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家族の肖像
23 パパの戸惑い
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竜の寝床と言われる岩屋は、コロッセオのように真ん中に熱い砂場がある。
その天井は抜けていて、周りの岩山が覆い被さるようになっている。
昔の人が孵化の儀を見る為に刻んだらしく、観覧席のように段々になっている。
上空から陽がさして。
薄くなった魔素は発光する霞となって、卵の周りを漂っていた。
そこには沢山の候補生が、火蜥蜴の皮のブーツを履いてる立っている。
砂に立った、子供の背丈ほどもある斑らの大きな卵は今や小さく振動していて。
観覧する者も一声も発していなかった。
ルカは私と長男と一緒にその場にいた。
孵化の儀は滅多に無い。
竜の発情期は3年~4年おきだ。
しかも雌は希少だ。
だから自領の候補生の守備を見守る為に、あちこちから領主やその代理までもがやって来る。
飛竜達も岩山の上にずらりと陣取って、巻き起こるセレモニーを見守っている。
人も竜も、孵化して感合すれば生涯をともにする。
見守る者達も真剣だ。
雛が出ようとして中から殻を突っつくたびに、殻がビクビクと動いた。
砂よりも熱く候補生はそれを待ち望んでいる。
砂場の向かう側には、一段高くなった舞台の上で、黄金の大きな雌がじっと動かずに自分の卵の成り行きを見守っていた。
やがてメキメキと割れる音と、ぴぃぴぃという弱々しい鳴き声がこだまする。
見ている者達はごくりと唾を飲んだ。
私は殻から転げ出した青銅竜の仔を、半円の様にして候補生が取り囲むのを見た。
そのうちの一人は目を大きく見開き、そして蕩けるように笑って、自分の胸の辺りの仔竜の頭を抱き締めた。
あるいはせっかちそうな緑竜が、キョロキョロと辺りを見回し。
その行手にいた少年を叩きのめしてその体を放り出した上、わざと倒れた上を通過していった。
倒れて喘ぐ少年は、おずおずと近寄った黒竜と目を合わせて。
血と涙の中で花の様に笑って大丈夫だよと抱き締めている。
竜と人は感合して出会えた喜びで、見えない魔素と魔力が轟轟と辺りを揺るがせていった。
それは胸の中の奥深い所をゆるゆると満たしていく。
その場にいた者は感動で言葉もなく見守っていた。
やがて産まれた竜は、全てが対となった。
セレモニーが、喜びと共に終わりを迎えていく。
見ている者達も肩を叩き、祝いを言い合って笑顔が弾けている。
ペアを組んだ竜と人は拍手の中で孵化場から立ち去って行き、感合しなかった候補生も促されてその場から去っていく。
砂場には持ち主のいなくなった殻だけが転がって。
母親の黄金竜は、そのオパールの様な目を煌めかせながら静かに全てを見ていた。
~~孵化の儀が終わった。
儀式が事なく終わった安堵で、私はほっと体の力を抜いた。
「さぁ、終わったよ。帰ろう。」
抱き上げようとルカに近づいた時。
ルカは涙を流していた。
この竜と人との生誕と感合と愛が心を動かしたのか、と思った時。
ルカは痩せて尖った顎をあげて、こっちを睨みつけた。
「あの子を放っておくの⁉︎」
指差した先には、がたがた揺れる小さな卵。
そう、それは他の卵の半分くらいの大きさで。
割れた殻が倒れて、押し潰されて震えていた。
大きさから無精卵で、孵化は出来ないと言われていたものだ。
竜は自分で殻を破る。
そう出来ないものは、淘汰されていく。
その理は不条文としてあるのだ。
私の顔を読んで、ルカは小さくひぃっ!
と、息をのんだ。
「あの子は助けてって言ってる‼︎」
責めるように叫んだあと、伸ばした手をすり抜けて。
ルカはその場から砂場へと飛び降りた。
その天井は抜けていて、周りの岩山が覆い被さるようになっている。
昔の人が孵化の儀を見る為に刻んだらしく、観覧席のように段々になっている。
上空から陽がさして。
薄くなった魔素は発光する霞となって、卵の周りを漂っていた。
そこには沢山の候補生が、火蜥蜴の皮のブーツを履いてる立っている。
砂に立った、子供の背丈ほどもある斑らの大きな卵は今や小さく振動していて。
観覧する者も一声も発していなかった。
ルカは私と長男と一緒にその場にいた。
孵化の儀は滅多に無い。
竜の発情期は3年~4年おきだ。
しかも雌は希少だ。
だから自領の候補生の守備を見守る為に、あちこちから領主やその代理までもがやって来る。
飛竜達も岩山の上にずらりと陣取って、巻き起こるセレモニーを見守っている。
人も竜も、孵化して感合すれば生涯をともにする。
見守る者達も真剣だ。
雛が出ようとして中から殻を突っつくたびに、殻がビクビクと動いた。
砂よりも熱く候補生はそれを待ち望んでいる。
砂場の向かう側には、一段高くなった舞台の上で、黄金の大きな雌がじっと動かずに自分の卵の成り行きを見守っていた。
やがてメキメキと割れる音と、ぴぃぴぃという弱々しい鳴き声がこだまする。
見ている者達はごくりと唾を飲んだ。
私は殻から転げ出した青銅竜の仔を、半円の様にして候補生が取り囲むのを見た。
そのうちの一人は目を大きく見開き、そして蕩けるように笑って、自分の胸の辺りの仔竜の頭を抱き締めた。
あるいはせっかちそうな緑竜が、キョロキョロと辺りを見回し。
その行手にいた少年を叩きのめしてその体を放り出した上、わざと倒れた上を通過していった。
倒れて喘ぐ少年は、おずおずと近寄った黒竜と目を合わせて。
血と涙の中で花の様に笑って大丈夫だよと抱き締めている。
竜と人は感合して出会えた喜びで、見えない魔素と魔力が轟轟と辺りを揺るがせていった。
それは胸の中の奥深い所をゆるゆると満たしていく。
その場にいた者は感動で言葉もなく見守っていた。
やがて産まれた竜は、全てが対となった。
セレモニーが、喜びと共に終わりを迎えていく。
見ている者達も肩を叩き、祝いを言い合って笑顔が弾けている。
ペアを組んだ竜と人は拍手の中で孵化場から立ち去って行き、感合しなかった候補生も促されてその場から去っていく。
砂場には持ち主のいなくなった殻だけが転がって。
母親の黄金竜は、そのオパールの様な目を煌めかせながら静かに全てを見ていた。
~~孵化の儀が終わった。
儀式が事なく終わった安堵で、私はほっと体の力を抜いた。
「さぁ、終わったよ。帰ろう。」
抱き上げようとルカに近づいた時。
ルカは涙を流していた。
この竜と人との生誕と感合と愛が心を動かしたのか、と思った時。
ルカは痩せて尖った顎をあげて、こっちを睨みつけた。
「あの子を放っておくの⁉︎」
指差した先には、がたがた揺れる小さな卵。
そう、それは他の卵の半分くらいの大きさで。
割れた殻が倒れて、押し潰されて震えていた。
大きさから無精卵で、孵化は出来ないと言われていたものだ。
竜は自分で殻を破る。
そう出来ないものは、淘汰されていく。
その理は不条文としてあるのだ。
私の顔を読んで、ルカは小さくひぃっ!
と、息をのんだ。
「あの子は助けてって言ってる‼︎」
責めるように叫んだあと、伸ばした手をすり抜けて。
ルカはその場から砂場へと飛び降りた。
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