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溺れる者は藁をも掴む

13 夜会の余波

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ユアンは馬車の中で寝転がっていた。
馬車は基本の六人用よりも大きく。
ユアンが寝れるだけの広さがある。
長い旅路の為に、父上が特注してくれた物だ。

柔らかで弾力のある座面はクッションで誤魔化さなくても、振動でお尻が痛くなったりしない。
ついでと言うなら野営の為に、水を汲み置く桶の置き場もある。
長い移動を考えて、コンパクトな家のようになっていた。

さらに、カーテンを引くと中がのぞけない。
だからこの中でユアンが不貞寝していることは、生温い目で見ているパーシヴァルしか知らなかった。


今、ユアンはベンデン公爵領に向かっている。
もろ婚姻の儀の為だ。
顔も知らないおっさんと、書類でサインを交わして婚約した。
そして結婚する為に、馬車に乗っている。


それもこれも、あの夜会のせいだった。



だいたい、以前から釣書はスコップで寄せる程に来ていた。
父上の公爵という地位に擦り寄るものが少々。
そして大半はユアンの噂を間に受けて、身体目当てなのがひしひしと伝わってくる。

美辞麗句の下に潜んで"好きものを貰ってやる"だの"私なら満足させられる"だのと、()なになにと読み取れるように書いてくる訳で。

アホかぁ‼︎

他家への文書にナニ書いとんのじゃあ‼︎

ごらあっ!

と、いう、べたべたした気持ち悪い物が多かった。

もちろんそんなモノは侍従達が穴を掘って、火責め水責めで、呪詛を込めて土に還して来ていたが。
中には無視できないモノが一つだけあった。

それはあの茶会の第一王子だ。
あの幼い日。
ユアンの美貌に即イカれた王子は、
次の日に『不手際をお詫びしたい。』
と、申し出た。
もちろん保護欲の塊となった父上と兄上が陛下に『ウチの子、メンタルも体も弱いから無理!』と、根回しをして断った。

それからの攻防が幾星霜。

お茶の招待状が来る。
お断りを入れる。
そんな安定したお約束を続けて、細く細く静かに、王子の心からフィードアウトしようとしていた。

それが、あの夜会でユアンを見かけて再び火が付いたのだ。
なんとしても会う事が叶わないと悟った王子は、
『閨係にしよう!』
と、側近に宣言しやがった。

そう、あれから成長した王子は、噂もいいことに真っ直ぐユアンの体目当てだと斬り込んで来たのだ。

下衆ぃ。
腹立つほどに下衆ぃ!

引き篭もって出ていないのに、噂は一人歩きして、夜な夜な愛人と逃避行してるとなっている。
そうなると会う事も拒まれて、もう憎しみに似た執着だけが先走る。

側近の奴らも
『いいですねぇ♡じゃ順番で実技を教えて頂きましょう!』と、ありえない輪姦宣言できゃっきゃして、ユアンの父上の公爵は真面目に脳の血管が切れかけた。

しかもこの馬鹿王子は正妃の第一王子で、正妃の実家による派閥がどーんとある。
その勢力がざわざわと根回しをはじめやがったから、もう、大変‼︎

父上と兄上は、いっそ奴らを全滅させるか‼︎

おぅよ!

受けて立ってやるわぃ!

と、頭脳労働者らしからぬ血の気で逸った時。
その婚約の話が湧き出した。
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