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41、アレンの特技
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「……ねえ アレン。ナシルもお兄様も遅くない? 大丈夫かしら?」
先ほどまでの可愛らしいエルティーナの顔が一気に暗くなる。
「エルティーナ様、大丈夫です。もう来てますから」
アレンの淡々とした声が耳にはいる。
「えーー!?」
エルティーナは叫びながら、開いている扉に走っていき廊下に顔を出す。
「うん??」そこにはアレンの言うように、お兄様とナシルが壁を背に立っていた。
「 ナシル?? お兄様?? も、ここで何をしているの?? 待っていたのよ。
…ナシル……ドレスをそんな力一杯に握りしめていたら皺になって着れないわよ……? でもいいわ。今のドレスで大丈夫だし! パニエを着るのは手伝って。それより、髪の毛を見て可愛いでしょ。ふんっ」
先ほどの会話の全てを聞いていたナシル。涙は拭いたが目は腫れているだろうと思いながらも、エルティーナを無視する事も出来ない為に顔を上げる。
ナシルは哀しかったのだ。涙を流し、重ならない二人を思い……。しかしそれはエルティーナを見て吹っ飛んだ。
「なっ!? はっ!?」
エルティーナは、驚くナシルの前でまたドレスの裾を掴みフワッと一回り。
「どう? 可愛いでしょ!!! お母様のティアラみたいでしょ!! 全部私の髪の毛なのよ。見て見て凄いでしょ。たくさん編み込んでいるのに、ちっとも頭が痛くないのよ!! これはね、アレンがしてくれたのよ!! 凄いでしょ!! 流石アレンだわ。ふふふ 可愛い?」
よほど嬉しいのか、エルティーナはもう一回りしている。
ナシルのしんみりしていた気持ちは何処へやら。エルティーナの髪型を見て、あまりの美しく繊細な出来に驚愕。長く侍女頭をしていて、若い子達の教育も受け持つナシル…。
優秀な子達も数多くいるが、これほど人の髪だけでドレスに負けない存在感を出せる髪結いの人は見た事がない。
ナシルは、アレンを見る。
今度はターゲットを変えたのか、嬉しそうにレオンに見て見てと擦り寄っているエルティーナを、極上の微笑みで眺めていた。
(アレン様は、何ものだ……?)
ナシルは怪訝そうな顔でアレンを見つめた。侍女としてのプライドがあり、エルティーナの髪型を手放しで喜んであげれない。
「ナシル!! パニエを着るの手伝って!!」とエルティーナは可愛く手を握ってくる。
侍女とは口をきかない、目をあわせない、人とは思わない、そんな隣国の王女の噂を聞くたびエルティーナと比べ誇らしくなる。
王女として、本来このような行動は注意をしなくてはいけないが、エルティーナの可愛いこの手を離したりはナシルには決して出来ない。
「はい 参りましょう。エルティーナ様」
ナシルは、破顔しながらエルティーナに手をひかれ部屋の中に入っていった。
バタン。
美しい花々が彫り込まれた重厚なドアが静かに閉まる。エルティーナを待つレオンとアレンは、壁に背を向けて楽な姿勢をとった。
アレンと二人きりになり、レオンは先ほどの衝撃的な出来事をどうしても確認したかった。
「…アレン。髪結いなんて技術どこで習ったんだ…。ナシルの目が驚愕に見開いていたぞ」
「別に習ってはない」
「……今まで付き合った女にしてたのか? お前は器用な奴だと思っていたが、あれはヤバいな。エルの侍女達より数段上手いぞ」
「付き合った女をさわるのは髪ではなく身体だ。香油を塗りたくった悪臭がする髪を触る趣味はない。必要もないし興味もない」
アレンの恐ろしくクールな発言。エルティーナとアレンのセットをこの頃長く見ていて、二人を恋人!? っぽく思っていた。
だから忘れていたが、昔からアレンはこういう奴だった。今までのアレンのたくさんの恋人を思い描き、溜め息がでる。
