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番は特別らしい
5 猪突猛進のサンドロ 下
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「異世界人は私共の奴隷でも召使いでもございません。
女神様の思し召しで来て頂いた賓客で御座いますよぉ。
それが背後からの奇襲、そう貴族らしく決闘を申し込む事もなく、いきなり殴りかかったのですからねぇ」
サンドロは返す言葉が無かった。
「やれやれ、レン様は顎が砕かれ目が潰れて今は生死の境で御座いますよ。異世界人は脆いと注意事項にも書いておきましたのにねぇ。」
「その者には賠償金をたっぷりと払う。
第一、人の番にベッタリくっついていたのだ!」
あくまで謝罪をしないサンドロに、リンドルム担当官のにゅわんとした口元がVの字に上がった。
部屋の温度が下がる圧に、サンドロとジャダの喉がひくっと呻く。
「まだ仰いますか。異世界の方と番になるには、サンドロ様は足りてないようですねぇ。本当に番とはわからないものですぅ。
……少し、大人になりしょうか。」
何をっ⁉︎ とか、馬鹿にするなっ‼︎と叫ぶ前に、頭の中で知らない男がにたにたと笑っていた。
あ、カール・リンドルム担当官は強大な精神支配の能力があったんだ…と考えたが、すぐに霧散して。
サンドロとジャダはだるくて頭がぼうっとして動けなくなっていた。
この怠さは脱水や栄養失調だ。
行軍訓練の時に荷物を落としてそのまま訓練して、ぶっ倒れた時に似ている…ジャダは思った。
怖くて怖くて声が出せない…この体は彼女のものだ。
サンドロは切なくおもった。
無精髭の男から、ドブの匂いがした気がする。
そいつの手が視界に広がるのをサンドロは見ていた。
その目は下卑た欲望でギラついて、彼女は声も出せずに震えている。
助けに行けない自分に、ももをおもいっきりつねった。
汚い手が触れようとした時、ぐんと何がそれを叩いた。
『ニゲロ!』痩せこけて目をぎらつかせた子供が叫ぶ。
その子供はすぐに男に蹴り飛ばされてゴミの上へと転がった。
『はな!ニゲロッ』子供が叫ぶ。
男はひぃひぃと笑いながら子供をなぐる。
彼女はゴミを掻き分けて、部屋の隅の巣へと潜り込んだ。
子供の顔は殴られて腫れて斑ら色だ。
潤んだ視界の中で、子供は笑う。
『ダイジョウブ。』心の中に幸せが滲んでいくのを、サンドロとジャダは戸惑いながら味わった。
髪がパサパサな金色の女が激昂する。
顔は彼女そっくりだ。親子なのだろう。
ニコニコしてたのがいきなり激昂して、腕を振り上げた。
落ちてくる手のひらをぼうっと見てたら、顔の前にあの子供がダイブした。
『ジャマダヨ!蓮華ッ』女の叫びはヒステリックで止まらない。
目の前で、彼女の前でその子供は殴られていた。何度も何度も。
サンドロもジャダも心が痛かった。
子供が少ないこの世界では、子供は社会の宝だ。
それなのにこの子供達は…
しかもその子供は、自ら彼女に向かう拳の前に飛び込んでいく。
その子供が兄だというのは、言われなくてもわかった。
こんな小さな子供が大人にかなう訳もなく、胃液を吐いてまるまる体に女は『キタナイ‼︎』と叫んでいた。
そしてあの日。
見覚えのある会場で。
目の前のあの子供は青年になっていた。
大丈夫とエスコートしてくれていた。
その肩を鷲掴んで、拳を振るったのは赤い髪を振り乱した鬼だった。
怖い。
怖い。
怖い。
酷い。
酷い。
酷い。
辞めて。
辞めて。
辞めて。
自分のギラついた鬼の顔を。
彼女の叫びに揺り動かされながら凝視して。
サンドロは声を失って立ち尽くしていた。
「わかりますぅ?番だなんだのと仰ろうと、サンドロ様はハナ様から見るとこうなんですよぉ」
