そしてドン。

客観的に見てそれはなかなかに可笑しい。
自分の腹筋が鍛錬されているかのように、ぷるぷる震えている。

ルーア様がベッドによじ登る為の足台を、何故ガルゼが背後にしょっていたのか…
今、その謎が解けた。
そしてソレは表に出せない感情だ。

吹き出してはいけない!
そんな差し迫った気分のまま、皆は腹の中でひぃひぃと笑いを押し込めて耐えていた。


そんなお笑いの状況(勿論ガルゼは無表情だ。目を逸らしているが)も気付かずに、二人は世界に入ってる。

ソレってどうよ…。
と、エルダスは思った。

笑い死にさせる気かっ‼︎




「あいつ。ルーアを叩いたんだ。」

そんな笑える状況なのに。
キリルはシリアス一直線だ。
声がマジ怖い。

「さんざん脅して叩き出したから、もう此処には来ないからね。」


生まれて初めてドンされた状況に、ぽかんとアルベルトは目の前の顔を見た。

近い。

凄く近い。

息が掛かるほどに近い。


「領主の仕事が大変なのは、分かる。必死なのは分かる。でもルーアはまだ幼いのに親を無くしてひとりぼっちなんだぞ…」


いやぁ。
菫色って綺麗なんだなぁ。
その周りが黒いまつ毛に縁取られて、湖みたいだ。
その中に俺がいるって、なんかドキドキする…
怒って上気してるから、何にも塗ってないのに唇が赤い。これを齧ったらどんな味がするんだろう…


「おい?」

キリルはアルベルトの焦点がズレて散漫になって来たのを感じた。

あかん。
これ以上言っても、脳に滲みない。

足台から降りると、
「え?もう終わり⁉︎」
と、アルベルトが間抜けに吠えた。
~~なんやねん!


ちなみに
「キリル様の事を御理解できましたか?」
と、告げられて。
家令も執事長もほっこりとした顔になっていた。
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