女に全く不自由しないアレンが、エルティーナを相手にする訳がない。夢みがちなエルティーナは一番面倒くさいタイプだからだ。
夢を描いている女ほど、高飛車で扱いにくいものはない。
(エルはやはり…ないな……。少し行き過ぎている感はあるが、アレンにとってエルは妹…もしくは娘…。娘が一番しっくりくるな)
レオンは心の中で強制的に答えを出し、考えを終わらせた。
「まぁ、そうだな。俺も、髪より身体の方が興味ある。基本、髪は長くても短くても構わないしな。
しかし他の女にしてなくてよくあれ程、凝った髪型ができたな?」
「エルティーナ様の頭をいつも見ていて、こうしたら可愛いのにな…と考える事は多いからな。自然にできた」
「…………そう……か…」
アレンの言動に何故か背筋が凍る……。
ガチャッ。
ドアノブが音を立てる。そしてゆっくりと重厚なドアが押されていく。
「アレン! お兄様! お待たせしました」
まだ嬉しいのかエルティーナはふわふわしている。レオンもアレンも、可愛らしい顔に毒気を抜かれた。
幸せそうなエルティーナの顔はアレンにとって胸が高鳴る。この笑顔を護る為に生きていきたい……そう思う。
アレンはエルティーナと会う度に何度も恋に落ち、想いが溢れ、愛しさがましていく。
「エルティーナ様、喜んで頂いて嬉しく思います。他に試したい結い方もあるので、また挑戦させて下さい」
アレンは、万感の思いを言葉に乗せる。生涯エルティーナに決して言わない……「貴女を愛しております」と言う気持ちを込めて。
「はい! よろしくお願いします」
エルティーナの声を聞いて瞳をみて、アレンはエルティーナと微笑み合う。
フリゲルン伯爵家に入ったら、エル様の髪はずっと私が結うのも悪くないなと、アレンは未来を少しだけ楽しみに思う。
「では、行くか。ナシル、晩餐の後はエルを頼むな。それまでは少しだけだが休んでいてくれ」
「かしこまりました」
レオンはナシルに言葉を残し、アレンとエルティーナと共にグラハの間に向かう。
朝に聞くはずだった国王の〝良い報告〟を聞く為に。
先ほどまでの可愛らしいエルティーナの顔が一気に暗くなる。
「エルティーナ様、大丈夫です。もう来てますから」
アレンの淡々とした声が耳にはいる。
「えーー!?」
エルティーナは叫びながら、開いている扉に走っていき廊下に顔を出す。
「うん??」そこにはアレンの言うように、お兄様とナシルが壁を背に立っていた。
「 ナシル?? お兄様?? も、ここで何をしているの?? 待っていたのよ。
…ナシル……ドレスをそんな力一杯に握りしめていたら皺になって着れないわよ……? でもいいわ。今のドレスで大丈夫だし! パニエを着るのは手伝って。それより、髪の毛を見て可愛いでしょ。ふんっ」
先ほどの会話の全てを聞いていたナシル。涙は拭いたが目は腫れているだろうと思いながらも、エルティーナを無視する事も出来ない為に顔を上げる。
ナシルは哀しかったのだ。涙を流し、重ならない二人を思い……。しかしそれはエルティーナを見て吹っ飛んだ。
「なっ!? はっ!?」
エルティーナは、驚くナシルの前でまたドレスの裾を掴みフワッと一回り。
「どう? 可愛いでしょ!!! お母様のティアラみたいでしょ!! 全部私の髪の毛なのよ。見て見て凄いでしょ。たくさん編み込んでいるのに、ちっとも頭が痛くないのよ!! これはね、アレンがしてくれたのよ!! 凄いでしょ!! 流石アレンだわ。ふふふ 可愛い?」
よほど嬉しいのか、エルティーナはもう一回りしている。
ナシルのしんみりしていた気持ちは何処へやら。エルティーナの髪型を見て、あまりの美しく繊細な出来に驚愕。長く侍女頭をしていて、若い子達の教育も受け持つナシル…。
優秀な子達も数多くいるが、これほど人の髪だけでドレスに負けない存在感を出せる髪結いの人は見た事がない。
ナシルは、アレンを見る。
今度はターゲットを変えたのか、嬉しそうにレオンに見て見てと擦り寄っているエルティーナを、極上の微笑みで眺めていた。
(アレン様は、何ものだ……?)
