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もう一人の異世界人
2 ナヴァが番に出会った日
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上級娘嬢様達はキラキラしたものが好きだ。
目新しい異世界の美しいドレスや宝石や食べ物に夢中になった。
何より絶対的存在の女王はいなくて、周りは自分を褒めてくれる。
しかも一人づつに結婚相手がいるというのだ。
番という伴侶は、決して分つ事のないただひたすら愛する者だという。
その番という存在は、とても甘美に思えた。
そんなキラキラする彼女達からナヴァはそっと隠れていた。
隠密に特化したナヴァは、直ぐに存在を消せる。
付けられた侍女という者への距離感がわからずに、ひたすら隠れていた。
異世界には個々に名前と家族がいるという。
侍女という中級娘嬢にも名前がある。
下級であろう掃除する者にも荷物を運ぶ者にも名前があって家族がいる。
混乱したナヴァは、指示が無くどう動いたらいいのかわからなかった。
隠れたナヴァは、あのふとましい異世界人に呼び止められた。
その異世界人はリンドルムと名乗った。
自分の隠密を見破られた事に、諦めて斬首を覚悟した。
だがリンドルムは何も言わなくても直ぐ帝国のシステムを理解したようで、細い目をにっこりとさせて好きになさってくださいねぇと言った。
それからは最上級娘嬢様から指示が出る様になった。
『渡された服を着なさい。着方がわからないなら侍女を使いなさい』
『ワタクシに恥をかかせないように、勉強しなさい』
その指示に、ナヴァはほっとして従った。
教室の隅でナヴァは勉強した。
その子供の様な身体と、消した気配で誰も文句は言ってこない。
下級兵士Ⅳ型は探索用だ。
どんな狭い所も潜り込めるように小型だ。
頭さえ通せば肩の関節をずらして入っていける。
その見た目は子供のようだった。
教室で娘嬢達は咲き誇る花のようだ。
その彼女達が"美しくて気を失いそう""ワタクシが番だと請われたらどうしましょう"と最近騒めいている。
庭を通り過ぎる番候補の中に、娘嬢様達の気を惹く者がいるようだ。
彼の方は、雄だというのに王配なぞとは違うのだ。
きりりとして笑わないところがたまらないのよ。
そう頬を染めると、虹色のバーコードはきらきらとまたたく。
しなやかな指先は、労働した事の無い美しさだ。
ナヴァはそんな美しい娘嬢様達を舞台を観るように見ていた。
下級の自分には縁のない事だ。
廃液パイプの中を這いずって、自分の肩にも頭にも爛れた鱗のような跡がある。
この優しい生活で癒されてその跡は薄くなったが、身分の差というものは生まれつき身に染みている。
そしてある日。ナヴァはその"神々しく美しい男"を見た。
手入れされた庭に、太陽があるのかと思った。
金の髪が光にさざめいている。
仮面かと思える程に整った顔をぴくりとも動かさず、彼は青空の様な瞳で見渡していた。
その視線のスポットライトに当たった娘嬢様は、ひゅぃっと息を呑んで頬を赤くし、ドキドキと鼓動を早くしている。
かつて女王を見た事がある。
恐れと敬慕が否応なく沸き起こって、床に突っ伏した。
その尊大な女王は太陽と自ら名乗っていたけれど、見ると目が潰れそうになる所だけが太陽と似ていた。
彼の方が太陽のようだ。
雨が降っても風が吹いても雷が落ちても、彼は全てに愛されて一切害されずにいそうだ。
その口元は緩く一文字で、無表情。
誰かを探して動く目だけが彫像では無いと教えている。
隠れてる筈のナヴァと、彼の視線が合った。
ひゅっ。
ナヴァの喉もきゅっと狭まる。
彼は視線を逸さなかった。
その青空がじっとナヴァを見ている。
隠れてたはずなのに…
そんな焦りは彼に見入って溶けていく。
彼の口元が小さく丸く綻んだ。
空気が揺れる。
揺れて甘く広がっていく。
彼の唇がゆるりと持ち上がり、その間から白い歯が覗いた。
きゃあぁっ、嬌声があたりに持ち上がる。
美しい笑顔が辺りの空気をぞんぞんと揺さぶる。
