ダークファンタジア番外編

ノクターン

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新作小話

火の神殿にて

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 火の神サラディンとガーベラ(ゆり)の間に双子の妖精ができた。ゆりはいまだ双子の姿を見ていないので、イシュタールに会ってきてもらって様子を聞いている。やんちゃで元気いっぱいの双子らしく、火の神殿はますます賑やかになっているようである。

 この日も、イシュタールは仕事が休みの上人間界は雨だったので、火の神殿にやってきていた。神殿に入るなり、盛大な泣き声が聞こえてきた。

「お父さん、もっと優しく言ってあげなきゃ」
「うーん、そうか。火を吹いたらだめでちゅよ」

 だめでちゅよ?

 サラディンのかわいい声が聞こえてきて、イシュタールはつい足を止めてしまった。

 だ、だめでちゅよ……ぷっだめだ。笑っちゃだめだ。耐えろ!


 イシュタールは自分に言い聞かせながらも肩を震わせていた。なんと強面のサラディンの口からこんな言葉が出るとは。

「ん? イシュタールか?」
 神殿の入り口に突っ立っていたらサラディンに発見されてしまった。
「はい、サラディン様こんにちは」
 イシュタールは気を取り直して広間に入った。
「今日はどうしたんだ?」
「向こうが雨だったので、ちょっと遊びにきました」
「そうか。いやはや、子供の相手は大変だな」
 
 だめでちゅよ……ちゅよ……だめだ。頭から離れない

 イシュタールは笑いをごまかすために女の子、スカーレットをだっこした。男の子の方はしゃかしゃかはいはいしまくっている。
「男の子の方が元気だよね」
 ルティアナが言った。
「私もこんなに小さく生まれてきたら面白かっただろうなあ。お父さんを困らせてみたかったな。うふふ」
「ばかを言うんじゃない。神はあまり小さく生まれてこないからな。ハロルドのところのは珍しいくらいだぞ。妖精だってこんなに小さいのは珍しい。どうしてなんだろうなあ」
 ゆりがかかわったせいなのかどうか、イシュタールにはわからなかった。

「でも、大人で生まれてきたら遊んだりできないよ。子供で生まれてきた方が面白いじゃない」
「こんなに小さくなくてもいいんだが」
 男の子フラムはルティアナと両手を握りしめて、ルティアナのおなかをキックしてくるくる回りだした。
「すごいすごい」
「足の力もすごいし、すぐにも走りそうですね」
 とイシュタールが言った。
「移動範囲が増えるのは困るなあ」
 サラディンは苦い表情である。
 
 広間に子供が入ってきた。イシュタールの子供バーナードであるが、バーナードはイシュタールを無視してサラディンに引っ付いた。
「パパだっこ」
「ん? ああ」
 サラディンがバーナードを抱っこすると、バーナードはサラディンにしがみついていた。
「なんか最近バーナードが私にまとわりついてくるんだ」
「きっと嫉妬してるんでしょう。サラディン様を新しい子達にとられたと思ってるんですよ」
「嫉妬? ふーん」

 スカーレットがじたばたしていたのでイシュタールはスカーレットをおろした。フラムはルティアナから離れた。双子ははいはいしながらそろって広間を出ていこうとしている。
「まてまてー」
 ルティアナがおいかけて、イシュタールも一緒に追いかけた。

 イシュタールはしばらく双子が遊ぶのを見守って人間界に帰った。そしてゆりに報告した。

「双子ちゃん、元気にしてるんだね。あの火の神殿に小さい子供が3人もいるなんてそれだけでも不思議。それにしても、『だめでちゅよ』って……サラディン、かわいい♪ 新たな魅力だわ」
 ゆりはサラディンが双子にそう言っている所を想像して、しばらく笑っていたのだった。

 
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