妖精王の味

うさぎくま

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12、友情のその上は

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 幸せいっぱいにキャラメルマキアートを飲みきった凛音は、改めて横でうずくまっているエティエンヌフューベルに感謝を伝える。

「エティエンヌフューベル様、ご馳走さまでした! 本当っっっっに美味しかったです!!」

「えぇ、ありがとう。そうよ、凛音は せいえ…キャラメルマキアートが好きなのよね」

「?? どうしてエティエンヌフューベル様がお礼を言うのですか?」

 感動から言葉が出ないエティエンヌフューベル。

 冷たくされても、人生でたった一人の運命の人が自分ではない誰か(屈強な狼獣人がいいらしい)を希望していても。
 精液酒キャラメルマキアートを最高に美味しそうに飲む姿は、やはり間違いなくエティエンヌフューベルの唯一だという答えになり、安心感をもたらす。

 この世界に住んでいるドーバらには、最早茶番でしかなく。溜め息が出るのは仕方なかった。

 エティエンヌフューベルが感動で震え悶えているのを視界に入れるのに飽きた凛音は、先程から気になっていた事柄を質問する。


「あの…ですね。ドーバ様とクリプトさんは熊の獣人で。グーリーン様とジャンさんは猫の獣人なんでしょうか?」

 皆がここでやっと気づく。凛音は何やらで興奮気味で隣に座るグーリーンをチラチラ見ながら、口元がふにゃふにゃしていた。
 視線が合わさったグーリーンが代表で質問に答える運び。

「凛音様の世界には獣人はいないのですか?」

「私の世界って!? 私がこの世界の人じゃないって分かるんですか!?」

 驚きから凛音の上半身は軽く、グーリーンから遠ざかる。なんの特徴もなく魔力ゼロの凛音は、どう考えてもこの世界の住人ではないし、この世界には度々異世界人が落ちてくるから珍しくはないのだ。

 珍しいものを見るように、今度はドーバが呆れたように話し出した。


「天草嬢。俺らは魔力や匂いで、だいたいの種族が分かる。無臭なのは妖精族くらいだが、同じく無臭の天草嬢は妖精族特有の翼がない、まっ、他にも特徴がまるで違う。分からない訳はないな」

「そうなのですね…。私のいてた世界に獣人はいませんでした。獣としては犬や猫もいましたが、言葉を使うのは皆種族としてはヒトのみです。
 架空の…あくまで想像の世界には、獣人というカテゴリーはありましたが、あくまで想像。いてたら素敵とはずっと思ってました!!」

 はじめはシットリした雰囲気の凛音だったが、話し出したら興奮してきたのか、声が大きくなっていく。


「ふふふっ。ドーバ様とクリプトさんは熊の獣人ですが、僕とジャンは大まかには猫ですが、種類では虎の獣人です。虎は凛音様の世界にいましたか?」

「キャァー!!! 虎!!いました!!いましたよ!! グーリーン様は 虎の獣人さんなんですね。パッドさんみたいな二足歩行の虎姿にも!?」

 目がキラキラとしていて可愛いが、エティエンヌフューベルの瞳が曇ってきているのを察したグーリーンは、話題を強制的に終わらそうとするが…。


「う、うん、まぁね。獣人は 四つ足の獣姿。二足の獣姿。半獣姿。そして今の人型。の四つに姿を変えるから僕も勿論二足の獣になれるよ。
 あの獣姿より人姿が体力使わないし力を温存できるから普段は人姿が多いね」

「この世界のこと。勉強してはいるので聞いてはいましたが、不思議です…」

 不思議、凄いと当たり前のことを感心する凛音に、グーリーンは ふふふっと笑う。

「そうかな? そこにいる凛音様の護衛、パッドだっけ?も、きっと寝る時は人姿だよ。護衛中だからあの姿。あれはわりと小回りがきいて、刀も持てるから二足獣姿は護衛業にぴったりなんだよ。
 凛音様、僕は人型だと可愛らしい姿だけど、本来の獣虎姿は驚くほど大きいよ。
 魔力量に獣姿の身体は比例するから、僕の国では僕が一番大っきいかな」

「ほぅ!!!ふぇーーー!!!」

 凛音が普通の事を、物凄く嬉しそうに受け答えをするから、グーリーンは話を切るつもりが自慢気に話してしまった。
 凛音の興味を惹きつけてしまい、エティエンヌフューベルの纏う空気が降下していき室内が若干熱くなっている。どうしたら凛音の興味をエティエンヌフューベルに、むけれるか?グーリーンは思考を巡らせ褒めどころを見つける。


「あ、あのね、凛音様。僕なんて大したことない!
 やっぱり一番美しく神々しいのは、妖精族特有の純白の翼だね!! エティ様が一番綺麗で大きいんだよ。いくら妖精族でも、空を飛べるほどの強さと大きさを持つ翼はエティ様だけだから。
 とてつもなく凄い事なんだよ!!!」