ナシルは怪訝そうな顔でアレンを見つめた。侍女としてのプライドがあり、エルティーナの髪型を手放しで喜んであげれない。
「ナシル!! パニエを着るの手伝って!!」とエルティーナは可愛く手を握ってくる。
侍女とは口をきかない、目をあわせない、人とは思わない、そんな隣国の王女の噂を聞くたびエルティーナと比べ誇らしくなる。
王女として、本来このような行動は注意をしなくてはいけないが、エルティーナの可愛いこの手を離したりはナシルには決して出来ない。
「はい 参りましょう。エルティーナ様」
ナシルは、破顔しながらエルティーナに手をひかれ部屋の中に入っていった。
バタン。
美しい花々が彫り込まれた重厚なドアが静かに閉まる。エルティーナを待つレオンとアレンは、壁に背を向けて楽な姿勢をとった。
アレンと二人きりになり、レオンは先ほどの衝撃的な出来事をどうしても確認したかった。
「…アレン。髪結いなんて技術どこで習ったんだ…。ナシルの目が驚愕に見開いていたぞ」
「別に習ってはない」
「……今まで付き合った女にしてたのか? お前は器用な奴だと思っていたが、あれはヤバいな。エルの侍女達より数段上手いぞ」
「付き合った女をさわるのは髪ではなく身体だ。香油を塗りたくった悪臭がする髪を触る趣味はない。必要もないし興味もない」
アレンの恐ろしくクールな発言。エルティーナとアレンのセットをこの頃長く見ていて、二人を恋人!? っぽく思っていた。
だから忘れていたが、昔からアレンはこういう奴だった。今までのアレンのたくさんの恋人を思い描き、溜め息がでる。
女に全く不自由しないアレンが、エルティーナを相手にする訳がない。夢みがちなエルティーナは一番面倒くさいタイプだからだ。
夢を描いている女ほど、高飛車で扱いにくいものはない。
(エルはやはり…ないな……。少し行き過ぎている感はあるが、アレンにとってエルは妹…もしくは娘…。娘が一番しっくりくるな)
レオンは心の中で強制的に答えを出し、考えを終わらせた。
「まぁ、そうだな。俺も、髪より身体の方が興味ある。基本、髪は長くても短くても構わないしな。
しかし他の女にしてなくてよくあれ程、凝った髪型ができたな?」
「エルティーナ様の頭をいつも見ていて、こうしたら可愛いのにな…と考える事は多いからな。自然にできた」
「…………そう……か…」
アレンの言動に何故か背筋が凍る……。
ガチャッ。
ドアノブが音を立てる。そしてゆっくりと重厚なドアが押されていく。
「アレン! お兄様! お待たせしました」
まだ嬉しいのかエルティーナはふわふわしている。レオンもアレンも、可愛らしい顔に毒気を抜かれた。
幸せそうなエルティーナの顔はアレンにとって胸が高鳴る。この笑顔を護る為に生きていきたい……そう思う。
アレンはエルティーナと会う度に何度も恋に落ち、想いが溢れ、愛しさがましていく。
「エルティーナ様、喜んで頂いて嬉しく思います。他に試したい結い方もあるので、また挑戦させて下さい」
アレンは、万感の思いを言葉に乗せる。生涯エルティーナに決して言わない……「貴女を愛しております」と言う気持ちを込めて。
「はい! よろしくお願いします」
エルティーナの声を聞いて瞳をみて、アレンはエルティーナと微笑み合う。
フリゲルン伯爵家に入ったら、エル様の髪はずっと私が結うのも悪くないなと、アレンは未来を少しだけ楽しみに思う。
「では、行くか。ナシル、晩餐の後はエルを頼むな。それまでは少しだけだが休んでいてくれ」
「かしこまりました」
レオンはナシルに言葉を残し、アレンとエルティーナと共にグラハの間に向かう。
朝に聞くはずだった国王の〝良い報告〟を聞く為に。
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