鬼だ。
魔物だ。
自分を護る兄を殴る鬼。
ようやくサンドロは自分の立場を理解した。
女神様の思し召しで来て頂いた賓客で御座いますよぉ。
それが背後からの奇襲、そう貴族らしく決闘を申し込む事もなく、いきなり殴りかかったのですからねぇ」
サンドロは返す言葉が無かった。
「やれやれ、レン様は顎が砕かれ目が潰れて今は生死の境で御座いますよ。異世界人は脆いと注意事項にも書いておきましたのにねぇ。」
「その者には賠償金をたっぷりと払う。
第一、人の番にベッタリくっついていたのだ!」
あくまで謝罪をしないサンドロに、リンドルム担当官のにゅわんとした口元がVの字に上がった。
部屋の温度が下がる圧に、サンドロとジャダの喉がひくっと呻く。
「まだ仰いますか。異世界の方と番になるには、サンドロ様は足りてないようですねぇ。本当に番とはわからないものですぅ。
……少し、大人になりしょうか。」
何をっ⁉︎ とか、馬鹿にするなっ‼︎と叫ぶ前に、頭の中で知らない男がにたにたと笑っていた。
あ、カール・リンドルム担当官は強大な精神支配の能力があったんだ…と考えたが、すぐに霧散して。
サンドロとジャダはだるくて頭がぼうっとして動けなくなっていた。
この怠さは脱水や栄養失調だ。
行軍訓練の時に荷物を落としてそのまま訓練して、ぶっ倒れた時に似ている…ジャダは思った。
怖くて怖くて声が出せない…この体は彼女のものだ。
サンドロは切なくおもった。
無精髭の男から、ドブの匂いがした気がする。
そいつの手が視界に広がるのをサンドロは見ていた。
その目は下卑た欲望でギラついて、彼女は声も出せずに震えている。
助けに行けない自分に、ももをおもいっきりつねった。
汚い手が触れようとした時、ぐんと何がそれを叩いた。
『ニゲロ!』痩せこけて目をぎらつかせた子供が叫ぶ。
その子供はすぐに男に蹴り飛ばされてゴミの上へと転がった。
『はな!ニゲロッ』子供が叫ぶ。
男はひぃひぃと笑いながら子供をなぐる。
彼女はゴミを掻き分けて、部屋の隅の巣へと潜り込んだ。
子供の顔は殴られて腫れて斑ら色だ。
潤んだ視界の中で、子供は笑う。
『ダイジョウブ。』心の中に幸せが滲んでいくのを、サンドロとジャダは戸惑いながら味わった。
髪がパサパサな金色の女が激昂する。
顔は彼女そっくりだ。親子なのだろう。
ニコニコしてたのがいきなり激昂して、腕を振り上げた。
落ちてくる手のひらをぼうっと見てたら、顔の前にあの子供がダイブした。
『ジャマダヨ!蓮華ッ』女の叫びはヒステリックで止まらない。
目の前で、彼女の前でその子供は殴られていた。何度も何度も。
サンドロもジャダも心が痛かった。
子供が少ないこの世界では、子供は社会の宝だ。
それなのにこの子供達は…
しかもその子供は、自ら彼女に向かう拳の前に飛び込んでいく。
その子供が兄だというのは、言われなくてもわかった。
こんな小さな子供が大人にかなう訳もなく、胃液を吐いてまるまる体に女は『キタナイ‼︎』と叫んでいた。
そしてあの日。
見覚えのある会場で。
目の前のあの子供は青年になっていた。
大丈夫とエスコートしてくれていた。
その肩を鷲掴んで、拳を振るったのは赤い髪を振り乱した鬼だった。
怖い。
怖い。
怖い。
酷い。
酷い。
酷い。
辞めて。
辞めて。
辞めて。
自分のギラついた鬼の顔を。
彼女の叫びに揺り動かされながら凝視して。
サンドロは声を失って立ち尽くしていた。
「わかりますぅ?番だなんだのと仰ろうと、サンドロ様はハナ様から見るとこうなんですよぉ」
鬼だ。
魔物だ。
自分を護る兄を殴る鬼。
ようやくサンドロは自分の立場を理解した。
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