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5、聞いてない
しおりを挟む「ちょっと、ダリア。それは本当に?」
「はい、お母様。先程決まりました」
ダリアの無表情台詞に待ったをかけるのは、もちろんフェリックスだ。
風呂上りのままリビングに入ってくる。凛音は「うぁ、いい身体」と頓珍漢な感想を思っていたが、当の本人は知らぬ事。
「ダリア、俺はっ」
裸ではないが、もうそれに近い。家族だけなら構わないが、あの妖精王の伴侶凛音と子供のダリアがいる。
ハクリは気が動転している息子の肩を押さえつけながら、リビングから退出させる。
「話は後だ、フェリックス、見苦しいなりで凛音やダリア様の前に立つな」
フェリックスとハクリはリビングから出ていった。
「…えっと、夕食も一緒にいかがかしら?」
「は、はい!ルルさん、ありがとうございます。私も手伝います」
逃げるように凛音とルルは台所に入っていく。一人取り残されたダリアは邪魔にならないように、最初に定められた場所の椅子に座る。
間違いなくダリアが悪い。好かれているかも微妙なところで嫌われてしまったかもしれない。
それでも勝手に宣言した事は後悔しない。二年間、ずっと待った。一日何度も何度もフェリックス様を思い出しては、幸せに浸っていた。
小さな出会いを繰り返し繰り返し、それも繰り返し過ぎて擦り切れてしまった。
(フェリックス様は、もうすぐご結婚される。隣国のお姫様か、香水の女性か、結婚されたら、もうお姿も探せない。
狼種は妖精族と似て、伴侶以外は愛さないのだから。もう会うのも無理になる。思い出が欲しいから、私は悪くないわ)
剣の稽古をして、お酒を飲んで、そんな関係になりたい。今でもダリアはそう思う。
でも何か違う。何か違うと私でない誰かが必死に唱える。
ダリアはまだ恋に気づかなかった。
***
強引にリビングから引きずり出されたフェリックスは、肩をつかむ父の手を払い除ける。
「着替えてくる」
「フェリックス」
「だから着替えるから」
「違う、ダリア様は駄目だ。無理だと分かれ」
父ハクリの言いたいことは理解した。フェリックス自身も間違いなく理解している。何も間違いは起きてないし、起こす気はない。
しかし頭ごなしに注意を受けると、腹に黒い心が湧き上がる。
「言われなくても無理だと分かっているよ」
「勃起しながら言われても、何の説得力もないからな」
意味不明な言葉のラリーで下半身の事情までフェリックスは気づかなかった。さっきのダリアとの戯れで、陰茎の形状がはっきり分かるまで勃ちあがっていたのだ。
気づいたのはハクリだけだったのが幸いだ。
「……お前は薔薇いばらの道が好きなのか? 今のお前は、それはもう男達から刺されるくらい、いい女を選び放題だぞ。
理解してるか? ダリア様は、あの妖精王の子供で、男になると宣言している。またなんでそんな難攻不落に挑むんだ?」
「伴侶でなくても…友人でも、いい…」
フゥーー。ハクリの溜め息が出て、それをフェリックスは睨む。
「友人でいいなら、よい友人になるんじゃないか?ダリア様はそれは目の覚める美男子になるだろうから、お前と並ぶと敵なしだろうな」
「そう、ですね」
「否定しろ」
「父さん。俺の子供は諦めてくださいね。孫はスカーレット(妹)に頑張ってもらって。…俺は…きっと、一生伴侶はもてない」
「了解したよ」
フェリックスは父の返答を聞き、二階に上がる。言わされたようになったが、それが真実。
自室に入りブラウスを着用し、まだ軽く勃起状態の下半身はより厚手のトラウザーズで押しつぶす。
(友人だって、奇跡みたいなものだよね。慕ってくれているのは、間違いないだろうし。
近所の悪ガキからの尊敬と一緒は寂しいけど、仕方ないな…)
フェリックスは強くなりたいと宣言するダリアに、付き合おうと開き直った。
「先ずは休みを申請に行こうかな。頑張れば5日間くらいなら休みを取得できるかな」
なるほど一番の親友のポジションは空席のままだ。凛音様も母であるルルを親友だと言っているではないか。
それも充分奇跡で間違いない。
***
カラン、カラン。
「はぁーい」元気よく返事し、玄関に向かうルル。扉を開けて、はい硬直。