笑顔の中で青空が蕩けるようにまたたいた。
愛してるよ
そんな単語が頭の中で点滅して、ナヴァは呆然とたちつくした。
目新しい異世界の美しいドレスや宝石や食べ物に夢中になった。
何より絶対的存在の女王はいなくて、周りは自分を褒めてくれる。
しかも一人づつに結婚相手がいるというのだ。
番という伴侶は、決して分つ事のないただひたすら愛する者だという。
その番という存在は、とても甘美に思えた。
そんなキラキラする彼女達からナヴァはそっと隠れていた。
隠密に特化したナヴァは、直ぐに存在を消せる。
付けられた侍女という者への距離感がわからずに、ひたすら隠れていた。
異世界には個々に名前と家族がいるという。
侍女という中級娘嬢にも名前がある。
下級であろう掃除する者にも荷物を運ぶ者にも名前があって家族がいる。
混乱したナヴァは、指示が無くどう動いたらいいのかわからなかった。
隠れたナヴァは、あのふとましい異世界人に呼び止められた。
その異世界人はリンドルムと名乗った。
自分の隠密を見破られた事に、諦めて斬首を覚悟した。
だがリンドルムは何も言わなくても直ぐ帝国のシステムを理解したようで、細い目をにっこりとさせて好きになさってくださいねぇと言った。
それからは最上級娘嬢様から指示が出る様になった。
『渡された服を着なさい。着方がわからないなら侍女を使いなさい』
『ワタクシに恥をかかせないように、勉強しなさい』
その指示に、ナヴァはほっとして従った。
教室の隅でナヴァは勉強した。
その子供の様な身体と、消した気配で誰も文句は言ってこない。
下級兵士Ⅳ型は探索用だ。
どんな狭い所も潜り込めるように小型だ。
頭さえ通せば肩の関節をずらして入っていける。
その見た目は子供のようだった。
教室で娘嬢達は咲き誇る花のようだ。
その彼女達が"美しくて気を失いそう""ワタクシが番だと請われたらどうしましょう"と最近騒めいている。
庭を通り過ぎる番候補の中に、娘嬢様達の気を惹く者がいるようだ。
彼の方は、雄だというのに王配なぞとは違うのだ。
きりりとして笑わないところがたまらないのよ。
そう頬を染めると、虹色のバーコードはきらきらとまたたく。
しなやかな指先は、労働した事の無い美しさだ。
ナヴァはそんな美しい娘嬢様達を舞台を観るように見ていた。
下級の自分には縁のない事だ。
廃液パイプの中を這いずって、自分の肩にも頭にも爛れた鱗のような跡がある。
この優しい生活で癒されてその跡は薄くなったが、身分の差というものは生まれつき身に染みている。
そしてある日。ナヴァはその"神々しく美しい男"を見た。
手入れされた庭に、太陽があるのかと思った。
金の髪が光にさざめいている。
仮面かと思える程に整った顔をぴくりとも動かさず、彼は青空の様な瞳で見渡していた。
その視線のスポットライトに当たった娘嬢様は、ひゅぃっと息を呑んで頬を赤くし、ドキドキと鼓動を早くしている。
かつて女王を見た事がある。
恐れと敬慕が否応なく沸き起こって、床に突っ伏した。
その尊大な女王は太陽と自ら名乗っていたけれど、見ると目が潰れそうになる所だけが太陽と似ていた。
彼の方が太陽のようだ。
雨が降っても風が吹いても雷が落ちても、彼は全てに愛されて一切害されずにいそうだ。
その口元は緩く一文字で、無表情。
誰かを探して動く目だけが彫像では無いと教えている。
隠れてる筈のナヴァと、彼の視線が合った。
ひゅっ。
ナヴァの喉もきゅっと狭まる。
彼は視線を逸さなかった。
その青空がじっとナヴァを見ている。
隠れてたはずなのに…
そんな焦りは彼に見入って溶けていく。
彼の口元が小さく丸く綻んだ。
空気が揺れる。
揺れて甘く広がっていく。
彼の唇がゆるりと持ち上がり、その間から白い歯が覗いた。
きゃあぁっ、嬌声があたりに持ち上がる。
美しい笑顔が辺りの空気をぞんぞんと揺さぶる。
笑顔の中で青空が蕩けるようにまたたいた。
愛してるよ
そんな単語が頭の中で点滅して、ナヴァは呆然とたちつくした。
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