悪役令嬢だって恋をするーラシェルとアベルの邂逅ー

うさぎくま

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7、気持ちの重さ

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 ラシェルの顔を見れない。

 アベルのラシェルへの感情は、まさしくヴィルヘルからティーナに向ける感情と全く同じ。気づいた時は喜びより焦りだった。

 ラシェル以外には、ほぼ病的に反応しない下半身のブツはいっそ見事と言えよう。


 メルタージュ侯爵家の当主であり宰相のソードと、ボルタージュ元王女(ヴィルヘルムの実姉で降下して妻になった)クラリスの長男クレール。

 同じ年齢で従兄弟となれば仲良くなるのも当然であり。

 二人でまだ独身者だった叔父であるヴィルヘルムを追っ掛けては、相手をしてくれと金魚の糞ごとく側にいた。


 ヴィルヘルムが無事にティーナと夫婦となり、子供が産まれるくらいには、アベルもクレールも子供の領域から少しずつ出ていた。


 アベルは実の姉とはあまり遊んだ記憶がない。クレールにも双子の姉がおり、姉が姉達でかたまるから。弟は弟らでかたまるといった具合。


 自然とアベルとクレールは仲が良くなった。

 であるから、アベルの世界に女の子は存在しない。

 それが突如現れた可愛い赤ん坊。綺麗なヴィルヘルムとティーナのいいとこ取りの赤ん坊は、アベルを夢中にさせた。

 ラシェルには伝えてないが、入浴からオムツ替え、ウンチの正しい拭き方までアベルは網羅し、皆が呆れるほど嬉々としてやったのだ。

 もう気分は父親…にはならず、俺だけの嫁になっていた。


 ラシェルがおませな口を聞く頃には、ちょっとこれは危ないのでは? と周りが不安になり、意識的にアベルをラシェルから離した。

 これには、だいぶアベルも反発した。


 最終は父であり国王であるウェルナーが『従兄妹なら結婚は出来る。ラシェルに認められるような男になれば、自ずと叶う』と宣言(諦めて)した結果が《今》だ。

 もちろんアベルも、憧れの叔父であるヴィルヘルムと同じく、騎士の称号は欲しかった為、同じように身分を偽り騎士の学校に通い、身体と精神を鍛え上げた。

 暇(休暇)を貰えれば、ラシェルに構うのも忘れない。

 当然、見目麗しい魅力たっぷり(とラシェルには見えている)のアベルに、物語大好き女の子のラシェルが懐くのは当たり前となった。


 ***


 幼いラシェルには魅力的なアベル達だが、騎士見習いのメンバーだけになれば耳を覆いたくなる言動が飛び交うのは必然。

 精力過多の青少年ばかり集まれば、決まって話題は〝女〟の話になる。


 ボルタージュ騎士になるためには、十歳から学ぶのが基本であった。


 門扉は広く、基本誰でも入団できる。生活に必要なモノは全て支給される為、入団する場合は必ず身一つで来る。よって、貴族や一般人などは関係なく実力主義。

 騎士は国の宝とされているので、衣食住にかかる費用は全額、国が持つ。騎士に入団した者は家元から離され、全ての生活を騎士仲間で行うよう義務付けられている。

 無論、ローテーションでひと月に一度程度は休日が二、三日貰えるので、自宅に帰れるもよし、恋人がいる者はいちゃついてもよし、という事だ。

 騎士見習いは、掃除、洗濯、料理、全てを行う。

 朝早く起き基礎の身体作り、昼は勉学、それが終われば実践演習という日々、耐えられなく潰れていく者も多く。
 だからこそ、ボルタージュ騎士の称号を手に出来たものは、皆から一目を置かれ、賞賛があるのだ。



 《休暇を終えた騎士見習い達の休暇所にて》


『皆、おぅー!! 久しぶり!! 休暇、最高だったぁぁぁぁぁぁー!! 女最高!!!』


 黒髪短髪、輪郭は四角く鼻は低めで団子鼻、身体の体毛は毛深く、ザ男。
 身長もアベルには負けるが、仲間たちの中ではある方で、一般的に男らしい男のルベルは、清々しいほどオープンに女好きだった。

 身体をクネクネさせながら前夜の行為を思い出している。


『良かったな、ルベル』

 さらりと返されるアベルの発言に、ルベルは至近距離まで近づいて一言。


『なあ? アベルは娼館にいかないのか?』

『いかない』


 間髪入れずのアベルの発言にワラワラと皆が寄ってくる。
 長身でしなやかな肉体をもち、全てのパーツが一級品。混じり気のない金色の髪に金色の瞳、誰よりも何よりも、キラッキラッしい美貌を振りまくアベルの恋事情は誰もが興味津々だ。


