駆け落ちの後始末を、僕らに求めるのはマジ勘弁して欲しい

たまとら

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シルフィと王城

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馬車に乗ってる。
ずっと抱き上げられたまま。

シルフィは目が見えない。
産まれた時から見えない。
だから匂いや気配に敏感だ。

この腕の主は大きくて、怖くて。
~何故かママに似ている。
それがずっと優しく撫でてて、強張りが徐々に消えていく。

パルスはどうしているだろう。
どん!という鈍い音がして、痛みの波動が押し寄せて来た。
パルス。
ケガをしたんだろうか。
そうなった原因はこの手の持ち主だ。
この人はパルスを穢らしいと言った。
いらないと言った。

まだシルフィの体は本調子では無く、うとうとと眠りそうになる。

パルスは必ず助けに行くって言ってた。
パルスは約束を破らない。

暖かい膝の上で、シルフィは丸くなったまま眠りに落ちて行った。



怖くて大きな人は、ママのパパだと言った。
ママが死んだから僕を迎えに来たと言った。
愛しそうな声が、心の柔らかい所を揺らしていく。
おじい様と呼ぶ様に言われた。

「パルスは?」

「パルスはどこ?」

聞いても返事は返ってこない。
大きな手が優しく撫でながら、僕の和毛がどんなに艶々しているか、人化したらきっとどれだけ可愛いかと、ひたすら喋っている。

……会話になってない。

体もまだ怠く。
起きているのか寝ているのかうつつのままだ。
逃げなくちゃって思うけど、どうしていいのかわからない。



硬い地面だった道が、舗装された道になった。
舗装された道を走るようになって、馬車の車輪がタタン、タタンと楽しそうに歌う。
取り囲んだ人達の馬の足音や声の他は、ずっと木や風の音だったのに、だんだん開けた畑が多くなっていく。




『王の帰還だーーっ。開門せよーーーっ!』


遠くでそんな声が、ラッパの音とともに響いている。
ラッパはリレーのように小さくなりながら、遠くへ遠くへ繋がっていく。


ゴゴゴゴッッ
という地響きがしたけれど。
馬車は止まる事なく、ぱかぱかという蹄の音とともにタタンタタンと進んでいく。


何かの中に入ったと思ったら、違う空気圧がシルフィをどすんと通過していった。

音が。
人の、物の、気配の音が。
わあぁぁぁん と立ち昇る。
音の壁がシルフィにぶつかって体を揺らした。

街の中だ。
境界門を抜けて街の中に入ったんだ。

漣のような人声が。
タタンという車輪の音よりも強く、轟々と吹き付ける。
匂いも雑多で。 
空気の匂いは人熱ひといきれが混ざりながら香辛料も建材も練り込まれ、どろりとしている。
それが馬車の窓から入り込み、ぐるぐるとシルフィを締め上げた。

沢山の人。
知らない人。
知らない街。

パルスもママもいない。
僕は一人。
一人。

~~怖い!



シルフィの怯える気配を察して、おじい様は大丈夫だよ。と言いながら撫で上げた。

こんなに優しい声なのに、どうしてあんなに酷い事を言うんだろう。

うっとりと撫で上げられながら。
この人を本気で信じてはいけないんだ。
心を開け渡してはいけないんだ。
そう心に刻んでいた。
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