きっとエティエンヌフューベル様だろうと確信あった凛音は、ルルを追いかけて玄関に向かう。
リビングと玄関は繋がっている。
「あら、お父様。思ったより早いですね」
「………」
無言で我が子を睨むエティエンヌフューベルだが、ふわっと抱きついてきた凛音によってダリアとの睨み合いは終わる。
「お迎えありがとうございます」
「楽しんでいるみたいで良かった」
微笑み合う両親をガン無視し、ダリアはそのまま身体を戻してきっちり椅子に座る。
座る姿勢も素晴らしいし、動かないから精巧な人形で間違いない。
硬直から溶けて、料理に戻ったルルに目配せし、小声でエティエンヌフューベルと凛音は会話する。
「エティエンヌフューベル様、ダリアに握りしめられた場所は大丈夫ですか?」
「……辛うじてな」
「まだ痛みます?」
「…多少はな」
思い出したのか、若干腰が引けている。笑ってはいけないのだろうけど、笑いたくなる。
あの妖精王で、紫炎を操り、天災レベルまでの魔力があっても、こんな小学生レベルの物理的攻撃に敗北するとは、案外弱点は身近にあるのだと。
「……凛音、笑うな」
「ぷぅふ、笑ってないですよ」
「凛音」
静かに座っていたダリアが小声でも聞こえたのか、参戦してくる。
「お母様、どれだけお父様が強くても、視点を変えれば弱点は分かるものです。お父様ほど大きければ場所はだいたい把握できますので、簡単に潰せますわ。
そう、とくに股間潰しは男に有効です。お母様、万が一襲われた場合には狙うべきです」
「……そう、ね。ありがとうダリア」
エティエンヌフューベルは握りしめられた場所が、再度ヒュンッとなり、痛みがぶり返す。凛音は当然一度も持った事がないパーツだから、痛さは分からない。
そんな小さなバトルが終わったくらいで、ルルが夕食ができたと呼びにきた。
「…夕食は、いかが致しますか?」
ルルは一応聞く。
先程凛音からエティエンヌフューベル様が来られたら私は帰ると直接聞いた。
そしてシェルバー王国に残ると息巻いているダリアには、夕食を振舞って欲しいと凛音は頼んでいた。
お粗末な演技だが、ダリアは天然だから気付かない。
「エティエンヌフューベル様が来てくれたし、私は帰るわ。ダリアはどうしたい?」
「……街スータの近くにあるお母様閉じ込め専用部屋の家に帰ります」
家の名前がおかしいし、かるくエティエンヌフューベルをディスっているが、誰も突っ込まない。
ダリアは基本的にエティエンヌフューベルには攻撃的で、容赦ない。
「…分かったわ。ダリアはしばらくシェルバー王国にいるのね」
「はい、7日間滞在し帰ります」
どういう事か?とエティエンヌフューベルは視線を凛音に送っているが、凛音は微笑むだけで「また後で話すから」と目で伝える。
親(凛音)が帰るのに、あつかましく夕食を食べる気はダリアにはない。常に無表情だが大変常識ある子だった。凛音もそこは自信を持って言えた。
話がまとまったみたいで、ルルは再度ダリアに提案する。
「ダリア様、あの家には食料が何もないです。凛音と妖精王は帰られますが、是非ダリア様は一緒に夕食をどうぞ」
無表情だが、頬が薄っすら赤い。極端に色白だからこそ赤いのが目立つのだ。
「ルル様、ありがとうございます。とても嬉しいです」
少しだけど、ほんの少しだけど、ダリアは笑った。
口元は小さく口角を上げた程度だが、その薔薇色に染まる頬と少し伏せられた目蓋、全てが完璧な微笑だった。
両親さえも初めてみるダリアの表情に釘づけ。ダリアだけは最高に幸せいっぱいだった。
(フェリックス様と、お食事が出来るのね。ハクリ様、ルル様、フェリックス様、ご家族の中に私も入れて頂けるなんて…最高の思い出になりますわ)
ハクリがリビングに戻ってきて、それが合図となったのか、ダリアは無表情に戻った。
あら?気のせい?と思われたダリア。彼女の恋はまさに今、花開こうとしていた。
蕾が長かった分、咲くのは大輪の花。
尊敬する大好きな人、いや、伴侶フェリックスの側にいる事はどれほど幸せを感じ、泣きたくなるほど切なく苦しいのか、ダリアは初めて理解する。
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