37 / 63
ギルドと依頼とジャダと俺
5 NOとは言えない ジャダ
しおりを挟む
「頼みがあるんだよぉ」
リンドルム様から繋ぎが入った。
向こう三件両隣はリンドルム様の手の中だから、近所の好々爺がレンに世間話をする程で入ってきた。
久しぶりに会うリンドルム様は相変わらずぽよんとした感じで、その糸目でにこにこゆさゆささせているけれど、その頼みとやらに緊張した俺は息を詰めていた。
決して理不尽な事はさせないだろうという信頼はしている。
だが今の俺はただの護衛を遥か彼方に蹴り飛ばして、あわよくばの下心を心の隅で飼っている背徳者だ。疾しい。
そんな俺にリンドルム様は「はい」と籠を突き出した。
中にはクロワッサン。
上級貴族の館でしか見た事の無い、バターたっぷりの高級パンだ。
「妻がレン様に会いたいって言うんだよねぇ。」
だから何故パン?
そっか、エサだな。
食べる事に執念を燃やすレンにとって、これは飛びつくエサそのものだ。
護衛に付くに当たって、俺は契約にサインした。
レンは異世界人だという事を言わないだけど縛りだと思ってるが、ソレはかなりえげつないものだ。
おかげであの魔石がリンドルム様の物だと本人から聞かされた。
その魔石を宿したレンに会ってどうする?
リンドルム様に番の奥方がいらっしゃる事はきいていた。
王でさえ御せないリンドルム様をただ一人動かせる方だと。
まぁ、この世界のあるあるな番至上主義だけどね。
その奥方がレンに会いたいと願われたという。
リンドルム様には悪いが、ちょっと嫌な気持ちになった。
よくいる我儘にな貴族夫人のように、宿した魔石を返せと詰め寄られたら俺はどうすればいいんだろう。
勿論レンを守って、その奥方を馬車に詰め込んでとんずらすれば良いが。
その魔石の事を知ってしまったら、レンはきっとショックを受ける。
レンが辛い思いをするなんて、俺は耐えられそうにない。
そんな俺の悶々をチラとも察せず、案の定レンはパンで舞い上がった。
木の日はギルド仕事の定休日と決めて、元気に買い物に行く。
おかげで食卓も弁当もバリエーションが増えて嬉しくて美味しい毎日だ。
そしてその日がやって来た。
レンの左目から雫のような涙が滑った。
奥方の目には、レンと同じ銀河が瞬いている。
二人が見合っている空間は、うっとりした砂時計が流れているようだ。
二人は似ていた。
顔形ではなく、深いところで似ていた。
レンはあの魔石を隅々に溶かし込み、その細胞全てを奥方へと向けている。
「この手で剣を振るわれますのね…」
そう手を繋ぐ二人は親子にしか見えない。
互いの身体から愛しいという思いが溢れるようだ。
俺も、奥方のおつきの者も立ち入る事なく黙って見守った。
その夜、レンに聞かれた。
「この気持ちって、これって、番ってこと?」と。
彼女は夫がいる人なのに、番だったらどうしよう。
あ、そっちかい。とジャダは肩透かしをくらった。
俺は知ってる。
あの切なくてほっとする甘さは母に向ける物だ。
おやぢに怒られて飛び出した時、そっと迎えに来て干し肉を手渡した母もあんな蕩ける目をしていた。
多分、レンは母というものをわかっていないだろう。
レン。
やっぱりお前はこっちの世界で生まれてれば良かったのに。
そしたらデロデロに愛されて、可愛い我儘小僧でいただろうに。
リンドルム様から繋ぎが入った。
向こう三件両隣はリンドルム様の手の中だから、近所の好々爺がレンに世間話をする程で入ってきた。
久しぶりに会うリンドルム様は相変わらずぽよんとした感じで、その糸目でにこにこゆさゆささせているけれど、その頼みとやらに緊張した俺は息を詰めていた。
決して理不尽な事はさせないだろうという信頼はしている。
だが今の俺はただの護衛を遥か彼方に蹴り飛ばして、あわよくばの下心を心の隅で飼っている背徳者だ。疾しい。
そんな俺にリンドルム様は「はい」と籠を突き出した。
中にはクロワッサン。
上級貴族の館でしか見た事の無い、バターたっぷりの高級パンだ。
「妻がレン様に会いたいって言うんだよねぇ。」
だから何故パン?
そっか、エサだな。
食べる事に執念を燃やすレンにとって、これは飛びつくエサそのものだ。
護衛に付くに当たって、俺は契約にサインした。
レンは異世界人だという事を言わないだけど縛りだと思ってるが、ソレはかなりえげつないものだ。
おかげであの魔石がリンドルム様の物だと本人から聞かされた。
その魔石を宿したレンに会ってどうする?
リンドルム様に番の奥方がいらっしゃる事はきいていた。
王でさえ御せないリンドルム様をただ一人動かせる方だと。
まぁ、この世界のあるあるな番至上主義だけどね。
その奥方がレンに会いたいと願われたという。
リンドルム様には悪いが、ちょっと嫌な気持ちになった。
よくいる我儘にな貴族夫人のように、宿した魔石を返せと詰め寄られたら俺はどうすればいいんだろう。
勿論レンを守って、その奥方を馬車に詰め込んでとんずらすれば良いが。
その魔石の事を知ってしまったら、レンはきっとショックを受ける。
レンが辛い思いをするなんて、俺は耐えられそうにない。
そんな俺の悶々をチラとも察せず、案の定レンはパンで舞い上がった。
木の日はギルド仕事の定休日と決めて、元気に買い物に行く。
おかげで食卓も弁当もバリエーションが増えて嬉しくて美味しい毎日だ。
そしてその日がやって来た。
レンの左目から雫のような涙が滑った。
奥方の目には、レンと同じ銀河が瞬いている。
二人が見合っている空間は、うっとりした砂時計が流れているようだ。
二人は似ていた。
顔形ではなく、深いところで似ていた。
レンはあの魔石を隅々に溶かし込み、その細胞全てを奥方へと向けている。
「この手で剣を振るわれますのね…」
そう手を繋ぐ二人は親子にしか見えない。
互いの身体から愛しいという思いが溢れるようだ。
俺も、奥方のおつきの者も立ち入る事なく黙って見守った。
その夜、レンに聞かれた。
「この気持ちって、これって、番ってこと?」と。
彼女は夫がいる人なのに、番だったらどうしよう。
あ、そっちかい。とジャダは肩透かしをくらった。
俺は知ってる。
あの切なくてほっとする甘さは母に向ける物だ。
おやぢに怒られて飛び出した時、そっと迎えに来て干し肉を手渡した母もあんな蕩ける目をしていた。
多分、レンは母というものをわかっていないだろう。
レン。
やっぱりお前はこっちの世界で生まれてれば良かったのに。
そしたらデロデロに愛されて、可愛い我儘小僧でいただろうに。
154
あなたにおすすめの小説
従者は知らない間に外堀を埋められていた
SEKISUI
BL
新作ゲーム胸にルンルン気分で家に帰る途中事故にあってそのゲームの中転生してしまったOL
転生先は悪役令息の従者でした
でも内容は宣伝で流れたプロモーション程度しか知りません
だから知らんけど精神で人生歩みます
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜
たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話
【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる