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もう一人の異世界人

1 ナヴァがナヴァになった時

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召喚された時。
その場にはナヴァが目を合わす事も許されない様な上級娘嬢様達がいた。
彼女達は見知らぬ世界に来た事で、身を震わせて叫んでいた。
その神経に爪を立てるような叫び声は、害意の無さそうなふとましい異世界人が花と宝石を捧げた途端に霧散した。

娘嬢様達はキラキラした宝石に誘われる様に歩き出す。
我先にと宝石に向かう娘嬢達を黙って見ていた最上級娘嬢様は、安全を確信してから動き出した。
うずくまるナヴァに蔑む目を向けて鼻を鳴らすと命じた。
「ワタクシの裳裾を引き摺らないようにお持ち」
そのおかげでナヴァは召喚陣から出る事ができた。

ナヴァは下級だ。
指示を受けないと動くことは許されない。
本当はナヴァに名前は無かった。
個別番号があったが、どこに行っても顔のバーコードで読み取られて行くので声を出す必要も無かった。

異世界人としての登録をする時に、ナヴァは戸惑った。
この世界にはコードリーダーが無いらしい。
もたつくナヴァに苛立ったのか、先程の最上級娘嬢様が「ナヴァのろま」と言ったのでナヴァはナヴァになった。


この異世界召喚は、なんでも番という伴侶を求めて行われたらしい。
伴侶とは婚姻相手ということだ。
この世界は雄と雌が同じくらいいて、結婚するそうだ。

娘嬢様達は薔薇色や虹色のバーコードをしている。
それも美しい顔の邪魔にならない様に、頬の端や首筋にその識別子がある。
胸は球のように盛り上がり、細い腰と豊かな尻をしている。

そんな素晴らしい娘嬢様はともかく、何故下級の自分がここにいるのか分からなかった。誰かと間違ったりしたとしても、ナヴァは仕事中で娘嬢様のいる様な場所にはいなかったからだ。

ナヴァは下級兵士Ⅳ型だ。
隠密で探索する為に造られた。
せめてⅠ型やⅡ型なら娘嬢を模した雌型なのに、ナヴァは王配を模した雄型だ。

「雄の遺伝子は簡単に替えられるのよね」
研究塔の中級娘嬢を探っていた時に、天井裏で聞いた言葉だ。
「万が一、雑種の交配事故が起こらないように、もっと臓器の発育を抑えないといけないわね」
言葉を暗記して報告したが、意味は良くわからなかった。


帝国のシステムは簡単だ。
太陽たる女王がただ一人統治している。
国民は全てが女王の子供だ。

ただ一人の女王の下に次代の女王候補の最上級娘嬢様が3人いる。
そして他の国へ和平の為の婚姻をする上級娘嬢様が数人、そして高貴な方々のお世話をする中級娘嬢様達。
中級娘嬢様達は行政も研究開発も担っているとても賢い方々だ。
そしてそれらは全て目が合えば潰れそうなくらい美しい。

雄はなんの役にも立たないモノだ。
ただ王配として女王と性交して娘嬢様達を造る。
何もしないろくでなしだと言われながらも、愉しみの相手として上級や中級娘嬢様に呼ばれているのを知っている。

下級は生産も配送も狩猟も戦争も、全てを担う。
顔に刻まれたバーコードで管理され、黙々と働く。
娘嬢様のような豊かな身体も美しさも無い。
むしろ型に分けられてそれ専用に特化した身体に造られている。

下級も女王から造られたはずなのに、違いは天と地ほどに違う。
そのシステムは永劫不滅で、あの世界で誰も疑問に思っていなかった。
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