『女はいいぞ? 柔らかいんだぜ? 穴、とくに穴は最高だぞ!!』

『ルベルさ、アベルはこの見た目だぞ? 引く手数多だからさ、娼館なんていかずとも、街で一番の可愛子ちゃんを難なくゲットさ、なっ!!』

 皆が『なっ!!!』と同意らしきものを求めてくるから、アベルはあきれながら正直に答える。


『俺はラシェ…じゃなくて。好きな人がいるんだ。彼女以外には興味がない』

『なんだ、やる事やってんだ』

 皆がやっぱりか、と残念顔だ。

『アベルだもんな、こんな色男そうはいないし。頭脳明晰、顔いい、身体いい、性格いい、悪いとこ一つもないもんなぁー』

『神様は不公平だよな!』


 皆が皆、言いたい放題で、アベルはそれをシラーと聞いていたが、嘘はつかない。嘘をつく気もなければラシェルを愛している気持ちを隠す気もない。


『いや、俺はまだ童貞だ。性体験はない。もちろん自慰はしてるが』

 ざわざわガヤガヤの食堂が、シーーーーンと静まりかえる。


『い、いや、いや、いや、それは冗談か?? 新手の冗談か!?』

 目を向いて話す友人のルベルへ一言。

『冗談? 事実だ。彼女は7歳だし。口づけは会えば結構するが、本番は無し。その代わりにいつも局部を触ってくれる。
 彼女は結構手淫が上手いからな、充分満たされているし。それで射精はするが、流石に最後までは出来ないだろう?』

 血の果てまで皆がドン引きしたのは当然だった。『えぃーい、ロリコン!!』などと死んでも言えないし笑えない。

 一番の年長者でありまとめ役のスルガが、至極真面目な顔でアベルに詰め寄る。


『おい、それ犯罪だからな』

『? 同意の上だし、基本俺からは一切触らない。彼女が俺の身体で触りたい場所を好きに触るんだ。
 別に犯罪にはならない。将来は彼女と結婚するつもりだし問題ない。
 それに…彼女の肌は柔らか過ぎて俺からは恐くて触れない』

 思い出すように、うんうん考えているアベルに、更に皆が引いていく。

 ゴーン、ゴーン、ゴーン。

 授業の予鈴が鳴り、話は終わった。

 この後から誰もアベルの前で女の話をしなくなった。
 そして文学系に進んでいたクレールは、これを他者から聞いて一言。


『アベル、気持ち悪いからね。正直に言う必要はないよ』

 幼い頃から知る親友さえも、アベルの重過ぎる想いを聞いてドン引きする始末だったのだ。


 ***


 己のラシェルへの想いは、ちょっと歪んでいるほど重いと。大人になり他国へ留学などの経験をへて、やっと異常と自覚した。

 自覚はしたが、やめれない。そう簡単にやめれたならば、早い段階で美女美男のハニートラップに引っかかっている。

 実の父にも、「流石にその年齢で全く女を知らないのは、ちょっと…後腐れない女、商売女は嫌か?」と呆れたように話された事もある。

 当然アベルは同意しかねるので結構です。と、ドス黒い怒りを父に本気で向け、ヴィル叔父上が止めに入るという事件もあった。


(ラシェルは俺の想いを聞いて、どう思う?)


 次の言葉を知らぬからか、満面の笑みを浮かべアベルを見つめているラシェルに胸がキリキリと痛む。

 それでも待ちくたびれたのか、視線はアベルにヒタと合わせたまま、先程離れた分ラシェルは近づいてきた。

 二人の隙間は埋められた。

「………俺は」

「はい!」

 アベルは懺悔の気持ちだが、ラシェルの元気よく笑顔の返事。この笑顔を生涯みれなくなるかもしれない、気持ち悪いと言われ話す機会も奪われてしまうかもしれない。

 そしてアベルから逃げる為に、いや普通の淑女としてどっかの知らない男の元に嫁ぐのだろう。

 ボルタージュ国から出て他国に嫁いだら、生きていても会う機会はほぼなくなる。


「俺はラシェルを愛している。ラシェルが思う可愛らしいものじゃない。
 もっと重い、ドロドロと激しい…汚い底無し沼みたいなものだ…」


 ガッツポーズ!!! あくまでラシェルの脳内では。

(きたぁぁぁぁぁー!!!いひょぉぉぉーー!!! まさしくお父様みたいなのよね!?やったぁぁぁー!!! 
 いや、私。喜ぶのはまだよ、まだ。アベルお兄様、お父様をリスペクトし過ぎて感情面まで似たみたい!! グッジョブお父様!!)

 アベルの話す底無し沼感情は、お父様がお母様を想う気持ちくらい重いって事か確認、これが最優先事項。

 喜び踊りそうなラシェルは冷静さを装い、あくまで「ふーーーん」という表情を貫いた。



「底無し沼? なんだか暗そう。お父様みたいね!」

「……」

(黙った…ビンゴか!? 下を向いてるから表情が見えない!!)


「アベルお兄様?」

「すまない!!」

 ソファーにめり込むほど頭を下げられた。

(何も悪くないし、これっぽっちも謝る必要ないのにぃー。思い悩んで、たくさん悩んでくれて、それで最後は私を選んで欲しいって思ってたから。
 意地悪し過ぎた? 浮気してそこらじゅうに子供を作る下シモゆるゆる男より、私は行き過ぎた愛のが嬉しいんだけどなぁ。
 しょうがないなぁ、それは…おいおいね)

 まだ頭を下げ続けるアベルの頭を両手で挟み、ラシェルの願い通りに発育したふわんふわんの胸の谷間めがけて埋めた。


「アベルお兄様、謝らないでください」

 優しい声を耳が拾う。それよりも、巨乳に顔を埋めている現状にアベルの脳がついていけない。


(頬に、額に、鼻に、唇に、ラシェルの胸が!? どうなった俺は!? 天国か!?)

 アベルの脳は大混乱の極みだった。



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