「うわっ、カッコいい!! エティエンヌフューベル様、素敵ですね!! 一緒に飛べたらいいのに~。私がだいぶ小さければいけたかな、残念」

 ソファーの横で百面相しているエティエンヌフューベルだったが、凛音の純粋な尊敬の眼差しにノックアウト。また息切れをしながら確信をもって未来を述べる。

「だ、大丈夫よ!!! 今はその、無理でも、近い将来、絶対に一緒に飛べるわ!! 約束するわよ!!」

 凛音のジトーとした瞳がエティエンヌフューベルに注がれる。

「り、凛音?」

「無理だと思います。飛ぶ云々までに、私の体重でエティエンヌフューベル様が潰れますよ」

「失礼ね、潰れないわよ!! 若い頃から身体は絞れるだけ絞って鍛えてるから、凛音くらい片腕で抱けるわ」

 二人の会話は全くと言っていいほど噛み合ってない。

 凛音は今のエティエンヌフューベルでしか想像出来ない為、この発言となる。しかしエティエンヌフューベルからすれば凛音から蜜液を貰った後は、絞りきった筋肉をまとう鋼のような肉体美をもてるだろうと確信がある。

 肉体を絞れは絞るほど女性として、メリハリのあり過ぎる圧感のボーディラインになっていく。
 女性として最高の肉体美をもつエティエンヌフューベルが男の性になれば、確かに全世界の女を落とせる美貌と肉体美をもつ見目になるだろうと、凛音以外の誰もが簡単に予想出来た。

 妖精族特有の両生具有。これを知らない…教えられていない凛音。

 実は男になったエティエンヌフューベルは、凛音が絶対いないと言っていた想像上の男性像の、さらにその上をはるかに超えるほどの恐ろしい美貌を披露するとは、この時の凛音は知らない。

 知ったら最後、快楽地獄突入なのだが、愛され過ぎる快楽地獄は凛音にはかろうじて…かろうじて幸せだから良かった。

 その近い未来を夢みるエティエンヌフューベルは、若干興奮気味だった。凛音の側により、ちょうどいい高さにあった凛音の両膝辺りのスカートをギュッと握り、懇願の瞳を向ける。



 スカートの柔らかい生地が、エティエンヌフューベルの小さくてすべすべな手の中に埋まっている。それを見て凛音は思う。

(「つるっと柔らかそうで、綺麗な手だなぁ…」)

 まるで作り物のようにエティエンヌフューベルは美しい。

 凛音は女性相手と恋愛したことはないが、異世界に来たのだしこれもありかと開き直る。赤ちゃんは諦めたらいいのだ、また来世があるさ。

 これまで付き合った男性らとエティエンヌフューベルは何が違うかと言われたら、性別が違うくらいしか思い当たらない。
 実は正直、付き合っていた男性らに思っていた「触れてみたい」や「抱きしめてみたい」を同じようにエティエンヌフューベルにも思っていた。
 本心は男性らしい体温の高い筋肉質な身体が凛音の好みではあるが、グラマラスなエティエンヌフューベルの身体も同じく興味があり、間違いなく最高の触り心地だろうと予想できた。


 膝の上に乗せられている、シミひとつないエティエンヌフューベルの手を人差し指で突いてみた。

「り、凛音? あ、あの、えっと、手が!?」

 突いただけなのに、エティエンヌフューベルは涙目だ。喜んでいるのだろう。こんな軽い触れ合いもエティエンヌフューベルとは頑なにしなかった。

 元いた世界でも、握手やハグは女性どうしの方がよくしたのに…だ。

 半年ぶりくらいに会う友達。「きゃー久しぶりー!! 変わってないねー凛音!」からのハグ。からの「あっいい匂いする? コンディショナー? 整髪料か!? めちゃくちゃいい匂いじゃん。どこのメーカー? 私も同じの買う!!」というくだりは結構あるあるだ。

(「私って、まるで意識しまくりの中学生か…」)

 自分を第三者から見るとかなり恥ずかしい。好きになっちゃいけない。ここに踏み込んだら終わりと勝手にエティエンヌフューベルに向ける恋心にブレーキをかけていたのだろう。
 惹かれないわけないのだ。凛音は物凄くフランス人形が好きだし、陶器で造られたドレスをまとった某有名ブランドの置物を何十万も出して購入していた。エティエンヌフューベルの見目は凛音が追い求める〝美〟そのものだった。


