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新作小話

わくわくがとまらない(十一部59話)

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 (ようやく! ようやくアナスターシャ様に会えるんだ! しかもしばらくずっと一緒にいられるんだ。一緒にいろんなことができるんだ。楽しみだなあ……)

 アゼルのアナスターシャに対する妄想は大きく膨らんでいた。六の月が迫ってくると、もうどうにも止まらず、侍女達も苦笑するくらいである。

「なーんか、すっごく美化してないか? 大丈夫か?」
 カーライルはアゼルを心配していた。

「だがまあ、かしこまった女の子にしか会ったことがないと、ああいう王女が面白いと思ってしまうかもしれないなあ。なにせ性格は王妃譲りだからな」
「いいじゃないですか。裏表がなくて、朗らかで、楽しみだなあ」
フークスもどこか浮かれている。

 アナスターシャの部屋もばっちり整った。かわいらしい柄のベッドカバーがついている。

 5の月の終わりになり、アゼルは熱を出してしまった。
 熱は一日で収まったのだが、3日は部屋から出ないようにと言われてしまった。念のためである。
「え? アナスターシャ様が来る日に会えないの? そんな!」
 3日目の最後の日とかぶってしまうのだ。待ちに待った日に部屋から出ることができないとは。
「翌日には会えますよ」
「お出迎えができないなんてやだよ」
「3日は部屋から出られない決まりです」
 医者は意見を譲らなかった。これも、他人に病気をうつさないためである。

「アナスターシャ様がこの時代に来る大切な初日なのに。初日なのにー」
 アゼルはショックを受けてしまった。

「アゼルはそんなに落ち込んでおるのか? 姫のこととなると、はしゃいでしょうがないようだのう」
 女王はアゼルの話を聞いて笑っていた。
「すごく楽しみにされてますからねえ」
「フークスもであろう?」
「はい」
 女王と話をしていたのはフークスである。


「私も楽しみにしておる。カーライル殿によれば、姫が一番ゆり殿にそっくりらしいからのう。これはもう、楽しい毎日になりそうではないか」
「そうですよねえ」
「アゼルがそんなに姫を出迎えたいというのなら、いっそのこと魔法をかける日を二日ずらすか。ディランは未来に日取りの話はまだできていないのだろう?」
「ええ。そうみたいですね」
「なら、ずらしても問題はないであろう」
「なら5日にしますか」
「そうだの」
 こうして、魔法を使う日はずらされた。


「僕、その日は絶対元気でいるからね」
 アゼルは部屋で誓っていた。
「あまり興奮しないでください」
「わかってるよ」


「カール、そなたの意見は変わらぬのか?」
「変わりません」
 女王が何度聞いても、カールの未来に行きたい希望は変わらなかった。実は、女王は経験豊富な引退騎士の中から誰か未来に行きたい者がいないかと探したりもしたのだが、めぼしい者達は首を縦にふらなかった。皆家族や恋人がいるし、150歳にもなって冒険したいという者もそういないようだ。
 100歳くらいの女性に行ってもいいという者もいたのだが、

「女性はまずいかのう」
「女性はやめたほうがいいでしょう。ゆり様に恨まれそうです」
ディランが答えた。
「そうよのう。ハインリヒにはもう彼女もいるようだし、もめそうだのう」
「カールでいいではないですか。結構優秀ですよ」
「カールは若すぎるからちと不安だが……しょうがないのう。じいを一人でやるわけにもいかんし」
「ムサカ様もおもいきりましたねえ」
「本当にのう。全く、じいやが行くというのに、騎士達の情けないことよ」
 女王はぶつぶつ言い、ディランは苦笑していた。

「完全に元気になったよ。これでもう大丈夫だね。もう絶対熱は出さないから」
 アゼルは病から復帰し、ご飯ももりもり食べていた。
「絶対に大丈夫。アナスターシャ様に会えるのはうれしいけど、ムサカやへびっちにあえなくなるのは寂しいよ。ムサカ、絶対帰ってきてね」
 ムサカはアゼルにとっても「じいや」である。
「もちろんですぞ。帰ってきてから、殿下の成長ぶりをとくと拝見させていただくことにしましょう」
「うん」
 アゼルはムサカに抱きついた。

 5日朝、ディランはヴィラに会えたことを喜び、ムサカ、カール、そしてカーライルは様々な人と別れを惜しんで、未来へと渡った。かわりに、ぬっとやってきたのは茶色い模様がついた馬、かと思ったら背中に翼がある。ペガサスである。そしてアナスターシャも一緒にやってきた。

(アナスターシャ様だ! 本人だ!)
 ムサカやへびっちとの別れを悲しんでいたアゼルだったが、アナスターシャの顔を見て、笑顔になっていた。

 (わくわくする! わくわくが止まらない!)
 
 アナスターシャとの日々は始まったばかりである。


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