足元に魔法陣が湧いて召喚されたら、異世界の婚活だった件

たまとら

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もう一人の異世界人

7 女王の襲来

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女王を唯一とした母系社会とは違い、この社会は父権社会だ。
女王のピラミッドでは無く、タンポポの花のように家族が散らばっている。

ナヴァは賑やかな街が好きだ。
いってらっしゃいと送り出される父親と、見送る母親と子供が一つの単位になっている。
パン売りのおじちゃんと手伝う子供達も家族だ。
街を警邏する女騎士も、差し入れする青年も、ふわふわしたタンポポのようだ。
そのごちゃごちゃとした賑わいと楽しそうな喧騒がとても好きだ。

ある日はアオニアに抱っこされて。
ある日は隠密で気配を消してその人達の真ん中で。
ナヴァはワクワクした喜びの中で街を楽しんだ。


この世界に召喚されても、腹の底では女王への盲信と管理から脱せなかった。
そのナヴァが息をつけたのは、娘嬢様方から離れられたおかげだった。
娘嬢様は身分というものを明確に打ち上げてナヴァの精神を支配した。
ナヴァは自分の意思というモノを感ずる事なく静圧されていた。

そんなタガが外れた時、目の前には愛おしいと告げるアオニアだけが残った。
産まれたての雛のように、ナヴァはアオニアに傾倒した。

「相応しくない」
「美しくない」
そんな言葉はごもっとも過ぎて驚く事もない。
それでも抱き合った時の蕩ける満足感は二人だけのものだった。


その日は渋々出掛けるアオニアを見送って、いつものように隠密で離れにいた。
バタバタという乱れた足音が屋敷の方から近づいてくる。

「おやめ下さい‼︎」

早口な執事長の声を遮って、甲高い声が飛び交う。
ナヴァは恐れで身を翻すと、客間の隅に溶け込んだ。

バタン!

乱暴に扉が開いた。
侍女が力任せに押し開けたのだ。

カッカッというヒールが大理石を刻む音が近づく。

「で、何処?
アオニアの番というのは何処にいるの⁉︎」

少し低く、命令し慣れた声。
その声を聞いたナヴァはぎくりと身体を硬くした。

「此処にいるはずですわ」
「奥様ぁ。ですからいつもコソコソしてるんですよ」

ねっとりと甲高い侍女達の声の槍衾の中で、そのオクサマの声が大きく響いた。

「早く出ておいで!」

ピシリと鞭打つ声が、ナヴァの背骨を引き伸ばした。

「早く私の前においで‼︎」

無意識のうちにナヴァは奥様の前でひれ伏していた。
女王。
女王が命じている。
ナヴァはガタガタ震えながら、額を床に擦り付けた。

ふぅん。

頭の上で奥様が鼻を鳴らした。

「番が出来たと報告を受けたのに、未だ懐妊の報告が無いと思ったら…」

声が嘲るように揺れる。
こんなちっぽけなモノ、子供を作る前にこっちが子供じゃないの。
馬鹿じゃないのぉ。
わかんなかったのぉ?
やっぱり私がいないとダメなんだわぁ。

ナヴァは刻み込まれた服従の為に身動き出来ずに震えていた。
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