「……エティエンヌフューベル様の手は、陶器のお人形さんみたいですね。壊れないか心配です」

 そう笑いながら、凛音は小さな手を人差し指と中指ですくい上げ親指を上から挟む。エティエンヌフューベルの小さな手は凛音の指三本で持ててしまう。

「あっ、あ、あの、こ、こわれ? えっ、あぁ、あの手が、えっ?」

 はじめての触れ合いにエティエンヌフューベルは、まともに言葉を紡げないでいる。

「ほらっ、ちっちゃくて可愛い」

 遠慮がちにキュッと握ってくる凛音に、先程の嬉しさがかき消される。

「可愛いだなんて!! やめて!!!」



 カッ!!! と怒りに変わり、凛音を見上げる。見上げた先にあったのは、エティエンヌフューベルを優しく微笑みながら見つめてくる凛音。
 嫌悪感あらわや、悲しげや、鬱陶しく見られるのは珍しくない日常。

 本心を言えば愛しく見られたい。愛してると思われたい。それは無理だから「今は嫌われてもいい。男の性になれば思いは重なるはず。せめて瞳に私を映して」そう思い続けていた。
 いたはずなのに…凛音からの視線が今までと違い、漠然とした恐怖がおそってくる。

「…どうしたの? 凛音?」

 エティエンヌフューベルに対し、色々吹っ切れた凛音は溢れ出る想いを隠さない。

「どうもこうもないですよ。可愛いは失礼でしたか? 綺麗の表現が正しいですか?」

「違うわよ! そうではなくて、凛音? どっか痛い?吐き気でもする? 胸が苦しいの?」

 いつもと違う凛音は恐い。己の命より大切な人がどこか悪いのか心配になる。




 不安そうなエティエンヌフューベルに凛音の気分はさらに上昇していく。好きな人に心配されるのは嬉しい事なんだと気づく。

 かつて向こうの世界では、心配をしてくれるのは凛音の弱さをちゃんと理解してくれた家族と友人だけで。今まで付き合った男達は一度として、凛音の身体の心配はしてくれなかった。

 自分が風邪をひいたり、辛い時だけは凛音を必要としてくれたが、逆になると「仕事に差し障るから、会うのは控えるわ」と携帯にメッセージだけ残し数日間連絡がこないのは常だ。

 小さな心の機微にも気づいてくれるエティエンヌフューベルは、間違いなく凛音を特別に見てくれており、とても大切に思ってくれてるのだ。


「別にどこも苦しくないです。ほらっ、鼓動も通常です」

 凛音はそう話しながら、指三本で握っていたエティエンヌフューベルの陶器で出来たようなすべやかな手を、自らの胸に導く。
 触りやすいように少し前屈みになり、左胸の内側。そう心臓があるだろう場所にエティエンヌフューベルの手を置いた。



 むにょ。たゆんっ。

 エティエンヌフューベルの脳内に、今まで一度も聞いたことがない効果音が鳴り響く。

(「えっ!?」)声にならない。何が起こっているのか? 白昼夢でも見ているのか?

 自身が圧感のプロポーションをしていて触り心地抜群であっても、自分が自分の胸を触るのと、ただ一人の運命の人の肉体に触れる行為は似て非なるものだ。

 精液酒を先程絞れるだけ絞って出したのに、手から感じとった凛音の柔らかな胸の感触に震え喜ぶ身体が、再び精液酒を出そうとする。
 股から垂れ下がっている存在感たっぷりの長い棒が、意思を持ち硬く勃ち上がっていく。

(「あっんっ、いやっ! ダメ!! これ以上は痛いわ」)

 射精するに至り、もう出す液体がないはずの袋が強烈な伸縮で悲鳴をあげる。

「り、凛音! 分かったわ。手を離して!」

 真っ赤な顔とウルウルしたエティエンヌフューベルの瞳は、凛音に嗜虐心をもたらす。
 本当に嫌なら払いのければいいのにそれをせず、視線は可愛らしい小さな手で押しつぶされている、凛音の胸を凝視している。

「はい、手は離しますね!」

 やけにハッキリした凛音の受け答えは、エティエンヌフューベルに嫌な予感を与えた。そしてそれはまさに当たり。

 凛音はエティエンヌフューベルのいう通りに手は離した。離した瞬間、何故か両手がエティエンヌフューベルに迫ってくる。迫ってきた両手はガシッと両脇に挟まれ、なんと持ち上げられた。

 楽しそうな凛音の顔が悪魔に見える。

 子供のように持ち上げられる扱いに、悲しんではおれない。凛音は持ち上げたエティエンヌフューベルの身体を自らの膝に横向きに乗せ、茫然とするエティエンヌフューベルを抱きしめたのだ。

 むにょ。たゆんっ。とした凛音の両胸にエティエンヌフューベルの美顔が埋まる。幸せなのだろうが、突如舞い降りた性的触れ合いにエティエンヌフューベルの股間部は爆発した。



「キ、キャァーーーーーーーーーーーーーァーーーーーーーーーーー!!!」

 エティエンヌフューベルの絶叫が室内に響き渡った。


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